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もはや“未来の乗り物”ではない…大阪・関西万博で見える「空飛ぶクルマ」の現在地

もはや“未来の乗り物”ではない…大阪・関西万博で見える「空飛ぶクルマ」の現在地

大阪万博でデモ飛行を行った米国LIFT AIRCRAFT社製「HEXA」。写真は2023年3月14日実施、国の許可が必要な屋外における日本初の「空飛ぶクルマ」の有人実証飛行の様子(写真:GMOインターネットグループ)

2025年夏、大阪・関西万博の空に、再び“空飛ぶクルマ”が舞い上がった。開幕前に商用運航を断念し、デモ飛行も機体破損で6月より中断されていた空飛ぶクルマ。今回の運航再開では国産機「SkyDrive SD-05型」が無人自動制御で高度約4メートルを飛行……「空飛ぶクルマ」に私たちが乗れるのは、まだ遠い未来の話と思えるかもしれません。しかし、この新たな空のモビリティは医療や災害対応といった社会課題の解決に向けた“実装”を進めており、数年先の見える将来には私たちの前に登場するかもしれないのです。

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大阪・関西万博で再び注目が集まる「空飛ぶクルマ」

2025年4月の万博開幕時には、SkyDrive社による商用飛行の実現が期待されていましたが、安全性や運航体制の課題から断念されました。その後、準備を経て7月31日からデモ飛行が再開され、来場者の前で実際に機体が浮上する様子が披露されたことは報道でも盛んに取り上げられました。

――話題とはいえ、実用化はまだまだ先の“夢の乗り物”だろう。
そう感じている人も多いかもしれません。しかし空飛ぶクルマは、国土交通省や経済産業省のほか、多くの民間企業が早期実現を目指し協議や開発を進めている「目前の未来」です。

先のデモ飛行も、空飛ぶクルマの社会実装に向けた重要なステップと位置づけられており、運航の安定性や騒音、離着陸の安全性など、さまざまな観点からの検証が進められているものです。

もはや“未来の乗り物”ではない…大阪・関西万博で見える「空飛ぶクルマ」の現在地

2025年4月9日、大阪・関西万博のメディアデーで空飛ぶクルマ「SKYDRIVE」の公開フライトを行った様子(写真:Skydrive)

ヘリでもなく、ドローンでもない…「空飛ぶクルマ」の“定義”

「空飛ぶクルマ」には明確な定義がありません。ただ、国土交通省や経済産業省のHPでは次のように説明されています。

電動化、自動化といった航空技術や垂直離着陸などの運行形態によって実現される、利用しやすい持続可能な空の移動手段

また諸外国では「eVTOL(Electric Vertical Take-Off and Landing aircraft)」や「AAM (Advanced Air Mobility)」、「UAM(Urban Air Mobility)」とも呼ばれ、世界各国で開発が進められています。

なお、クルマという名称ではありますが“クルマ=日常の移動手段”と捉えており、必ずしも道路を走行する機能がついているとは限りません。また、必ずしも電動化や自動化、垂直離着陸に限定せず、エンジンとのハイブリッドシステムや有人飛行、水平離着陸のタイプのものも開発が行われています。「ヘリコプターよりも手軽でエコな、ドローンとは違って人が乗れる、空を飛ぶ乗り物」をイメージしていただくとわかりやすいかもしれません。

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米国Joby Aviationの「空飛ぶクルマ(eVTOL)」。2019年からトヨタと協業し、開発が進められている(写真:トヨタ自動車)

「空飛ぶクルマ」にいま期待が集まるワケ

空飛ぶクルマの実用化について日本では、都市部での送迎サービスや離島・山間部における移動手段など、さまざまな方向性の議論が進められています。

〈期待される主な活用方法〉
1. 都市部での活用……緩慢的な渋滞の解消、空港から目的地までの移動など
2.山間部や離島への移動……交通手段が限られた場所への移動手段
3.災害時の緊急搬送……医師・患者のスムーズな輸送

たとえば、2025年1月28日に埼玉県八潮市で発生した下水道管の破裂のよる道路陥没事故や2024年元旦の能登半島地震のような交通インフラが断絶した場所・地域でも、空飛ぶクルマはよりシームレスに移動着陸が可能です。実用化されれば、より迅速かつ適切な救助・復旧作業につながる可能性があります。

2024年末には三菱倉庫メディセオエアバス・ヘリコプターズ・ジャパンの3社が共同で、eVTOL(電動垂直離着陸機)を用いた医薬品輸送や医療従事者の搬送に関する実証実験を実施しました。
都市部・山間部・離島の3ルートで、災害時を想定した緊急輸送の有効性が確認され、特に道路網が寸断された状況下での迅速な対応において、空飛ぶクルマの柔軟性と即応性が高く評価されています。

以下に示す国土交通省/経済産業省が公開しているロードマップによると、2020年代後半から商用運行の開始、2030年以降に路線・便数の拡大が想定されています。空飛ぶクルマというと“未来の乗り物”というイメージが強いですが、実用化はすぐそこまで迫っているのです。

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2024年11月15日小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会にて公表。 “空飛ぶクルマ”の実現に向けたステップ(引用:経済産業省)

大阪メトロ、ANA、三菱地所…各社急ピッチで進む「実用化」計画

日本のベンチャー企業「SkyDrive」が開発した空飛ぶクルマは、すでに型式証明も受けて実用化が目前に迫っている状況です。こうしたなか、気になるのは法整備です。この点、機体や専用の離着陸場「バーティポート」のルール、航空法の準備などが進められています。バーティポート」とは、垂直を意味する「バーティカル(Vertical)」と空港「エアポート(airport)」の2語を合わせてできた造語。この「バーティポート」についても官民一体で整備が進められており、大阪・関西万博の会場外にも、Osaka Metroが建設した「大阪バーティポート」があります。
このほか、ANAホールディングスは、関東圏および関西圏のイオンモールにバーティポートの設置を計画しているようです。また、三菱地所は2024年、日本航空や兼松とともに、新丸ビル屋上と臨海部をつなぐルートでの運行実証を実施。この実証はヘリコプターを用いて行われ、都心部での空飛ぶクルマの運行を目指して行われました。

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地下鉄などを運営するOsaka Metro(大阪市高速電気軌道)は、大阪・関西万博を見据え、空飛ぶクルマ専用の離着陸場であるバーティポートを建設。2025年3月28日に完成し、竣工セレモニーを開催(写真:SkyDrive)

同社は、空飛ぶクルマを都市・建築・人をつなぎ合わせるものとして捉え、建物の内外を問わず人の移動をシームレスにする次世代モビリティ「SMS:Seamless Mobility System」を提唱。「SMS」はプロペラユニット/キャビンユニット/走行ユニットから構成されるeVTOL「Passenger VTOL」を使用し、空中だけではなく、地上の移動もできるという、まさに「空飛ぶクルマ」を具現化したものとなっています。同社HPや公式YouTubeなどで、その展開イメージを見ることができます。

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三菱地所が提案しているeVTOL「Passenger VTOL」。3つのユニットが切り離し可能で、4人乗りの全自動操縦型電動式のモジュラー型モビリティシステムとなっています(写真:三菱地所)

このほかにも多くの企業が空飛ぶクルマの開発を進めており、万博以降、一気に実用化が現実的になっていくことが期待されているのです。

もはや“未来の乗り物”ではない…大阪・関西万博で見える「空飛ぶクルマ」の現在地

バーティポートが設けられたビルのイメージ(写真:三菱地所)

バス、タクシーに並び「空飛ぶクルマ」が当たり前になる未来

大阪・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。空飛ぶクルマは、その象徴的な存在として注目を集めています。単なる技術のショーケースではなく、災害時の緊急輸送や、アクセスが困難な地域への支援といった、現実の課題に対する新たな選択肢としての可能性を見せてくれています。

我々が日常的にバスやタクシーを利用するように、空飛ぶクルマに乗ることができる日もそう遠くはないはずです。
今回見てきたように、空飛ぶクルマは災害時の活用が見込まれることから、大阪府Skydrive社と災害時における無人航空機を活用した物資輸送等の協定を締結。このほか、千葉県船橋市AirX社と協定を締結するなど、自治体も空飛ぶクルマの実用化に向け調整を進めています。
このように、商用飛行はもちろん、災害時の緊急輸送手段としても注目を集める空飛ぶクルマ。その動向に今後も目が離せません。

もはや“未来の乗り物”ではない…大阪・関西万博で見える「空飛ぶクルマ」の現在地

空飛ぶクルマの運用を目指し、三菱地所が2024年に実施した都心でのヘリコプター運行の実証実験の様子(写真:三菱地所)

提供:
© Medical LIVES / シャープファイナンス

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