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事業承継が「一番失敗しなさそうな選択」だった。30代歯科医師の現実解【事例】

事業承継が「一番失敗しなさそうな選択」だった。30代歯科医師の現実解【事例】

※画像はイメージです/PIXTA

クリニック開業を考えるとき、多くの先生がまず「新規開業」を思い浮かべます。一方で、第三者承継(事業譲渡)という選択肢を、最初から現実的な候補として検討する先生もいます。今回は、シャープファイナンスのサポートのもと関西エリアで歯科医院を第三者承継した30代のA先生に、担当者が直接インタビュー。検討のきっかけから決断まで、そして承継後に見えてきた課題までを伺いました。
「華やかな成功談」というより、判断の材料として役立つ"実務の感覚"が詰まった事例になりました。ぜひご一読ください!

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開業を考えた時には既にあった「事業承継という選択肢」

A先生が第三者承継の存在を知ったのは、勤務医になってからようやく……ではなかったといいます。歯科医師になって間もない頃、大学の同窓会サイトに「医院を引き継いでくれる先生を探しています」という投稿が載っていたことがきっかけでした。

「卒業後1年目から70〜80代までログインできる卒業生向けサイトで、事業承継の募集が普通にあったんです。そのおかげもあり、ずっと選択肢のひとつとして認識していました」

実家も歯科医院を営むA先生にとって、新規開業のほか、
親族承継(実家を継ぐ)・第三者承継(知らない先生の医院を引き継ぐ
この3つは、当初から並列に存在する選択肢でした。

開業の目的は「ピカピカの城」より「院長になる=意思決定の主体になること」

A先生が開業を意識した背景には、早く院長になりたいという動機がありました。ただしそれは、外から見える“開業の華やかさ”とは少し違う文脈です。

30代のうちは治療の研鑽がまだ必要だと思っていて、講習会にも行き続けないといけない。勤務医の給与の範囲だと、どうしてもお金の使い方に制限が出てくる。だから早く個人事業主になって、自己投資の自由度を上げたいと考えました」

A先生にとって開業は「ピカピカの城を手に入れること」よりも、意思決定の主体になることに重心がありました。手段やイメージよりも先に、自身にとっての開業する意味を定義していた点が印象的です。

新規開業・親族承継・第三者承継を同時並行で検討する

意思決定のため、A先生は情報収集も複線で進めました。メーカー主催の新規開業セミナー親族承継のセミナーに参加し、M&Aサイトにも登録して複数案件を比較しています。

「どれかひとつに決め打ちするというより、同時並行で見ていました。その中で、結果的に“無理が少ない”と思えたのが今回の案件でした」

A先生が使った言葉は「一番失敗しなさそう」。
ここでいう”失敗”は、理想どおりにならないことではなく、資金・運営・立ち上げの負担が過大になり、継続性が損なわれることを指しています。

決断のポイントは「投資額」よりも「資金計画が成立する規模感」

第三者承継では「売上規模が大きい医院=良い案件」と見られがちです。
しかしA先生は、資金調達の観点から、規模感そのものを慎重に見ていました。今回の案件は、チェア3台規模の中小規模の医院で、承継対価も相場より抑えられた条件だったといいます。

「年商が大きくて設備も揃っている医院だと、承継対価も大きくなる。そうなると、結局は新規開業と同じくらいの融資が必要になる。その規模を選んでいたら、そもそも資金調達が成立していなかったかもしれないです」

第三者承継は”ゼロから始めない”分、資金面で有利に見える一方、案件によっては新規開業と同等以上の資金が必要になるケースもあります。A先生は、その差を「案件の規模」と「調達の現実性」で線引きしていました。

不安だったのは「前院長の色」よりも、「融資が通るかどうか」

承継でよく語られる不安——「前院長の色が強い」「患者が離れる」「スタッフが残らない」。もちろん、これらは重要な論点です。
しかしA先生が”最大の不安”として挙げたのは、意外にも一点だけでした。

「僕の場合、手持ち資金が少なかったので。
不安は、融資が下りるかどうかだけでした」

実際、金融機関の審査は一度で理想どおりに進んだわけではなく、満額にならない、条件が調整されるなど、複数の課題が発生していました。
承継の成否は「案件の良し悪し」だけでなく、「資金計画の成立可能性に強く依存する……A先生の経験は、その現実を率直に語っています。

承継後に感じたのは「人に恵まれた安心感」だった

承継後、A先生が最初に語ったのは運営状況の数字ではなく、引き継ぎの”質”に関する実感でした。
先代院長が丁寧な引き継ぎをしてくれたこと。スタッフ3名が全員残ってくれたこと。患者層も落ち着いていて、トラブルが少なかったこと。

いい院長先生いいスタッフが作ってきた医院だったから、残っている患者さんも”いい人ばっかり”という感覚がありました。
いまの環境にいられるのは、幸運だったと思っています」

第三者承継は「設備」や「売上」だけで判断すると、見落とすポイントがあります。A先生の話は、“引き継ぎの文化”“現場の空気”が、その後の運営を左右することを示していました。

承継によって、「スタートラインの質」が変わる

新規開業と比べたとき、A先生が実感した違いのひとつが、ある程度の患者基盤と売上がある状態でスタートできたことです。

「新規開業と比べると、初月から売り上げが出ているので、研修会に行ったり自己投資を続けたりすることができています」

新規開業の場合、集患が軌道に乗るまでの”谷”の期間は、設備投資や学びへの支出を絞らざるを得ないことが多い。承継によってその谷が浅くなることで、A先生が当初から重視していた「研鑽の継続」に資金を回せる環境が整いました。
これが、承継が持つ具体的なメリットのひとつです。

◆ただし「引き継いだだけ」では、必ず先細る

一方で、課題も明確でした。今回の医院は承継時点で「閉院するかどうかギリギリの状態」でもあったといいます。予約枠の稼働率は約6割で、積極的な集患施策はほとんど行われていなかったのです。

「引き継いだ分だけでは絶対にゼロになっていく。ここで新規開業したような”体(てい)”で、患者さんを取っていかないといけない」

A先生が挙げた具体策は、ネット経由の集患や看板など、いわゆる”王道”の打ち手でした。承継を「完成形」ではなく、スタート地点の選び方と捉えているところが、この言葉の真意でした。

支援側に求めたのは「速さ」と「進捗の見える化」

承継のプロセスでは、多数の業者・関係者と並行して動く必要があります。A先生は関係者とのやり取りが20社規模になったと振り返ります。シャープファイナンスの承継サポートをご利用いただいき、ご評価いただいたのは、レスポンスの速さと丁寧さでした。

「返信が早いのは大事です。やり取りする会社が多いほど、レスポンスの差が積み上がっていく感覚があります」

一方で今回の改善点として挙げられたのが、手続きの進捗が見えにくい局面があったこと。特に「閉院手続き/開院手続き」の分担が複数者にまたがる場合、“誰がどこまでやっているか”の見える化が安心につながるといいます。

「開院側はスムーズだったけれど、閉院側の進捗がどうなっているか分からない瞬間があった。連携がもう少し見えると、さらに安心だったと思います」

「やってくれている」はあっても、「いまどこまで進んでいるか」が見えるだけで不安は減ります。この経験をふまえ、シャープファイナンスでは承継プロセスの進捗共有を含めたサポート体制の継続的な改善に取り組んでいます。

第三者承継は「近道」ではないが、現実的な選択肢になり得る

最後にA先生は、承継を”楽な道”としては捉えていない、と強調しました。

事業承継は近道じゃないです。でも、自分の目的に合っていれば、すごく現実的な選択肢だと思います」

新規開業にも、承継にも、それぞれ固有の難しさがあります。重要なのは、手段を先に決めるよりも、自分が何を優先したいかを言語化し、比較できる状態にすることかもしれません。

 開業手段を選ぶ前に確認したい3つの問い
・何を優先したいか(時間/資金/研鑽/地域/家族)
どの規模なら資金計画が成立するか
引き継ぎの“人”の部分に納得できるか

「近道ではない。でも、目的に合っていれば、すごく現実的な選択肢」
実際にクリニック開業を経たA先生の率直な言葉が、開業を考える皆さまの判断材料になれば幸いです。

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提供:
© Medical LIVES / シャープファイナンス

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