長時間労働に当直勤務、オンコール……勤務医の労働環境は、「働き方改革」が進む医療業界においても依然厳…

※画像はイメージです/PIXTA
長時間労働に当直勤務、オンコール……勤務医の労働環境は、「働き方改革」が進む医療業界においても依然厳しい状況です。こうしたなか、「開業すればもっと自由な時間が手に入るのでは」と、開業に希望を抱く医師も少なくありません。しかし、医療法人の理事長を務める梅岡医師は、「開業医には勤務医と異なる苦労がある」と指摘します。勤務医・開業医それぞれの立場や現状を踏まえ、医師としてキャリアを選ぶうえで重要な考え方をみていきましょう。
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見過ごされている勤務医の「給与事情」
「働き方改革」の流れは、医療業界にも広がりつつあります。
「医師の働き方改革」の一環として、これまで“サービス残業”として見過ごされていた勤務医の時間外労働に対し「超過勤務手当」が支払われるようになり、当直の翌日には休みが取れるなど、労働環境の見直しが進んでいます。
こうした制度の変化により、少なくとも「労働時間」の扱いに関しては、以前より確実に改善が進んでいるようです。
一方、勤務医の収入面は“頭打ち”の状況がみられます。
厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、令和6(2024)年度の勤務医の平均年収は約1,200万円、男女別では男性が約1,450万円、女性が約1,040万円となっており、年によって多少の上下はあるものの、どの年もおおむね1,200万円前後で推移しています。
コロナ禍では、発熱外来の対応などで加算され、一時的に年収が高くなった時期もありました。しかし、これはあくまで国が定める保険点数の範囲内での加算によるものであり、勤務医の給与もその制約のなかで決まっているのです。
また、現状は大規模な病院でも約8割が赤字経営に陥っているとされ、規模の大きな病院ほど赤字の影響が大きく、経営が苦しい状況が続いています。
とはいえ、大きな病院だからこそ果たせる役割があるのも事実です。がんの専門的な治療や高度な外科手術、集中治療室(ICU)の設置、全身麻酔を支える麻酔科の存在、そして多数の看護師がチームで動く体制などは、大病院でなければ提供できない医療といえるでしょう。
こうした分野には今後も一定の需要があり、大きく変わることはないと考えます。そのため、勤務医のニーズは今後も根強いと考えて良さそうです。
しかし、給与水準については、実質的に下がっているというのが現実ではないでしょうか。保険点数が上がらないなかで物価は上昇し、お金の価値は目減りしています。生活実感としては、以前より厳しさを感じている勤務医も多いはずです。
こうしたなか、このような厳しい状況に置かれた勤務医の打開策のひとつとして「開業」という選択肢に改めて注目が集まっています。
新規開業よりも注目されている「承継開業」
開業のなかでも、近年よく耳にするのが「承継開業」と呼ばれるスタイルです。
承継開業とは、すでに地域で長年運営され、患者やカルテが揃っており、地域にも認知されているクリニックをそのまま引き継ぐ形で開業します。
建物や設備が整っているうえ、一定の集患も見込めることから、比較的ローコストで始められる方法として人気を集めているようです。
また、クリニックの分院長としてしばらく勤務し成果を上げたあとに、そのクリニックを買い取ることを前提として独立するというパターンも増えています。これは勤務医としての経験を十分に積んだうえで、スムーズに開業に移行できる点が魅力で、現実的かつ前向きなキャリアの選び方だといえるでしょう。
もちろん、新規で開業することも可能ですが、近年はウクライナ・ロシア情勢などの影響により建築資材の価格が1.5~2倍に高騰しており、開業コストが大きく膨らみやすくなっているが現状です。
こうした状況から、初期投資を抑えられる「承継開業」に注目が集まるのは自然な流れといえるでしょう。
診療技術よりも重要…開業に欠かせない「スキル」とは
診療技術はもちろん重要ですが、開業する際に必要なのは「経営力」です。筆者の感覚では診療そのものが占める割合は全体の2割程度で、残りの8割は「経営手腕」、つまり経営やマネジメントに関わる力が求められると考えています。
診療そのものが重要であることはいうまでもありません。しかしそれ以上に大切なのが、「チームをつくる」という視点です。クリニックを永続的に運営していくためには、スタッフの給与水準を適切に把握し、モチベーションを維持しながら、クリニックの理念をしっかりと共有し、チームをまとめていく力が必要になってきます。
特に近年は、スタッフの早期離職に悩まされるクリニックも少なくありません。院長には、そういった環境でチームを支え続ける責任感と覚悟が求められます。
また、開業医には診療以外にも多くの業務があります。診療を終えたあとは、社会保険の手続きについて社労士と細かく打ち合わせをしたり、税金や資金繰りの問題で税理士と調整を重ねたりと、医療業界以外の第三者と協働する機会も少なくありません。
さらに、スタッフ一人ひとりと面談し、悩みや不安を聞き取ってサポートすることも院長としての大事な業務のひとつです。
こうした付随業務は診療と同じくらい重要ですが、外からは見えにくい仕事です。「開業すれば自由な時間が増える」と考える人もいますが、実際にはこうした診療以外の業務によってむしろ拘束時間が増え、さらに経営者としての負担も格段に大きくなります。
どれだけ働いても、どれだけ休んでも、最終的にはそのすべてが自分に返ってくる――それが開業医の現実なのです。
◆開業は「自分にとってのメリット・デメリット」を見極めて
医師は誰もが、最初から経営者になりたいと思っているわけではないでしょう。多くの者が、純粋に医師としての仕事に専念したいという思いを抱いて、医学の門を叩いているはずです。
したがって、勤務医というキャリアも十分に価値ある選択肢といえるでしょう。
経営の責任を負わない分、安定した環境でチームの一員として専門性を発揮し続ける。そのような勤務医の働き方は、多くの患者に安心感を与えるだけでなく、社会にとっても極めて重要で大きな貢献です。筆者自身、勤務医の役割は決して軽んじられるものではなく、日本の医療を支える基盤そのものであると考えています。
今回みてきたように、勤務医同様、開業医にもメリット・デメリットがあります。勤務医として働くなかで、「もっと自分らしい医療を実現したい」「経営にも挑戦したい」と感じるなら、そのときこそ開業を真剣に検討するタイミングなのではないでしょうか。
- 著者:
梅岡 比俊 医療法人梅華会 理事長
開業医コミュニティ「M.A.F」主宰
- 提供:
- © Medical LIVES / シャープファイナンス
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