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医療法人化のメリット・デメリットと注意点とは?(後編)【医療法人化のメリット・デメリットと注意点とは?】
※画像はイメージです/PIXTA
クリニックを開業してしばらく経つと、さまざまな理由から「法人化」を検討することがあるでしょう。では、法人化にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
前編記事(【税理士と司法書士が解説】医療法人化の“ベストなタイミング”と“避けたほうが良いタイミング”(前編))から引き続き、多賀谷会計事務所の宮路幸人税理士と、司法書士法人永田町事務所の加陽麻里布代表司法書士が、税理士と司法書士であるそれぞれの観点から「医療法人化のメリット・デメリット」を解説していきます。
医療法人化することのメリット・デメリットとは?
【多賀谷会計事務所 税理士 CFP】宮路 幸人氏
――医療法人化することで医師が得られるメリットを教えてください。
加陽)個人事業主よりも医療法人のほうが、圧倒的に世間からの信用度が上がります。契約当事者や不動産の名義人が、個人ではなく医療法人になるので、社会的信用力は個人事業主と比べて大きく変わります。
医療法人に限らず、医療機関は医療機器のリースや購入が必要になります。その際、医療法人であるかないかが大きく変わってくると思います。また、毎年資産の総額が登記されていくことも、経営の透明性等の観点から「信用力」が高まる要因のひとつです。
宮路)節税効果については、個人事業主の場合、所得税は累進課税のため、所得が高くなるほど所得税、住民税等の税負担が重くなり、また相続があった場合はその財産に対し、多額の相続税がかかるというデメリットがあります。
そこで医療法人化することにより、税率は低く抑えられ、相続が起こった場合でも、医療法人の形態にもよりますが、相続税がかからなくすることが可能であるため、事業承継をスムーズに進めることができるというメリットがあります。
また、以前法人化を行った医師からは、社会認知度が向上して採用面で有利に働いたと聞きました。
――一方で、医療法人化するとデメリットとなることあれば教えてください。
宮路)医療法人を設立する際は、社員2名以上、理事3名以上が必要です。社員は株式会社で言うところの株主、理事は株式会社で言うところの取締役にあたります。そして、「社員総会」と「理事会」を設置し、重要な事項を決議されます。
注意点として、出資額に関わらず投票権がひとり1票となるため、多数決に負けてしまうと、たとえ院長であっても個人の意思とは異なる決定をしなければなりません。医療法人化することによるデメリットというより、リスクとして考えられることですね。
加陽)医療法人は設立時だけでなく、その後の手続きも多いため、維持にも手間と労力がかかります。自治体の関与度が大きく社会的信用が得られる分、必要な手続きが多いことがデメリットかと思います。
医療法人化までに必要となるコストや期間
【司法書士法人永田町事務所】加陽麻里布氏
――医療法人化の手続きにおいて、どのような準備が必要になるのでしょうか?
加陽)医療法人設立予定地の管轄の地方自治体ごとに、どのような書類を準備する必要があるのか、どのようなスケジュールなのかが決まっています。基本的にそれに沿って準備を進めます。たとえば、申請書はもちろん、医療法人の定款、診療所にする物件の賃貸借契約書、医療機器リース契約書、診療所の図面などの準備が必要です。
個人事業主としての実績がある場合は、実績表と確定申告書を申告書に添付するくらいで、準備は比較的簡単です。そうでない場合は、事業計画書や予算書などをゼロから作成しなければならないため、労力がかかります(※)。
もっとも、本申請さえ承認されれば、医療法人設立登記は比較的スムーズに進む手続きです。
また、株式会社とは異なり、医療法人の場合は定款の事業目的の内容に自由度がありません。一言一句指定された内容と同じものを作成しなければならず、多少表現を変えたり順番を変えたりするだけでも許容されないため注意が必要です。
医療法人の設立許可申請は、作成する書類が多くルールも厳しいため、他の分野と比べて特殊な手続きといえます。
――医療法人化に向けてかかる費用や期間の目安を教えてください。
宮路)当然ですが、個人のときと比べると諸々の対応が複雑になるため、医療法人化したほうが税理士への費用はかかります。
たとえば年間売上が1億円ほどの医療法人では、毎月訪問して打ち合わせる場合だと顧問料と決算料を合わせて「年間100万円程度から」が目安になるのではないでしょうか。
また、決算料は顧問料の4~5ヵ月分が目安と言われています。訪問回数や関与具合により報酬は変わるため、あくまで目安となります。
加陽)私が経験した事例で、すでに個人事業主としての実績があり事業計画をしっかりと作成されている医師の場合で、行政書士業務・司法書士業務と合わせて準備期間が約1年間、費用は約100万円でお受けいたしました。
また、医療コンサルタントをつける医師が大半だと思うので、全体としてみれば必要な費用はそれ以上になるかと思います。
印象に残っている事例と医療法人化を目指す医師へのアドバイス
――印象に残っている事例や、医師が気を付けるべきポイントがあれば教えてください。
宮路)医療法人の場合に限りませんが、金銭の管理が不十分なケースが度々見られます。入ってきた分だけ使ってしまい、最終的に金銭不足に陥ってしまう医師も実際に見てきました。多忙な医師業務のなかできちんと金銭の管理をすることは難しいかもしれませんが、計画性をもった資金繰りを心掛けることをお勧めします。
また、開業や医療法人化にともなって、一定以上の収入があることが周囲の人にも分かってしまうため、他者から保証人を頼まれることも少なくないようです。実際、私の税理士事務所で担当している歯科医が保証人を引き受けてしまい、トラブルに巻き込まれてしまいました。
税理士として医師と関わってきたなかで、意外にもお金に苦労している人や、金銭トラブルに巻き込まれてしまう人も少なくないため、その辺りをきちんと管理するためにも、信頼できる税理士を見つけることが必要だと思います。
加陽)医療法人は設立時だけでなく、その後なにか変更が発生した場合にも、各所で適切な手続きをしなくてはなりません。
私が聞いたなかでは、父親から診療所を引き継ぎ、名義人を息子に変更しなくてはならないところ、必要な手続きが漏れていたせいで診療所の名義が父親のままとなっており、医療法上の「名義貸し」にあたると指摘されていました。
医師業務の合間を縫って、多数の必要な手続きをきちんと対応するのは難しいと思います。新設時だけではなく、その後も常に相談できる顧問のような専門家をつけることをお勧めします。
――これから医療法人化を目指す医師に向けてアドバイスをお願いします。
宮路) 個人事業主から医療法人化することによる最も大きな変化は、非営利組織になることだと思います。
診療所が個人の所有物から公的なものになり、透明性の高い組織であることが求められるため自由度が減る一方、社会的信用度が格段に上がります。診療所を増やすことで、地域に貢献できるのは医療法人化する大きな魅力だと思います。
また、デメリットにも言及しましたが、きちんと対応すれば医療法人化は節税対策にも有用です。
加陽)医療法人化にはメリット・デメリットどちらも存在します。そこで重要なのが「医療法人化する目的」です。
事業拡大において医療法人化は必須となりますが、個人事業主には不要な手続きが求められるという負担が生じます。自身の目的に合わせて、さまざまな角度から総合的に判断されると良いと思います。
最近では、MS(メディカル・サービス)法人を設立するケースも見受けられます。これは、医療機関から医療機器の共同購入や医療事務などの一部業務を請け負う形でサービスを提供する、営利事業を行う会社です。
節税対策が目的であれば、煩雑な手続きが必要となる医療法人化を目指すのではなく、MS法人を設立するという形を取るのもひとつの選択肢ではあると思います。
ただし、医療法人は簡単に設立できないからこそ、社会的信用度が高いのも事実です。それが医療法人化する魅力のひとつであることは間違いありませんので、専門家を交えて検討してみてはいかがでしょうか。
- 著者:
【多賀谷会計事務所 税理士 CFP】宮路 幸人
会計事務所における長い勤務経験・豊富な実務経験により、会計処理・税務処理及び経営や税務の相談など、様々な問題に対応。 強みのある領域は不動産と相続関連。特に相続問題では、税金面だけでなく、家族が幸せになれるトータルな提案を重視している。宅地建物取引士、マンション管理士等の資格も保有。 常にフットワークを軽く、お客様のニーズに応えるのがモットー。離島支援活動も積極的に行っている。
【司法書士法人永田町事務所】加陽 麻里布
司法書士合格後、司法書士事務所で実務経験を積み、2018年に独立。永田町司法書士事務所を設立。2023年1月に法人化し、司法書士法人永田町事務所に。
業界“ファーストクラス”を基本理念に、依頼者のビジネスと日常を有利にすべく日々邁進中。執筆活動にも積極的で、媒体を問わず精力的に活動している。
(編集:株式会社幻冬舎ゴールドオンライン)
- 提供:
- © Medical LIVES / シャープファイナンス
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