現在日本では、中小企業を中心とした後継者不足が顕在化しています。もちろん医療業界も例外ではなく診療所…
親族承継で押さえておきたい、医業承継のポイント【税理士が解説】

現在日本では、中小企業を中心とした後継者不足が顕在化しています。もちろん医療業界も例外ではなく診療所経営者の高齢化が進んでおり、次世代への事業承継が地域医療の継続性や医療業界の発展のための大きな課題となっています。今回は「親族承継」に焦点をあてた事業承継の進め方について、日本クレアス税理士法人/執行役員の中川 義敬税理士が解説します。
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【1】医業承継のパターン
一般的に診療所の事業承継には、まずは診療所の経営主体が「個人」か「医療法人」かによって、また承継者が「親族」か「第三者(他人)」かによって解決すべき課題が異なってきます。
以下の図によってそれぞれのケースのポイントを解説します。

【2】個人診療所の親族承継のポイント
親族承継は他人に診療所を引継ぐ、いわゆる「第三者承継」に比べ、診療所の職員や患者の理解が得やすく円滑に承継を進めることができるケースが多いとされます。しかしそれでも事業承継には、事前に解決すべき課題が多々あります。
・ポイント1
承継時期・診療方針・スタッフの入替・借入金の引継ぎなど、診療所の承継において親族間で話し合うべき事項が多々あります。これらの話し合いを経ないまま承継を行うと、診療所の承継者にとって思わぬトラブルが生じるおそれがありますので、親族間で腹を割って話し合いましょう。
・ポイント2
診療所を承継するためには、医療機器やクリニック(土地または建物)など事業用資産を次世代に承継することとなります。承継方法には、「親から子に売却するケース」や「親が子に相続(贈与)するケース」がありますが、いずれの方法がよいのか検討する必要があります。
戸建開業の場合、クリニックの建物や土地の金額が高額になるので、一般的に相続により承継するケースが多く見受けられます。
どの場合でも相続人が複数いる場合には相続を円滑に進めるために遺言書を作成しておくことをお勧めします。
【3】医療法人の親族承継のポイント
診療所の経営主体が医療法人である場合には、クリニックの事業用資産を承継する個人診療所とは異なり、医療法人の「経営権」及び「財産権」を承継することとなります。
医療法人には、設立時期によって「出資持分あり」の医療法人と「出資持分なし」の医療法人が存在することとなりますが、「出資持分あり」の医療法人と「出資持分なし」の医療法人では承継方法が異なることとなります。
【4】出資持分ありの医療法人の親族承継
「出資持分あり」の医療法人の場合、医療法人の出資持分(財産権)を承継することとなるため、医療法人の出資持分の価値が高ければ高いほど、承継する際に税負担が重くなります。
【5】出資持分なしの医療法人の親族承継
「出資持分なし」の医療法人の場合、出資持分(財産権)が存在しませんので、「経営権」のみ承継することとなります。そのため、個人診療所を承継する場合、あるいは「出資持分あり」の医療法人の出資持分を承継する場合とは異なり、贈与税や相続税などの税負担を考慮に入れる必要はありません。
ただ「出資持分なし」の医療法人を解散させる場合には、医療法人の財産は国に帰属することとなるため、退職金を支給するなど医療法人に財産が残らないような対策を講じる必要があります。
親族に医師がいる場合、診療所経営の出口戦略として親族承継が挙げられますが、今回ご紹介したように親族承継には診療方針の引継ぎ、患者・スタッフとの人間関係の引継ぎ、課税面での課題、相続にまつわる問題など事前に検討すべき事項が多々あります。円滑な親族承継を迎えるためにも、専門家にご相談されることをお勧めします。
- 著者:
日本クレアス税理士法人
執行役員/中川 義敬 税理士(近畿税理士会所属)
【経歴】2007年税理士登録、2009年に日本クレアス税理士法人入社。
現在に至るまで、東証一部上場企業から中小企業・医院の税務相談、税務申告対応、医院開業コンサルティング、組織再編コンサルティング、相続・事業承継コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等に従事。
医院の新規開業支援、会計税務、医業承継・相続対策など、個人医院から大病院までをサポートしてきた医療分野での高い経験を生かすため、2019年7月大阪本部 本部長に就任。現在に至る。
- 提供:
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