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“熾烈な生存競争”を勝ち抜いてきた「小さくても強い組織」の共通点【社労士が解説】

“熾烈な生存競争”を勝ち抜いてきた「小さくても強い組織」の共通点【社労士が解説】

画像はイメージです。

クリニック数の増加にともなって生き残り競争が激化している医療業界。

開業医には医師としての腕に加えて「経営力」が問われる厳しい時代に突入しています。そこで今回、社会保険労務士でファイナンシャル・プランナーの三藤桂子氏が、熾烈な生存競争を勝ち抜いてきた中小企業の実例から、「小さくても強い組織」をつくるために大切なポイントを解説します。

「開業すれば安泰」の時代は終焉をむかえた

厚生労働省が行っている「医療施設調査」では、全国の医療施設数や病床数、医療施設の診療機能が公表されています。

令和3年10月1日現在における「令和3(2021)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況」によると、活動中の全国の医療機関総数は前年と比べ増加しています【表1】。さらに内訳数を見ると、病院は減少している一方、一般診療所、特に医療法人を運営母体とする一般診療所が増加していることが分かります【表2】。

“熾烈な生存競争”を勝ち抜いてきた「小さくても強い組織」の共通点【社労士が解説】

厚生労働省:令和3(2021)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況より筆者作成

少子高齢化による人口減少が進んでいるにもかかわらず、一般診療所は増加しています。
こうしたなかで、開業医は医師としての腕だけでなく、「経営力」の重要性が増しています。「開業さえすればなにもしなくても患者さんが来てくれる」という時代は終わり、開業後もクリニック存続のために試行錯誤しなければなりません。

では、競争が激化している医療業界で生き残るにはどうすればよいのでしょうか。熾烈な生存競争を勝ち抜いてきた中小企業から「小さくても強い組織」のヒントを探ります。

熾烈な生存競争を勝ち抜ける中小企業「強さの秘訣」

中小企業は、日本の全企業数のうち99.7%を占め、わたしたちの生活に密着した財やサービスの提供を行っています。

中小企業が熾烈な生存競争を勝ち残るには経営手腕が問われ、経営者(事業主)がやるべきこととして、①ヒト(人材の確保)、②モノ(安定した経営)、③カネ(資金の調達)を整える必要があります。

ヒト(人材の確保)

良い人材を確保するためには、企業内のルールを整備することが重要です。

社長が1人ですべての業務をできるわけではありません。周りの支えがあるからこそ、企業は発展し継続できることを認識します。

例として、専門性を持った人の採用は注意が必要です。給与面ではその人のスキルを評価したものになっているのか、専門外の業務も行う可能性があるのか、雇用契約当初から話し合いが必要です。従業員数が少ないから、専門外の雑用も当然という考え方では、良い人材は確保できません。

また、個人事業主であっても、該当する従業員には社会保険に加入できるようにし、福利厚生を整えます。また、ミーティングなどを活用しコミュニケーションをはかり、長く安心して働ける職場環境を整備することも必要です。

モノ(安定した経営)

事業を継続していくためには、相応の設備投資が必要となります。

開業に伴って必要な設備を整えなければ、良い製品・サービスを安定して提供することはできません。過大な設備は必要ありませんが、顧客が不安になるような設備では集客は望めないでしょう。

さらに、事業主が1人で、どの程度の製品・サービスを提供できるかが問題となります。事業を長く継続するうえでは事業承継も含めて連携体制を考え、顧客から安心してもらえる経営基盤を構築することです。

カネ(資金の調達)

会社を経営するためには、設備費、人件費、福利厚生費など、さまざまな経費が必要となります。

こうした資金について、多くの中小企業は金融機関からの融資を受けて準備しています。しかし、金融機関は当然簡単には貸してくれません。

金融機関は融資の審査基準として「安定した事業の継続性」をみています。金融機関は事業計画書にもとづいて、収益の見込があるのか、それによって将来のビジョンが明確化できるか、事業が長く続けられるか……こういった視点で「融資金を回収できるかどうか」をシビアに判断します。そのため、経営者は資金調達をスムーズにおこなうためにも金融機関からの信用を得る必要があります。

「小さくても強い組織」の特徴

これらの点を意識することにより、企業規模が小さくても成果をあげている企業はたくさんあります。そこで最後に、筆者自身がこれまで実際に接してきた中小企業のなかで「強いな」と感じた組織について実例をご紹介します。

ワンマン社長が「会社存続」のために見直したこと

運送事業を営むA社は、創業者であるY社長がバブル経済期に労働時間の制限も考えず、ただひたすら働けるだけ働き、1代で社員10名程度になるまで拡大させました。

しかし時代は変化します。法律も整備され、従来の経営では成り立たなくなり、根本的な見直しが必要となりました。Y社長の古い考え方に若手社員がついてこられず、気付けば離職率の高い会社となっていたのです。

そこでY社長は自分の成功体験に固執することなく、下記の点を見直し、実践しました。

見直した点

1.社長も高齢になったことから、事業承継し法律に遵守するよう社内を整備
2.従業員の意見を聞くため、月1回ミーティングを開催と個別面談を実施
3.安全衛生体制を見直し、従業員の健康管理、安全教育の実施
4.荷待ち時間をなくし、適切な運行計画の実施
5.荷主との情報連携をはかる(運賃の見直しを含む)
6.業務効率化によりコスト削減分を従業員に還元
7.適正化し、働きやすい職場環境を外部へ発信することで、社会的信用を得る

これらを社内に根付かせるためことは想像以上に労力がかかり大変であったものの、労働環境の整備・業務効率化によって労働時間が減り、社員のストレスも軽減されたことで事故やトラブルが大幅に減少し、人材確保や新規受注にもつながるようになったそうです。またY社長は「なにより社内の雰囲気が明るくなった」と嬉しそうに話していました。

「昔はこうだった」「今の若い人は」「スキルさえあれば」このように考えている事業主は要注意です。自らの考えに固執しすぎると従業員はついて来なくなります。組織のトップこそ、柔軟な考えを取り入れることが重要なのです。

著者:
株式会社幻冬舎ゴールドオンライン
提供:
© Medical LIVES / シャープファイナンス

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