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その手があったか…開業医が「事業承継」で得られる“お金よりも大切なもの”【医療コンサルタントが解説】

その手があったか…開業医が「事業承継」で得られる“お金よりも大切なもの”【医療コンサルタントが解説】

事業承継と聞くと、「手間がかかりそう」「お金の話が面倒」といったネガティブな印象を抱く人も少なくないでしょう。しかし、視点を変えてみると、事業承継は院長自身の「人生設計」を見直す絶好のチャンスにもなり得ます。今回は、株式会社船井総研あがたFASの田畑伸朗氏が、実際の事例をもとに、「事業承継」を検討するうえでのポイントと注意点を解説します。
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「事業承継」は誰のため?なんのため?

事業承継というと、どのようなイメージをお持ちでしょうか。

・「従業員や患者のことを考えると、将来的に検討が必要なことは理解できる。しかしながら、実際に取り組もうとすると、なにから手をつけていいのかわからない」

・「譲渡価格などお金の話も絡むし、金融機関や仕入先への説明など、膨大な手間がかかることが予想できる。考えれば考えるほど億劫になる

・「そもそも日々の業務に追われて、事業承継について考える時間もない……」

上記のように、「面倒で時間がかかりそう」といった印象の人も多いのではないでしょうか。
どうしても負のイメージが先行する事業承継問題ですが、少し視点を変えてみると、まったく違った捉え方が見えてきます。

「院長のワークライフバランス」の重要性

クリニックの将来像を描くことは非常に重要です。またそれと同時に、院長個人が承継後にどのような生活を送りたいのかを具体的にイメージすることで、「事業承継」は「自己実現のためのチャンス」へと変化します。
このチャンスをうまく活かすことによって、より豊かで充実した人生を手にすることが可能となるのです。

「リタイア」か「継続勤務」か

では、事業承継後の院長の生活スタイルには、どのようなパターンが多いのでしょうか。大別すると次の2つです。

1.家族サービスや趣味に没頭する

まず、「承継後に完全に引退し、これまで叶えられなかった家族サービスや自身の趣味に没頭する」パターンです。
一般的に、院長が引退を意識しはじめる年齢は、60歳以上といわれています。ただ近年では、60歳未満での早期リタイアを希望する相談も増えてきたように感じます。
ただし、このパターンは無収入となるため、引退後も生活水準を維持するためには、譲渡価格が十分であることが必須条件です。

2.負担を減らして働き続ける

近年増加しつつあるのが「負担軽減を前提とした継続勤務」というパターンです。これは、承継後も引き続きクリニックに残り、働き方を見直しながら、より柔軟なライフスタイルを目指す選択肢となります。
具体的には、勤務を週6日から週3日などに減らすことで、一定の収入を維持しながら、空いた時間でプライベートを充実させる方法です。
実はこの方法は、「承継後の引継ぎ業務がしっかり行える」「即座に後継ドクターを雇用しなくてもよい」など、譲受側にとってもメリットがあります。
したがって、譲受先によってはドクター残留を必須条件としているケースも少なくありません。

早めの「後継者探し」のメリット

事業承継に向き合う際、追い込まれてから検討を始めるケースと、将来を見据えて早めに検討を始めるケースとでは、結果に大きな差が出ます。

実際、初期相談からクロージングまでには、短くても1年程度、長ければ2~3年程度の期間が必要です。さらに、納得のいく譲受先とのマッチングや、高水準での条件交渉を行うことが前提となってくると、追い込まれてから十分な検討期間を確保することは難しいでしょう。

一方、早めの検討開始にはメリットしかありません。特に「継続勤務」パターンを選ぶ場合、早い段階で譲受先(医療法人や開業を目指す若手医師)を確保することで、スムーズな経営移行や業務負担の軽減が実現できます。
また、院長が身体的・技術的に最盛期を迎えているタイミングで検討を始めることができれば、クリニックの業績などが譲受先から高く評価され、譲渡価格にもいい影響を与える可能性があります。

週2勤務で趣味も満喫…「事業承継」の成功事例

ここで、実際の譲渡事例を紹介します。譲渡を行ったのは64歳の女医Aさんで、譲渡先は関西都市部の小児科クリニックです。

Aさんは約20年前に開業し、地域医療の担い手として長年尽力した開業医です。週6日の診療に加えて、共働き世帯の増加に伴い早朝や夜間(19時以降)診療にも注力したことから、業績は堅調に推移していました。
ただ、Aさんは加齢による体力の低下を理由に、70歳までには引退したいと考えるようになります。その際、承継者が不在であったことから、M&Aを決断。Aさんが早めに行動した結果、無事に地元の大手医療法人のグループインに成功しました。

 

この事例のポイントはズバリ、院長の負担軽減です。
Aさんは「負担軽減を前提とした継続勤務」を希望していたことから、承継後はこれまでの週6日勤務を週2日に減らし、空いた時間を趣味レジャーに充てているそうです。収入は減ったものの、譲渡価格の交渉を通じて金銭面の不安を十分にカバーできました。

また、従業員や患者にとっても、引き続き顔見知りの院長が勤務することは大きな安心材料となり、業務の引継ぎもトラブルなく進みました。
Aさんはこのまま70歳まで勤務を続け、その間に譲受先の医療法人と協力して後継ドクターの育成を進め、現在のクリニックの診療レベルを維持したまま承継を完了させる予定です。

事業承継は「早め」が肝心

今回紹介した事例のように、譲渡側では「承継後のワークライフバランス」への関心が高まり、譲受側では医師不足や地域偏在の問題を背景とした「医師の継続勤務」を希望するケースが増えています。こうした流れから、院長の継続勤務を前提としたM&Aが増加基調にあるのです。
ぜひ、みなさまも事業承継に対するイメージを再定義したうえで、前向きな検討を進めてみてはいかがでしょうか。

著者:
田畑 伸朗 株式会社船井総研あがたFAS
コンサルタント
提供:
© Medical LIVES / シャープファイナンス

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