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開業で知っておきたい税務知識~節税の注意点【税理士が解説】

開業で知っておきたい税務知識~節税の注意点【税理士が解説】

※画像はイメージです/PIXTA

開業後、事業の収支が安定してきたら節税について考え始める方も多いでしょう。日本の所得税は累進課税をとっているため、収入が増えるほど税率が高くなり、税金の額が大きくなります。そこで、行うべき一般的な、または開業医ならではの節税方法についてご紹介いたします。(日本クレアス税理士法人監修)

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1. 現金の流出を伴わない節税

・貸倒引当金
売掛金・未収入金などの金銭債権がある場合、貸倒引当金を経費として計上することができます。計上できる金額は個人の場合、売掛金・未収入金額の55/1000です。次年度以降も継続して貸倒引当金を計上する必要がありますが、節税効果があるのは初年度のみです。

・減価償却方法の変更
減価償却の方法は定額法定率法の2種類があります。定額法は毎年一定の金額を、定率法は毎年の資産の帳簿価額に一定率を乗じた金額を費用計上できます。そのため、定率法を用いると早期に多くの費用を計上できます
ただし、費用計上される総額はどちらを選択しても同じです。

・開業準備費の償却
開業時にかかった費用を開業費といいます。税法上、開業費は任意償却が可能なため、開業費の範囲内であれば全額償却もできます
そのため、所得税率が高い年度で償却するほど高い節税効果を得られます。

・租税特別措置法(措置法)26条の適用
措置法26条を適用した場合、特例計算により概算経費を用いて所得を計算することができます
例えば、社会保険料収入4,500万円経費2,500万円の場合、所得は4,500ー2,500=2,000万円です。
措置法を適用すると、概算経費は3,055万円と算出されるため、所得は4,500-3,055=1,445万円となり適用しない場合と比較して555万円所得が減少します。
ただし、適用要件は社会保険診療報酬が5,000万円以下かつ収入金額が7,000万円以下であるため、注意が必要です。

2. 現金の流出を伴う節税(自己リターン型)

・小規模企業共済への加入
開業医には退職金がありません。そこで、公的な退職金制度として小規模企業共済があります。毎月の掛け金の全額が所得控除の対象となり、節税効果があります。
また、退職金を受け取る際には退職所得として税制の優遇が受けられるため、受取時のメリットも大きいです。要件を満たせば専従者も加入できます。ただし、掛け金が1年以内の場合、掛け捨てになるため注意が必要です。

・倒産防止共済に加入
取引先が倒産した場合に巻き込まれて連鎖倒産することを防ぐ制度です。掛け金の全額を経費として計上することができるため、節税効果があります。解約した場合には、掛け金納付月数に応じた割合で返金を受けますが、40か月以上納付している場合には全額が返金されます。

3. 現金の流出を伴う節税(増収のための投資型)

・少額減価償却資産の購入
本来、固定資産を購入した場合には耐用年数に応じて毎年費用計上する必要があります。しかし、中小企業者等については、30万円未満の減価償却資産を購入した場合、全額その年の経費に計上することができます。ただし、計上できる少額減価償却資産の合計金額は上限300万円で、開業時には月数按分した金額が上限となります。

・中古資産の購入
乗用車や医療療機器等を中古で購入した場合、新品の資産と比較して耐用年数が短くなるため、減価償却費として経費計上する金額が大きくなります

4. 現金の流出を伴う節税(従業員還元型)

・中小企業退職金共済(中退共)に加入
独立行政法人が運営する従業員のための退職金制度です。原則従業員全員を加入させる必要があります。掛け金の全額を経費として計上することができるため、節税効果があるうえに、掛け金の補助など国の助成制度もあります
ただし、いかなる理由で辞職した従業員にも退職金が支払われます。

・厚生年金
個人開業医の場合、常勤5名以上の場合強制加入となります。5名未満でも任意に加入ができるため、未加入の場合には福利厚生として従業員に喜ばれるでしょう。しかし、従業員負担分を給与から差し引くため、従業員に説明が必要です。

臨時決算賞与
臨時的に所得が大きくなった場合、臨時の賞与を検討することも考えられます。昇給も検討できますが、経費が固定化するため、賞与であれば臨機応変に対応できます。ただし、期末に未払の場合には経費に算入できない可能性があるため、年内に支払いましょう
給与支給総額が増加することにより、賃上げ促進税制の適用も検討できるため、併せて検討することをお勧めします。

5. おわりに

開業後の節税対策についてお伝えしました。これらの節税対策を行うかどうかで税金の額が大きく変わることもあります。節税につながるかは、ケースにより異なりますので、税理士などの専門家にご相談の上、計画的に節税対策を実施しましょう。

著者:
日本クレアス税理士法人
執行役員/中川 義敬 税理士(近畿税理士会所属)
提供:
© Medical LIVES / シャープファイナンス

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