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年収2,000万円「生涯現役」が口癖だった66歳・開業医…“勝ち組人生”が一転、老後破産の危機に陥ったワケ【FPが警告】
※画像はイメージです
開業医の多くは高収入である一方、勤務医や通常の会社員等とは異なり退職金等がありません。また、収入に比例して生活水準も高まりやすいことから、体の不調や周辺環境の変化により収入が減った場合、生活水準を落とすことができずに「老後破産危機」に陥るリスクをはらんでいると、株式会社FPイノベーションの奥田雅也代表取締役はいいます。いったいどういうことか、具体例を交えてみていきましょう。
ピーク時は年収3,000万円も…人気クリニックに訪れた悲劇
郊外で開業している内科医A先生(66歳)から、老後資金の相談をしたいとの依頼があり訪問しました。
A先生は郊外の住宅街にクリニックを構えています。開業から時間が経過していることを感じさせるクリニックの外観でした。相談の経緯を聞くと、A先生は40代で開業。近隣にクリニックがなかったこともあり、開業後から順調に収入が増加。好調時には医業収益が1億円を超える年度も何度かあったとのことでした。
平均の医業収益は8,000万円程度で、年間の所得は2,000万円~3,000万円で推移。「生涯現役」が口癖で、資産形成や資産運用には興味がなく、納税と住宅ローン返済の残りはほとんど使ってきたとのこと。家は立派な一軒家でしたが、広い駐車場には軽自動車が1台停まっているだけでした。
家族は妻と子2人の4人ですが、子はずれも医学部へ進学せず、一般企業に勤務。2人とも独立して家を出ており、お金はかからないので、A先生は生涯現役で診察を続けていれば、夫婦2人で今まで通りの生活を続けられると思っていたそうです。
ところが近年、少子化・高齢化の流れにより診療圏内の人口が徐々に減少しており、それに合わせて医業収益も徐々に減少していました。そこに追い打ちをかけるように、最寄り駅近くに同一診療科のクリニックが開業したのです。
郊外のA先生が運営するクリニックよりも、駅近くにできたクリニックで外出や買い物ついでに受診したほうが便利なため、新しいクリニックへ鞍替えする患者さんも続出。みるみる収益が悪化し始めたとのことでした。
さらに悪いことが続き、2年前には奥様がくも膜下出血を発症してしまいました。一命は取り留めたものの、後遺症の影響もあり、日常生活に支障をきたしているためヘルパーを手配したそうです。奥様の看護・介護だけでなく、家事も依頼しているために、金銭的にはかなりの負担がかかっています。
「収益減の補てん」と「奥様の介護費用」を工面すべく、3台持っていた高級外車はすべて売却し、A先生の日常の足として軽自動車へ乗り換えたとのこと。また小規模企業共済も解約して資金確保と支出抑制をしているものの、このままではA先生自身の老後が不安になり、相談をした……というのが今回の経緯でした。
普段は黒字だが… A先生のクリニック収支状況
筆者はまず、会計事務所から提供されている月次試算表を確認しました。すると、毎月の収支はプラスですが、職員へ賞与を支給した月はマイナスとなっており、1年間を平均すると損益差額は数百万円程度のプラスしかありません。
ここから所得税・住民税を支払ったあとの生活費や奥様の介護等を考えると、かなり厳しい状況であることがわかりました。
老後2,000万円は「まったくの他人事」と油断していたA先生
A先生に「老後2,000万円問題はご存じですか?」と質問をすると、テレビや新聞で見かけたことはある程度で、自分には関係ないと、詳しくは把握していないとのこと。
令和元年に金融庁が発表した金融審議会の 「市場ワーキング・グループ」報告書が発端となって「老後2,000万円問題」が言われるようになりました。
金融庁の報告書によれば、一般的な家庭における老後資金は、退職金等や年金給付等だけでは生活できません。そのうえ、長寿化により生活資金が必要になる年数が伸びているため、最低限の生活を担保するために平均2,000万円程度の資産が必要となります。
ここに介護費用等の支出が発生すればさらにマイナスは拡大。そのためには早い段階から資産形成と運用・投資を行う必要があるという趣旨の報告書です。
A先生はまさにこの問題に直面しています。収益減であっても奥様の介護がなければ、小規模企業共済の積立金を取り崩すことで生活はできたと思います。しかし、状況が変わってしまったために何らかの手を打つ必要がでてきたのです。
「収支改善」第一歩は
A先生がまず検討すべきは、毎月の収支改善です。クリニックの支出について見直すべき内容がないかどうかをチェックします。一般的に、クリニックにおける最も大きな支出は人件費関連といわれています。そこで筆者はA先生に、スタッフの職務内容を確認し、現在の来院患者数に見合ったスタッフ数や勤務形態へ変更することで、支出を抑制できないか検討するよう伝えました。また、レセプトのチェックをすることで収入が多少改善するケースもあるため、適切に請求ができているかどうかもチェックいただくよう依頼しました。
次に個人の支出については、毎月の支出を逐一チェックするよう伝えました。特に個人口座とクレジットカードの明細を細かく確認し、固定費をはじめ不要不急な支出はできる限りカットするように努めてもらいました。
クリニックと個人の支出を見直したうえで、どれだけ収支が改善するかによりますが、この見直しでも改善しない場合には、最終手段としてクリニックの継続について検討しなければなりません。
支出を見直しても現在と同水準の数百万円程度の損益差額しか確保できないのであれば、クリニックは第三者へ継承し、自身は勤務医として再出発することも選択肢として考えられます。勤務医になれば精神的・時間的な余裕も生まれます。自身に万が一のことがあった場合のことを考えると「早めの承継または閉院」は検討すべき内容になります。
第三者へのクリニック承継または閉院という選択肢は、A先生自身も漠然と考えていたそうですが、第三者から改めてその選択肢を提示されたことで現実を突きつけられ、非常にショックを受けていました。
“最悪の事態”を避けるため「事前にできること」とは
A先生には「クリニックの収支チェック」と「個人の支出チェック」の徹底を約束いただきましたが、最後にA先生から「どうしておけばこんなことにならなったんでしょうね……」と質問を受けました。
そこで私からは、
【1】資産形成や運用・投資は時間を味方につけられるので、開業直後から少しでも資産運用をしておくべきだったこと
【2】低コストで有事に備えられる民間保険をうまく活用していれば、資金負担が抑えられた可能性があったこと
【3】実子がクリニックを継がないと決まった時点で、クリニックの将来について検討し、準備を始めておく必要があったこと
の3点を挙げました。些細なこと・当たり前のことと思うかもしれませんが、実践できている人は、思っている以上に少ないものです。
将来を見越した備えは、早い段階で行うに越したことはありません。特に開業医は事業主として、将来を見据えたリスクマネジメント対策が必須であると言えます。
ただし、多忙な日々のなか自分の力だけで考えることは難しいかもしれません。その場合はコンサルタントをはじめとした専門家に相談することも選択肢になりそうです。
- 著者:
奥田 雅也
【株式会社FPイノベーション】代表取締役/NPO法人日本リスクマネジャー&コンサルタント協会理事
大学卒業後、中堅損保の新卒研修生として保険業界へ。以後は大手会計事務所の保険専任担当者、大手保険代理店の法人保険専門担当を経て、2011年に独立。事業(医業)経営に関する保険活用術に精通し、過去20数年間で保険提案した法人数は、上場企業から零細企業・医療法人含め3,000社以上の実績と取扱契約件数は20,000件以上を誇る。現在は、大阪を本拠地としてコンサルティング業務・保険募集を行う傍らで、業界紙・本などの執筆を行う。著書「開業医顧客獲得術」「令和時代の法人保険販売」など多数あり。
(編集:株式会社幻冬舎ゴールドオンライン)
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