クリニックの開業は、多くのドクターにとって夢の実現です。しかし、どれほど綿密に練られた事業計画書にも…

※画像はイメージです/PIXTA
クリニックの開業は、多くのドクターにとって夢の実現です。しかし、どれほど綿密に練られた事業計画書にも、数字には現れない「落とし穴」が存在します。特に開業準備段階で作成される計画書は、どうしても楽観的な数字になりがちです。
本コラムでは、理想と現実のギャップを生み出し、経営を窮地に追い込む可能性のある、見過ごされがちなリスクについて、具体的に解説します。
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第1章:売上予測に潜む「甘さ」と集患の現実
事業計画の柱となる「患者数」と「患者単価」の予測には、しばしば大きな罠が潜んでいます。
1.患者数は「計画どおりには増えない」という現実
計画書では順調な患者数の増加が想定されますが、特に開業初期は認知度が低いため、計画比の50〜70%程度にしか届かないケースも珍しくありません。
成長を左右する要因には、数字に現れないものが多くあります。
・立地の物理的な制限:「間口の狭さ」や患者の導線の悪さが影響します。
・競合の競争力:周辺クリニックの強さが過小評価されていることがあります。
・初期のGoogle口コミ評価:初期の評価が低迷すると、その後の集患に大きな影響を与えます。
・競合の競争力:周辺クリニックの強さが過小評価されていることがあります。
・初期のGoogle口コミ評価:初期の評価が低迷すると、その後の集患に大きな影響を与えます。
また、開業前の患者を集めるための宣伝広告費が過小評価されがちです。ウェブサイト制作やチラシ、地域への広報といった初期投資が不足すると、計画通りの集患が達成できず、資金繰りに影響が出るリスクがあります。開業後3ヶ月は特に広告効果が不安定で、広告費が計画の2〜3倍に膨らむこともあります。
2.想定以上に「患者単価」が上がらない構造
患者単価を「中間値」で設定すると、実際には想定より低くなりやすい傾向があります。
・自費診療の不人気化:想定していた自費診療が地域で人気化しないことがあります。
・検査の地域ニーズとの不一致:想定した検査が実は地域ニーズと合っていない場合があります。
・診療回数の減少:慢性疾患の「薬だけ」の患者が少なく、診療回数が増えない場合、売上構造が予定と全く変わってしまう可能性があります。
・検査の地域ニーズとの不一致:想定した検査が実は地域ニーズと合っていない場合があります。
・診療回数の減少:慢性疾患の「薬だけ」の患者が少なく、診療回数が増えない場合、売上構造が予定と全く変わってしまう可能性があります。
第2章:利益を急減させる「変動するコスト」の脅威
計画書では固定費として計上されがちなコストが、現場では予測不能な変動要因となり、利益を大きく削ります。
1.人件費の変動が利益を直撃する
人件費は計画書上は固定費扱いが多いですが、現場では変動要素が多数あります。
・スタッフの予期せぬ退職
・時給相場の上昇や経験者の確保の困難さ
・医師・看護師の代診費用の増加
・時給相場の上昇や経験者の確保の困難さ
・医師・看護師の代診費用の増加
その結果、人件費比率が30%から40%超へ上昇し、利益が急減するケースが頻繁に見られます。
2.設備維持コストと突発修繕費の盲点
事業計画書では、設備維持や修繕費はほぼ考慮されない大きな落とし穴です。
・内視鏡、電子カルテ、空調など、予想外の修繕費は必ず発生します。
・内科系であっても、年間数十万円からの突発修繕費は普通に発生します。
※特にピーク時の空調が故障した場合、数十万円から100万円規模の出費となる可能性があります。
・医療機器の保守契約が値上げされるリスクもあります。
・内科系であっても、年間数十万円からの突発修繕費は普通に発生します。
※特にピーク時の空調が故障した場合、数十万円から100万円規模の出費となる可能性があります。
・医療機器の保守契約が値上げされるリスクもあります。
小さな固定費の増加も無視できません。賃料、人件費、消耗品、広告費など、数万円単位の増加が積み重なるだけで、想定していた黒字が消えてしまうことがあります 。事業計画書で想定した利益率(例:20%)は、実際には「何もトラブルが起きない」場合のみ成立するモデルであると認識すべきです 。
第3章:「人」の問題と院長の過重労働リスク
事業計画書では数字化されない「人間関係」や「院長の稼働限界」こそが、経営の最大のリスク源です。
1.スタッフマネジメント問題の軽視
計画書では人間関係は考慮されません 。しかし、スタッフ同士のトラブル、院長への不満の蓄積、コミュニケーション不足といった問題は深刻な影響を及ぼします 。
・「できる人」が一人抜けるだけで現場は混乱します
→これらの問題は、離職率上昇 → 再採用コスト増 → サービス低下 → 患者離れという負の連鎖を生み出します 。
→これらの問題は、離職率上昇 → 再採用コスト増 → サービス低下 → 患者離れという負の連鎖を生み出します 。
また、計画書上は人件費として計上されても、質の高いスタッフを確保することの難しさや、教育にかかる時間とコストは、数字では表しにくい大きな課題です。スタッフの質は患者満足度に直結するため、経営の重要課題です。
2.院長が担う「 業務」による疲弊
事業計画書では、院長の稼働が「当然フルで働ける」として組まれていますが、これは経営上の大きなリスクです。
・院長の体調不良、子育てや介護などの突発的事情、そして医師自身の過労は、計画上ほぼ織り込まれませんが、現実にはクリニックの収入に直結します。また、代診医の確保難も問題となります。
院長は、診療業務に加え、経営者として以下の「マルチロール業務」をこなす前提になりがちで、負荷が非常に高いです。
・経営、採用、人事、クレーム対応、在庫管理、税務
→結果として、診療後に事務作業で深夜まで残業し、スタッフ教育に時間を取られ、経営数字の分析が後回しになります
計画上は一切見えないこの「人的負荷」こそが、院長のバーンアウト(燃え尽き)につながる大きな落とし穴です 。医師としての業務に加え、経営者としての人事・労務管理、経理、マーケティングといったマネジメント業務の負担が、想定以上に重くのしかかるのです。
第4章:外部環境と資金繰りの不測の事態
最後に、事業計画書では予測が難しい外部環境の変化と、資金繰りの課題です。
・地域や競合の環境変化
→ 開業後に近隣に新たな競合クリニックが開業したり、地域の人口動態が変わったりといった変化は、計画書では予測が困難です。
・診療報酬改定や制度変更の影響
→ 事業計画は作成時点の診療報酬に基づきますが、数年後の改定により、計画していた収益構造が大きく変わるリスクがあります。特定の診療分野に特化している場合、特に影響を受けやすいです。
・運転資金の目減りの早さ
→ 保険診療の入金は診療から約2ヶ月後になるため、開業当初は出費ばかりが先行します。計画書で準備していた運転資金が、想定よりも早く目減りするケースがあります。
→ 開業後に近隣に新たな競合クリニックが開業したり、地域の人口動態が変わったりといった変化は、計画書では予測が困難です。
・診療報酬改定や制度変更の影響
→ 事業計画は作成時点の診療報酬に基づきますが、数年後の改定により、計画していた収益構造が大きく変わるリスクがあります。特定の診療分野に特化している場合、特に影響を受けやすいです。
・運転資金の目減りの早さ
→ 保険診療の入金は診療から約2ヶ月後になるため、開業当初は出費ばかりが先行します。計画書で準備していた運転資金が、想定よりも早く目減りするケースがあります。
おわりに
これらの落とし穴は、単なる「数字」の問題ではなく、「ヒト・モノ・カネ」のバランスや、外部環境の変化に関わる問題として顕在化します。事業計画書は必要不可欠ですが、それはあくまで「最高のシナリオ」に基づいたモデルであり、「最悪のシナリオ」を想定したリスクヘッジと、計画書に現れない人的負荷に対する対策が、クリニック経営の成功には不可欠です。
開業後の経営は、目的地を完璧に予測した航海図を持つことではなく、予測不能な荒波(変動費や人的問題)に遭遇した際に、船長(院長)が沈まずに舵を取り続けられるだけの余裕(人的・資金的)を確保することに似ています。この余裕こそが、事業計画書では見えなかった最も重要な「備え」となるでしょう。
- 著者:
日本クレアス税理士法人
執行役員/中川 義敬 税理士(近畿税理士会所属)
- 提供:
- © Medical LIVES / シャープファイナンス
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