開業医の高齢化や世代交代が進む中で、特に地方の地域医療はもちろんとして「医業承継」(医療事業承継)が…
“閉院にはお金がかかる”の常識を変える…開業医を救う「サーキュラーエコノミー」という選択肢【医療コンサルタントが解説】

※画像はイメージです/PIXTA
通常、クリニックの閉院・廃業には高額な費用が発生します。その要因のひとつが、クリニックで使わなくなった医療機器等の廃棄にかかる費用です。しかし昨今、医療資源を“廃棄”ではなく“再利用”する「サーキュラーエコノミー」という考え方が注目されています。クリニックの閉院・廃業を検討する開業医が知っておきたい「サーキュラーエコノミー」という概念とその現在地について、医療コンサルタントの木下賀友氏が解説します。
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やむを得ず「閉院・廃業」を選択するクリニックが増えている
地域格差はあるものの、高齢化などを背景に、医療を受けたいという需要は高まり続けている。在宅医療や往診、遠隔診療などの供給方法の変化はあるが、今後も需要が大きく減ることはしばらくないだろう。
一方、日本の医療現場も高齢化が進み、閉院・廃業を余儀なくされるクリニックが増えている。需要が高まるなかで供給は限られており、地域医療の格差が広がっているのが現状だ。
長年にわたり地域医療に貢献してきたクリニックであっても、そこで医療を提供(供給)する人的資産には限界がある。そのため、医師が高齢化するとともに事業を終わらせなければならない時期があることは否めない。下記[図表1・2]が示す休廃業・解散の理由の多くも、やはり経営者の高齢化によるものが多い。

[図表1]クリニックの休廃業・解散の件数 ※参考:帝国データバンク「医療機関の休廃業・解散の動向調査(2021年)

[図表2]クリニックの倒産件数 ※参考:帝国データバンク「医療機関の倒産動向調査(2021年)
これを解決する方法として、いま「継承開業」に注目が集まっている。
地域医療の必要性を鑑みた場合、閉院・廃業を選ぶことなくクリニックを第三者に引き継いでもらうことができれば、地域の患者様の安心・安全な暮らしを繋いでいくことができる。継承開業は、この点においてとても有効であるといえる。
ところが、現実は継承開業がうまくいかないケースも少なくない。残念ながら、経営状態やクリニックの価値、市場性などによって、クリニックのすべてが継承対象とはなり得ないからだ。
経営を続けることが難しく、継承もできないとなれば、経営者は最終的に「閉院する」「廃業する」という判断をしなければならない。
しかし、閉院・廃業に大きなコストがかかることをご存じだろうか。
閉院、廃業には予想以上にお金がかかる

[図表3]閉院・廃業でかかる主な費用 ※出所:筆者作成
閉院・廃業には現状、上記のように建物の復元・解体費用から備品の処分費用、従業員への退職金にいたるまで、多くの費用がかかる。
しかしこのうち、クリニックが所有する「医療機器や備品の処分」については、一考する必要があるだろう。
医療機器や備品は「再販」できる場合も
これまで、閉院・廃業の際に不要となった医療機器や備品は、廃棄処分することがほとんどであった。しかし、購入年数や使用頻度、保管状況などによっては、思いもよらぬ価値に変わる場合がある。次に活用できる先へ「中古医療機器」として買い取りをお願いできるケースがあるのだ。
ただし、医療機器は薬事承認を受けているため、中古医療機器を再販する場合は一般の製品とは異なり、メーカーの判断を仰ぐ必要がある。
また、再販先の候補には、「国内」「海外向け」「個人譲渡」とさまざまある。したがって、再販を検討する際はまず専門業者と相談し、メーカーあるいは購入先ディーラーに確認してもらうことが必要だろう。
仮に、医療機器・備品の再販が叶えば、これらは「廃棄処理費用代金(支出)」ではなく「買取代金(収入)」に変わる。つまり、先に示した閉院・廃業に係る費用を軽減させることができる。閉院・廃業後の経営者自身の“ハッピーリタイア”にも貢献できるだろう。
特に、X線装置や、CT、MRIなどの高額医療機器は購入ニーズが高い。したがって、閉院・廃業を現在検討している場合、一度専門業者に確認することをおすすめする。
高額な医療機器ほどその処分費用も高いが、条件がよければ思いもよらぬ“掘り出し物”になるかもしれない。
先に述べたように、今後も閉院・廃業するクリニックが増えれば、地域の医療格差は広がる一方となる。その点、医療機器が次の所有者のもとで円滑に使用されれば、医療機器が社会や次世代の医療に貢献する設備としてその価値を発揮し、地域医療格差の是正に寄与する可能性も十分にある。
経営者がやむを得ずクリニックの閉院・廃業を選んだとしても、手持ちの医療機器は、その後有効活用ができる可能性があることをお伝えしたい。
医療業界の「大量消費」の常識を変えることは可能か?
海外で提唱されている「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」とは、昨今日本でも耳にする「SDGs」のカギを握るといわれる考え方で、これまで大量消費・大量廃棄されてきた資源を可能な限り循環させる経済システムである。
廃棄前提の考え方を改め、
①製造の段階からリサイクル可能なものをつくる
②できるだけ長く使う
③再生可能な資源フローを構築する
といった要素がある。
しかし、現状の医療現場はまだまだ課題も多く、どちらかというとサーキュラーエコノミーの対極にある「リニアエコノミー(直線型経済。再利用することなく大量生産⇒大量消費と直線的に資源が流れる経済システム)」の考え方に近い。
特殊な環境下にある医療現場においては浸透しづらいかもしれないが、クリニックの経営が難しくなった経営者の選択肢として「医療機器継承」が一般的になり、経営者・継承者・医療を享受する患者すべてがその恩恵を受けることが可能になる未来を期待したい。
- 著者:
木下 賀友(編集:株式会社幻冬舎ゴールドオンライン)
【株式会社TRUST】代表取締役
社団法人日本医院開業コンサルタント協会 理事・認定コンサルタント
- 提供:
- © Medical LIVES / シャープファイナンス
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