医師という職業は、従来「開業すれば一生安泰」とされていました。しかし現在では、医療費の減額や人材不足…

※画像はイメージです/PIXTA
医師という職業は、従来「開業すれば一生安泰」とされていました。しかし現在では、医療費の減額や人材不足、昨今の物価高などを背景に、多くの病院・クリニックが経営難を強いられている状況です。そこで、クリニック開業後に後悔を抱かないよう、開業を検討する医師が考えておきたい「診療コンセプト」と「開業地選定」の重要性について、グロースリンク税理士法人の税理士・医療経営コンサルタントである野田智成氏が解説します。
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こんなはずではなかった…開業医の後悔
クリニックの開業支援を通じてたくさんの医師と接するなかで、「理想の医療を実現するためのゴールとして開業したいんです」そんな声をよく聞きます。
実際、多くの医師にとって、開業は人生における大きな目標のひとつです。
しかし、開業から数年が経ったあと、こんな声も聞くことがあります。
・「診療自体はやりたい医療ができている。でも思っていた開業とは少し違う」
・「忙しいわりに、気持ちが満たされない」
・「いわゆる『失敗した』というのではないが、心のどこかに『こんなはずではなかった』という違和感が残っている」
・「忙しいわりに、気持ちが満たされない」
・「いわゆる『失敗した』というのではないが、心のどこかに『こんなはずではなかった』という違和感が残っている」
――実はこの違和感、多くの場合「医療の質」ではなく「開業前の意思決定」に原因があります。
開業時に陥りやすい「3つの思い込み」
開業後に後悔するケースを振り返ると、共通する思い込みがみえてきます。
まず1つ目は、「いい医療をすれば、患者は自然に集まる」という考えです。
もちろん医療の質は大前提でしょう。しかし現実には、患者さんはまず「通えるかどうか」「生活の中で無理がないか」という視点で医療機関を選びます。
医療の価値が伝わる前に「そもそも選択肢から外れてしまう」というケースは少なくありません。
次に2つ目は、「うまくいっているクリニックの形を真似すれば成功する」という思い込みです。駅前のクリニック、専門特化型、承継開業、どれも成功事例はあります。
ただし、それが成り立っている背景には、立地、地域性、患者層、そして医師自身の価値観が欠かせません。
前提条件が違えば、同じ形でも結果は変わります。
最後に3つ目は、「立地は不動産業者や紹介先に任せればいい」という判断です。
開業地は単なる物件選びではありません。診療のスタイルや経営のあり方を左右する、極めて重要な経営判断なのです。
診療コンセプトは「最初に決める経営判断」
後悔しない開業のために、最初に整理すべきなのは診療コンセプトです。
クリニックの開業を検討する際、まずは「どんな診療を、どんなペースで、どんな患者さんに届けたいのか」を考える必要があります。
たとえば、下記の点です。
・外来数を確保して、回転率を重視する診療なのか
・慢性疾患や予防医療など、じっくり向き合う診療なのか
・慢性疾患や予防医療など、じっくり向き合う診療なのか
上記①②に正解・不正解はありません。大切なのは、医師自身の価値観、体力、将来の働き方と合っているかどうかです。
診療コンセプトが曖昧なまま開業すると、立地選定、スタッフ体制、資金計画まで、すべてが「その場しのぎ」になってしまいます。
開業地は「良し悪し」ではなく「相性」で考える
開業エリアについてよく聞かれるのが、「駅前がいいですか? 住宅地がいいですか?」という質問です。
しかし、この問いには答えがありません。
また、ひと口に「駅前」「住宅地」といっても、下記に示すとおり診療コンセプトによって意味はまったく異なります。
■テナント開業
・人の動線を活かせる一方、家賃負担は重くなりやすい
・ある程度の患者数を前提とした診療スタイル向き
■戸建て開業
・認知に時間はかかるが、自由度が高い
・地域密着型・じっくり型の診療と相性が良い
■承継開業
・既存患者がいる反面、診療方針の引き継ぎには工夫が必要
・「自分が何を変え、何を変えないか」を整理することが重要
このように、エリア選びは集患のための条件ではなく、診療スタイルを支える環境として考える必要があります。
なお、開業地の選定にあたっては、次の3つの要素を意識して考える必要があるでしょう。
・周辺の人口構成や将来人口
・患者ニーズと競合の診療内容
・資金計画とのバランス
・患者ニーズと競合の診療内容
・資金計画とのバランス
そのうえで一貫して持っておきたいのが、「売上が立つか」よりも「無理なく続けられるか」という視点です。
クリニック経営を安定させる「事業計画」策定のポイント
開業前に作成する事業計画は、単に数字を並べる作業ではありません。
事業計画とは、夢を描くためのものであり、同時に、その夢が現実で無理なく成り立つかを冷静に確認するためのツールです。
将来どのような医療を実現したいのか。そのために、どのくらいの患者数や体制が必要なのか。患者数が想定より伸びなかった場合でも、資金繰りや診療体制に無理は生じないか。忙しさが増したとき、自分自身の体力や気持ちが長期的に持続する設計になっているか……こうした点を、事前に整理しておくことが重要です。
開業を検討する医師は、これらの問いに丁寧に向き合い、開業前から具体的に検討しておく必要があるでしょう。
そうすることで、いざ開業した後に想定外への対応で心身ともに疲弊したり、経営が不安定になったりするリスクを大きく減らすことができます。
開業はゴールではなく、キャリアのスタート
開業後に「こんなはずでは」と感じる医師の多くは、決して準備不足だったわけではありません。ただ、考える順番が少し違っていただけです。
・どんな医療をしたいのか
・それに合う立地はどこか
・現実的に続けられる計画か
・それに合う立地はどこか
・現実的に続けられる計画か
この順番で考えるだけで、開業後の景色は大きく変わります。
開業を成功させるとは、派手に儲けることではありません。自分が納得できる医療を、無理なく続けられることです。
そのための判断を、開業前にどれだけ丁寧にできるか。それが、後悔しない開業への一番の近道でしょう。
- 著者:
野田智成
グロースリンク税理士法人 税理士
- 提供:
- © Medical LIVES / シャープファイナンス
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