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現役医師の提言、多忙な日常を乗り切る「ストレス管理」と「健康維持」の必要性

現役医師の提言、多忙な日常を乗り切る「ストレス管理」と「健康維持」の必要性

ストレス社会の日本。なかでも医師は、人の健康・命を預かるというその性質上、高ストレスになりやすい職種でしょう。今回は、精神科医の慕 忻桐(む しんとん)先生が自身の経験とデータや日々の勤務の中から、医師のストレスの実態、そして自身を守るために必要な心掛け、また毎日の習慣に取り入れたい「ストレス管理」の方法を紹介します。

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仕事での“ストレス”に、もがき続ける医師

いかなる職業でも、なにか一つのことを続ける限り、決してストレスと無縁ではいられません。精神科クリニック外来では、職場のストレスを訴える患者さんが大半を占めており、その職種は多岐にわたります。社会で生きることがいかに大変であるかを日々思い知らされますが、医師という職業についてもそれは同じことです

筆者は2016年に福島県立医科大学を卒業し、初期臨床研修修了後、2018年4月に循環器内科後期研修医となりましたが、翌2019年4月より休職し、アメリカに渡りました。Boston Collegeで成人心理学、神経心理学入門を学んだあと帰国し、USMLE certificateを取得。その後ご縁があって2023年4月に精神科に転科し、現在は桜ヶ丘記念病院常勤、東京はなクリニック非常勤として勤務しています。日々ストレスを感じながら、もがいている一人です

データで見る、また見えない「多忙な医者の実情」

令和6年の医師の自殺者数は53名(男性42名、女性11名)でし1)自殺企図と自殺既遂の間には高い壁が立ちはだかるのですが、1年の間に53名もの医師がその壁を超えたのはとても心が痛みます。
しかし、令和4年に行われたストレスチェック2)では、業種別高ストレス者の割合は医療・福祉13.5%と、その他を除く19職種中第10位でした。一見高くはありませんが、実情はどうでしょうか

筆者は実のところ、医局のテーブルに置かれていたストレスチェック表を記入した記憶がありません。「いつか記入しなければ」と思いながら、業務に追われるうちに異動の時期になり、山積みになった書類から化石となって発掘される有様でした。似たような経験をした先生方も多いのではないでしょうか。

また、責任感から記入はするものの、昼食のサンドイッチを片手に最速ですべての項目に同じ点数をつけた先生も一定数いるのではないかと推察します。
実際、日本医師会が2021年に行った勤務医に対するアンケート調査3)では、回答率が20歳代で8.1%、最も多い60歳代でも28.4%に留まりました。

多忙なスケジュール、ある程度のことなら融通が利いてしまう立場などの要素は、医師から業務に関わりのない書類を遠ざけ、医師に対するアンケート調査を困難にします。多忙な職業ほど、その多忙さゆえに、ストレス度合いを統計に反映させるのはかえって困難なのです。多くの医師が自身のストレスと向き合う間もなく、限界を迎えています

医師が抱える多くのストレス要因

では、具体的に医師のストレスにはどんなものがあるのでしょうか。前述の日本医師会3)の調査で挙げられていた項目には、休日や当直オンコールの回数睡眠時間不当なクレームコロナウイルス感染症の診療の有無などがありました。
ほかにも、経験年数ごとのストレス(勉強のプレッシャーや、後進の指導など)や人間関係、職場環境のほか、通勤のストレスなどが思いつくところです。

筆者個人の経験では、循環器内科の後期研修医時代に、睡眠不足で苦しむ一方で業務に追われて勉強時間が確保できず、焦っていたのが大きなストレスであったように思います。精神科に転科後は、新米後期研修医として出直すことによる葛藤や、精神科特有の、病状で興奮した患者さんからの心無い言葉など、挙げればきりがありません。

ここでストレスによる生理的な反応について言及すると、身体的ストレスに対する反応としてはFight or Flight反応が有名です。主に脳幹と視床下部を介し、交感神経系が亢進し、脈拍や血圧の上昇をきたすもので4)、適度であればパフォーマンス上昇につながります。
一方で心理社会的ストレスの場合、主に扁桃体がコルチコステロイド分泌を促進したり、扁桃体の外側基底核(BLA)の発火頻度が増加することで嫌な記憶が定着したり、BLAと前頭前野間の経路により感情学習や恐怖反応、不安や対人関係に影響をおよぼすといわれています4)

もともと体力に自信のなかった筆者は、視床下部や扁桃体がフル稼働した結果、心室性不整脈が止まらなくなり、いつも食べているコンビニ弁当でアナフィラキシーショックを起こしてしまったため、休職に至りました。

ストレス解消法の前に見直すべき食事と睡眠

精神科医としてある程度の症例を経験し、また自身の経験も合わせて痛切に感じることは、「メンタルは食事と睡眠でできている」ということです。メンタルが不調な時は、食事か睡眠が崩れています。

食事と睡眠を確保できないのは、医師を高ストレスたらしめている大きな要因です。ほかのストレス解消法を実践するまえに、ぜひ食事と睡眠を見直してみてください。各栄養素をバランスよく摂るほかに、抗炎症作用のある食材は身体的、心理社会的ストレスに対する保護作用が報告されています。

ほかのストレス解消法は多岐にわたり、どんなものでも、ご自身に合ったものが一番です。文章やアートに昇華させる成熟した方法から、クッションを殴るなどといった未成熟な方法まで、他者を害さない、その時の状況や気分にあった手法がもっとも効果的でしょう。

筆者はこの春からプールに通い始めましたが、現時点で、あらゆるストレスに対して高い効果を発揮しています。しかし、水泳そのものが身体的ストレスとなるので、疲労が溜まったら水泳の代わりに、自室に籠って推し活に勤しみます

急性のストレスに対してその場で実践できるものには、全身に一気にぐっと力を入れて緩めるリラクゼーションや、2秒間で鼻から思いっきり吸い、10秒かけてゆっくりと口から吐く呼吸法などがあります。個人的にはその場で20回スクワットするのもおすすめで、患者さんたちにもなかなか好評です。

昨今、医師の働き方を見直す動きがあり、勤務形態は改善されてきているかもしれません。しかし、急変しうる患者さんたちと向き合う仕事である以上、限界があります。医師である限り、ストレスにさらされるのは仕方がないことかもしれません。食事と睡眠を可能な限り死守しながら、ともに生き抜いていきましょう。

参考文献
1) 厚生労働省自殺対策推進室 警察庁生活安全局生活安全企画課
令和6年中における自殺の状況
2) 公益社団法人 全国労働衛生団体連合会 メンタルヘルス専門委員会
令和4年 全衛連ストレスチェックサービス実施結果報告書
3) 日本医師会 医師の働き方検討委員会
勤務医の健康の現状と支援のあり方に関するアンケート調査報告書
 4) Godoy, L. D., Rossignoli, M. T., Delfino-Pereira, P., Garcia-Cairasco, N., & Umeoka, E. H. de L. (2018). A comprehensive overview on stress neurobiology: Basic concepts and clinical implications. In Frontiers in Behavioral Neuroscience (Vol. 12).
https://doi.org/10.3389/fnbeh.2018.00127

著者:
慕 忻桐(む しんとん)
桜ヶ丘記念病院常勤、東京はなクリニック非常勤
精神科医
提供:
© Medical LIVES / シャープファイナンス

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