ただでさえまとまった休みの取りにくい医業、開業して経営者であればなおさらのこと。とはいえ旅の醍醐味「…

※画像はイメージです/PIXTA
2025年初頭、帝国データバンクおよび東京商工リサーチが発表した2024年の医療機関倒産件数は、過去最多を記録しました。
両調査によると、倒産件数は前年比56%増の64件。休廃業・解散件数も600件を超え、特に個人経営のクリニックでは正式な廃業届を出さずに診療を終了するケースも多く「静かな退場」が加速、実態は統計以上に深刻です。
本稿では、倒産件数の推移と背景を紐解きながら、貴院の経営をリスクから守る対応策について、税理士の視点から解説します。(日本クレアス税理士法人監修)
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1. 倒産件数の推移
帝国データバンクのデータから直近の医療機関倒産件数の推移を見ると、2018年には40件、2019年には45件の増加傾向が、2020年は政府による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)禍での事業支援政策が倒産を一時的に抑制し、27件と一時的に減少しました。
しかし、政府の支援策終了とともに倒産件数は再び増加に転じ、2021年には33件、2022年、2023年には41件。そして、東京商工リサーチによると、2024年には小規模クリニック・診療所の倒産が64件(前年比56%増)に達し、過去20年で最多件数を更新しています。
帝国データバンクの調査では倒産件数64件、休廃業・解散件数722件、一方、東京商工リサーチでは倒産件数64件、休廃業・解散件数598件と、調査機関によって差異が見られます。
この124件の差は、単なる集計方法の違いにとどまらず、医療機関の「見えない退場」が進行している可能性を示唆しています。また冒頭で述べたように個人経営の小規模クリニックは、正式な廃業届を提出せずに診療を終了するケースもあり、実際の医療機関減少数は公表数値を上回る可能性が高いと考えられます。
2. 2024年 倒産件数に見る規模別の特徴
負債額別に見ると、倒産した医療機関の45.3%(29件)を負債額1億円未満の診療所(診療所16件、歯科医院13件)が占めています。また、負債額1億円から5億円未満の小規模クリニックの倒産は24件(診療所・歯科医院ともに11件、病院2件)で、全体の37.5%を占めました。このことから、小規模クリニックにおける倒産リスクの増大が明らかになっています。
一方、負債額5億円以上の医療機関の倒産は全体の17.2%と比較的安定しているものの、一部では経営難による倒産も見られます。
特筆すべきは、医療脱毛クリニック「アリシアクリニック」を全国展開していた医療法人美実会(負債72億9,500万円)の倒産です。これに続き、関係法人である一般社団法人八桜会(負債51億7,500万円)も倒産しました。両法人合わせて約9万1,800名に上る債権者数は、医療業界内外で大きな社会的話題となりました。
3. 倒産件数増加の主な要因・5つのリスク
倒産件数増加の背景には、医療機関のコスト構造変化が大きく影響しています。これは日本経済全体のインフレと連動していますが、COVID-19禍を経て、医療機関特有の要因(人員不足と人件費の上昇、医療材料費の高騰など)によって、その影響が増幅されていると考えられます。
① 人件費の上昇
看護師不足により給与水準が上昇し、特に首都圏では年収500万円を超えるケースも増えています(厚生労働省の調査によると、2024年度看護師の平均年収は508万1,700円)。診療報酬による人件費の補填は限定的であり、特に外来中心のクリニックでは、看護師1名の給与上昇が経営を圧迫する要因となっています。多くの医院が人件費高騰への対応が喫緊の課題とされています。
② 医療材料費の高騰
使い捨て医療器具、検査試薬、医薬品などの価格上昇は、大幅な円安の影響を強く受けています。特に検査試薬は海外依存度が高く、為替変動の影響を直接受けています。また、歯科用の貴金属(金・銀・パラジウム)についても同様で、ウクライナ情勢を背景とする価格急騰の影響も受けています。供給体制の不安定化も含め、コスト管理の重要性が増しています。
③ WAM融資返済問題
WAMゼロ融資(総額約2兆円)の返済問題は、2025年夏をピークとする集中的な返済開始により、医療機関の経営環境に大きな影響を与えることが懸念されています。2020年度実行分は2023年から、2021年度分は2024年から、そして2025年からは2022年度実行分が本格的な返済を開始します。
多くの医療機関では、外来患者数がCOVID-19以前の85〜90%に留まるなど、収益基盤が脆弱な状況での返済本格化となります。個人保証付き融資の場合、返済困難時には個人資産への影響があるため、早期の事業撤退を選択する経営者が急増する可能性も指摘されています。返済計画の再確認と資金繰り対策が急務と言えるでしょう。
④ 患者行動変化の不可逆性
患者の受診行動の変化は、一時的な景気変動ではなく、構造的な変化によるものと考えられます。COVID-19禍を通じて「いま必要な医療」と「延期可能な医療」を厳格に区別する意識が定着し、特に予防医療・健診分野に影響が出ています。医療機関の選択基準も、立地・利便性重視から、感染対策の充実度、待ち時間短縮、予約システムの利便性といった総合評価へと変化してきています。患者層やニーズの変化を捉え、戦略的な対応が求められます。
⑤ 診療報酬制度の構造的限界
現行の診療報酬制度は2年ごとの改定により設定されるため、急激なコスト変動に柔軟に対応できません。人件費や光熱費の急上昇に対する自動調整メカニズムは存在せず、また現状では地域の医療実情も十分に反映されているとは言えません。同一の診療行為であっても、都市部と地方部では提供コストが大きく異なりますが、診療報酬は全国一律であるため、地方の医療機関ほど収益確保が困難となっています。制度への提言だけでなく、限られた枠組みの中でいかに収益を確保するかが問われています。
おわりに
本稿で紹介したように、診療所の閉院・休業が増加する一方で、人口が減少する地域では安定した経営は一層難しくなり、新規開業もなかなか見込めない状況です。医療機関の減少は、少子化が進む地方ほど深刻な問題であり、地域医療の根幹にかかわる事態が進行していると言えます。
クリニックや歯科医院は、患者減少、経営者の高齢化、人材不足など、複合的な課題が山積しています。さらに、2025年にはWAM融資の返済が本格化するため、返済原資を確保できずに倒産・休廃業が急増する可能性も出てきています。医療機関は地域の安全を支えるという側面があり、重要な生活インフラです。そのため、倒産・休業に至る前に事業承継という手段を用いて、クリニックを存続させるべきではないでしょうか。
事業承継には税務や法務、M&Aなどの専門的な知識が不可欠です。貴院の将来を見据え、税理士や弁護士、M&Aアドバイザーなどの専門家と相談しながら、ご自身にとって最適な道を見つけることが重要です。
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