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【お医者さんの本棚】『ねこの小児科医ローベルト』『ステイホーム』著・木地雅映子

【お医者さんの本棚】『ねこの小児科医ローベルト』『ステイホーム』著・木地雅映子

絵本や児童書は子どもだけのものとは限りません。実在するモデルのあるという『ねこの小児科医ローベルト』は「お医者さん」を求める親御さんと子どもたち、求められる「お医者さん」であろうとする医療者たちに。『ステイホーム』は、一斉休校になったあの季節「良いことと悪いこと」に悩む小学生のるるこの成長の話。似た迷いを抱えたままの大人は、実はたくさんいるでしょう。どちらも作家の木地雅映子(きじ・かえこ)さん自身の、経験と取材に基づくリアルで不思議でワクワクする物語です。
クリニックの本棚に、お医者さんのお手元に、届いてほしい「生きるチカラ」と願いが主題の本を紹介します。

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小さな子どもの深夜の病変、駆け付けたのは小さくて立派なお医者さん。
『ねこの小児科医ローベルト』

子どもを育てたり、診療対象にしていたならきっと出会う事態。
言葉がうまく伝えられない小さな子どもの、急な病変に最悪の事態を考えてしまう親御さん。その焦りやうまく快方に向かわないもどかしさ。こんなとき医療に繋がらなければ、どんなこともあり得るのです。深夜の救急を呼ぶ保護者たちはいつも真剣です。そして、その病気に対応するお医者さんたちも。

隣で寝ている小さな弟が、急に吐きました。お姉さんのユキは大人たちを呼びに行きます。持ち直してもまた具合が悪くなる弟。だんだん焦り始める両親…そこに「夜間救急専門小児科医 松田ローベルト」と書かれた電話帳の文字をユキは見つけます。小さなバイクの音と共にやってきた先生は本当に小さくて、縦に伸びた耳があって?

【お医者さんの本棚】『ねこの小児科医ローベルト』『ステイホーム』著・木地雅映子

どう見ても猫なのに、二本足で立つ不思議な小児科医の松田ローベルト先生

なぜローベルトは、お医者さんを続けるのか

大人たちが猫の医師、ローベルト先生を忘れても子どもたちは覚えています。そしていつのまにか、家の飼い猫になっている猫のローベルト。夢か本当だったのか”あわい”のお話になりそうですが、お別れの日はやってきます……

作者の木地雅映子さんは「ローベルトは正確には、松田道雄先生の著書『育児の百科』の化身」だと答えています。毎晩、全国で何百人もの保護者たちが一心にページをめくり、苦しむ子どもに手を差し伸べてくれる「松田ローベルト」を求めている。
だから、彼は病気の子どものところへと向かうのです。

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治療の合間に松田先生は、両親とユキに話します。ユキの家は衛生的で、きれいな水の出る安全な場所だから薬がなくても治る病気です。けどそれがない国の子どもたちは命を落とすことだってある。怖くない病気なんてない。けれど「世の中の悲しいところばかりに心を奪われてはいけない」と言い、自分は「自分のしなくちゃいけない仕事をやって生きていけるっていうのは本当に幸せなこと」と、小柄な猫の体に白衣をきりっと着た背中を見せて去っていく。

作品内で具体的な幼児の吐き下しへの対応や、考え方を解説し親御さんにも学びになると評判の内容は、晩年まで改定を繰り返した松田道雄先生の著書はもちろん、医療監修にあたられた金子光延先生の手でさらにブラッシュアップされたもの。
金子先生は出版の3年後、国境なき医師団(MSF)に採用され翌年タンザニアの難民キャンプという、まさに作品中で語られたような現場で活動されました。体験記はMSFサイトで読めます。

【お医者さんの本棚】『ねこの小児科医ローベルト』『ステイホーム』著・木地雅映子

『ねこの小児科医ローベルト』(偕成社)木地雅映子・作、五十嵐大介・絵

”いい子でいたい”けど、世界が壊れることを期待したことはあるだろう
『ステイホーム』

医療に携わる人であれば、様々な形で大きな出来事であったCovid-19パンデミックの2020年春。緊急事態宣言が発令された季節、小学5年生のるるこにとっては一斉休校で「ステイホーム」できるお休みの始まり、のはずでした。
「こんなことを考えたら、私は悪い子だ」と、るるこはしばしば自戒します。世の中にたくさんつらい思いをしている人がいるのに、お母さんに負担をかけるのに、学校には通学しないといけないのに…「誰かが辛かったり負担になる(と思われる)ことを考えたり楽しんではいけない」とブレーキをかけ続けます。
シングルマザーのお母さんもるるこもどこか似たもの同士で、手に負えないことは「魔境は見ない」と、生活のため精一杯の壁を築いてきたのでしょう。

世界が求めることに従わないと不安になる、けれどその世界が壊れる(カタストロフ)を期待する自分もいる。それを封印してほとんどの人は生きています。

【お医者さんの本棚】『ねこの小児科医ローベルト』『ステイホーム』著・木地雅映子

「居てもいい場所」から「自分の居場所」へ。それは全く別のもの (photo image by PIXTA)

『ぼくの伯父さん』ならぬ『わたしの伯母さん』の登場。
自由と責任と、無責任の肯定

普段と変わった世界の道筋の中で、その壁を蹴破るパワフルな登場人物が彼女たちの生活にも風穴を開けて飛び込みます。ふたりの家に現れたのは、旅と家具職人の仕事を続けてきていたお母さんのお姉さん。つまりはるるこの伯母さんでした。

ステイホームの居場所を、根っこから魔法のように作り変える伯母さん、けど書類仕事はからきしでお母さんに全部頼ってしまう「ダメな大人」の伯母さん。嫌いなら嫌いと実の親のことでも言い切ってしまう伯母さん。世界は「元通り」を望むけれど、るるこの中には「戻りたくない」気持ちと「今と自分を肯定する」それを言葉にする勇気が見え隠れしていきます。

「わたしの伯母さん」が教えたのは居場所のケアの仕方でしたが、るるこは「良い子の枠からはみ出す自分」を支える意思の力を身につけます。彼女はそれで傷つく程度に繊細な「良い子」ですが、もう「誰か」から見た「悪い子」であることを恐れない。傷つかないのではなく傷跡を受け入れるレジリエンスとでも呼ぶべき心を見つけているのです。
あの季節のカタストロフを生き延びた私たちは「(あの時の未来である)今を肯定する」ことを、少々の無責任さと勇気をもって選ぶべきなのではないかと、るるこを見ていると考えます。

【お医者さんの本棚】『ねこの小児科医ローベルト』『ステイホーム』著・木地雅映子

『ステイホーム』(偕成社) 木地雅映子・作、ふるえるとり・絵

書誌情報

『ねこの小児科医ローベルト』
木地雅映子 作
五十嵐大介 絵
医療監修:金子光延(医療法人社団晴琉会かねこクリニック)
定価(本体価格) 1,500円+税
サイズ(判型) 22cm×19cm/ページ数 72ページ
ISBN 978-4-03-313770-4
発売日 2019年2月
『ステイホーム』
木地雅映子 作
ふるえるとり 絵
定価(本体価格) 1,300円+税
サイズ(判型) 19cm×13cm/ページ数 216ページ
ISBN 978-4-03-727460-3
発売日 2023年6月

提供:
© Medical LIVES / シャープファイナンス

記事紹介 more

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