業界を問わず人手不足が叫ばれる昨今、医療機関においてもその深刻さは増す一方です。こうしたなか、「人材…

※画像はイメージです/PIXTA
業界を問わず人手不足が叫ばれる昨今、医療機関においてもその深刻さは増す一方です。こうしたなか、「人材が定着するクリニックとそうでないクリニックの違い」について、現役のクリニック院長に話を聞きました。実際にはっきりとある「その差」はどこからくるのか、詳しくみていきましょう。
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人手不足のクリニックで人材が定着しない“隠れた要因”
日本の医療機関における人手不足は、日々深刻さを増しています。厚生労働省「職業安定業務統計」によると、特に看護師や医療事務、技師といった職種で有効求人倍率が高止まりしており、慢性的な人材不足が数字として明確に示されています。
これは単に「人が足りない」という問題にとどまりません。採用コストの増大や、残されたスタッフへの業務負担集中という負のスパイラルから、離職の連鎖を生み出しているのです。
これは、私の周りの開業医仲間も例外ではありません。つい先日も、長年の付き合いがある院長が「また人が辞めちゃって……今年に入ってもう3人目だよ。採用面接しても希望者が少ないし、応募すら来ないことが多くて困る」と嘆いていました。
彼のクリニックは、決して条件が悪いわけではありません。しかし、一度ネガティブな評判がたつと、それがインターネット上の口コミや地域の噂となって広まり、採用活動がますます難しくなるのが現状です。
近年、求職者は給与だけでなく「働きやすさ」や「職場の雰囲気」を重視する傾向が強まっています。特に医療業界は専門性が高く、一度勤めると長く働き続けたいと考えるスタッフが多いはずなので、「なぜこのクリニックでは人が定着しないのか?」を真剣に考えることが、持続可能なクリニック経営における最重要課題となっています。
当てはまったら要注意…人がすぐに辞めるクリニックの特徴
スタッフが短期間で辞めてしまうクリニックには、いくつかの共通点があります。突き詰めると、それは「お金にがめつい姿勢」と「コミュニケーション能力の欠如」に行き着きます。
1.人件費削減に偏ったAクリニック
知り合いのAクリニックの院長は、人件費削減を徹底するあまり、スタッフ全員を昇給のない「契約社員」として採用。契約更新もしないことが多く、給与据え置きを続けていました。
スタッフからすると、どれだけ経験を積みクリニックに貢献しても、給与が上がらないため、モチベーションは低下します。
「一生懸命働いても評価されない」という不満はすぐに広がり、数年以内に経験豊富なスタッフは全員退職。残ったのは経験の浅い、給与交渉をしないスタッフばかりとなり、最終的には派遣に頼らざるを得なくなりました。
2.周囲を顧みない「経営第一主義」のBクリニック
また、Bクリニックの事例も典型的です。B院長は利益を最優先し、必要性の低い検査や高額な自費診療を積極的に勧める傾向がありました。
患者への説明も一方的で、質問や不安を訴える患者に対しても「私の言うとおりにすればいい」と高圧的で自分本位な態度が目立っていたそうです。
さらに、院長自身が患者とのコミュニケーションを円滑に取れないため、クレーム対応はスタッフに丸投げ。こうしたなかでスタッフは「患者さんに申し訳ない」「自分の仕事に誇りが持てない」という倫理的な葛藤を抱え、心身ともに疲弊していきました。
その結果、「このクリニックで働くことは医療人としての良心に反する」と感じたスタッフが次々に退職。収益を追い求めたBクリニックは、いまも赤字から抜け出せずにいます。
こうしたクリニックに共通するのは、「スタッフを単なるコスト(費用)と見なす」こと。そして、「患者やスタッフとの信頼関係を軽視する」姿勢です。
結果として、一時的には利益が上がっても、優秀な人材の流出と評判の悪化により、長期的な経営は立ちゆかなくなります。
人が辞めないクリニックの特徴
一方、人が定着してイキイキと働いているクリニックもあります。こうしたクリニックは、単に待遇がいいだけでなく、「この院長のために、このクリニックのために働きたい」と思える、明確な理由と環境を提供しています。
3.ビジョン共有を徹底するCクリニック
私が知るCクリニックの院長は、地域医療における自身のビジョンを明確に掲げています。たとえば、「高齢者が自宅で安心して過ごせるよう予防医療に注力する」「糖尿病患者のインスリン離脱を目指す」といった具体的な目標です。
院長は採用面接や朝礼、定期的なミーティングなど、あらゆる場面でこのビジョンを熱心に語り、スタッフに共有。このビジョンに共感したスタッフは、「自分たちの仕事は単なる作業ではなく、地域社会に貢献している」と強い使命感を持つことができています。
結果、給与水準は地域平均程度ですが、スタッフは高いモチベーションを維持し、離職率は低く、なかには一度退職しても戻ってきたスタッフもいるそうです。
4.プライベートを尊重するDクリニック
Dクリニックの院長は、スタッフの休みを非常に大切にしています。有給休暇の取得を奨励するだけでなく、連休が取りやすいようにシフトを工夫し、子育て中のスタッフが急な休みを取る際も「お互い様だから」と声をかけ、嫌な顔ひとつ見せません。
院長自身が人間的に信頼でき、スタッフの生活や人生を尊重していることが伝わるため、スタッフは「この院長の期待に応えたい」と自発的に考え、お互いに助け合う文化が根付いているようです。
また、D院長は患者への説明も非常に丁寧で、不必要な不安を与えません。患者からの厚い信頼は、そのままスタッフの安心感と誇りにつながっています。
人が辞めないクリニックのキーワードは、「ビジョンへの共感」と「人間的な信頼」です。院長がスタッフの生活や患者の安心を第一に考える姿勢こそが、スタッフにとって給与以上の「ここで働く意義」と「安心感」を生み出しているのです。
人が辞めないクリニックは経営もうまくいく
開業医にとって、スタッフは経営の根幹です。人手不足が叫ばれるいま、人材確保は待ったなしの課題であり、「給料を上げれば解決する」という単純な問題ではありません。
スタッフが「ずっとここで働きたい」と感じるクリニックは、院長が明確なビジョンを掲げ、その達成に向けてスタッフを対等なパートナーとして信頼し、共に歩もうとする姿勢を示しています。
一方、お金儲けだけを目的とし、スタッフをコストとみなすような経営では、優秀な人材は必ず流出します。
目先の利益を追うのではなく、明確なビジョンに向かってスタッフや患者との「信頼」を積み重ねていく院長の姿勢こそが “人財”が定着し、地域から愛されるクリニックとなるための、唯一無二の解決策だといえるでしょう。
- 著者:
武井 智昭
高座渋谷つばさクリニック 院長
- 提供:
- © Medical LIVES / シャープファイナンス
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