クリニックの事業承継は「親族承継」が一般的でしたが、近年は第三者承継(M&A)が増加しつつあります。…
【医業承継・売り手編】買い手先の探し方・相談先・相談前に決めておくべきこと【税理士が解説】

開業医の高齢化や世代交代が進む中で、特に地方の地域医療はもちろんとして「医業承継」(医療事業承継)が注目されています。親族、親子間以外の形で増えてきているクリニックの承継。事例が増えてきている今、ぜひ事前知識を持った上で臨まれるとスムーズに望む形に近い承継ができるでしょう。今回は「買い手の探し方・相談先・相談前に決めておくべきこと」について日本クレアス税理士法人/執行役員の中川 義敬税理士が解説します。
▶「MedicalLIVES」メルマガ会員登録はこちらから
日々の診療に役立つコラム記事や、新着のクリニック開業物件情報・事業承継情報など、定期配信する医療機関向けメールマガジンです。メルマガ会員登録の特典として、シャープファイナンスのサポート内容を掲載した事例集「MedicalLIVES Support Program」を無料進呈!
【1】専門家に相談、その前に決めておくべきこと
■手元にいくら残したいのかを決めておく
M&A仲介業者などの第三者に買い手の探索や承継の手続きを依頼する場合は、当然ですが手数料が発生します。売却価格からこの手数料を差し引いた金額が手元に残るお金となりますので、大体いくら手元に残したいかをざっくりと決めておきましょう。
また、この手元に残るお金には税金もかかります。売却価格によっては、廃院した方がお金が手元に残るという場合もあります。廃院した場合の金額のシミュレーションも行っておきましょう。
この売却価格を決める際に重要となるのは、
・個人事業者の方であれば確定申告書(決算書を含む)
・法人の方であれば決算書と法人税の申告書
これらとなります。その計算書類を3期~5期分準備し、買い手に提示する価格として妥当な金額を算定します。
また、クリニックのポイントや診療の理念などを整理しておきましょう。買い手がどのようなクリニックかを想像しやすくするためです。
例えば、「地域に根差したクリニックとなる」という診療理念があり、「丁寧な診察」が評判のクリニックなのであれば、その診療理念や方針に共感できる買い手に事業承継を行うことが適正です。そのほかにも「住宅街で高齢者の方が多い地域である」や「スタッフの教育が行き届いていると評判である」などの買い手にとって魅力的に映りうる事項も洗い出しておくと良いでしょう。
【2】買い手先の探し方・相談先
買い手候補を探す方法は大きく分けて2つあります。
1つ目はM&A仲介をしている事業者に探してもらうこと、2つ目はご自身で買い手を見つけてくることです。ただ、医業承継の手続きは複雑ですので、後者の場合でも手続き自体は行政書士等の専門家にお任せすることをおすすめします。
1つ目の方法の場合、M&A仲介業者に問い合わせて、秘密保持契約を結んだ上で、内部資料を提供し、買い手を探してもらいます。買い手との面談の際には、常に仲介業者の方が同席するので、プロの目線も交えての交渉となるため安心です。一方で、近年では悪質なM&A仲介業者もいますので、しっかり見極めて依頼しなければなりません。
2つ目の方法は、自力で探す方法です。先生ご自身の人脈でも良いですし、所属の医師会に相談したり、顧問税理士や銀行に相談してクリニックの購入を考えている方がいないか聞いてみましょう。
この際の注意点は、医業承継はお金やリスクのお話などデリケートな話が多いので、第三者を介さずに行うと人間関係などの問題が生じる可能性がありますし、ご自身の要望が伝えにくくなってしまう可能性があります。
また、ご自身の人脈で買い手候補を探している場合は、知り合いの方と上記のようなデリケートな話題をすることとなります。
【3】具体的な手順
M&A仲介業者などの第三者を介して買い手を探す場合の手順について簡単に紹介します。
初期段階では、クリニックを特定できないように、名称等は伏せた匿名の状態で情報を提示します。匿名情報が記載された書類を「ノンネームシート」といいます。ノンネームシートには、所在エリアや診療科目、診療日といったクリニックの基本的な情報から、スタッフの数、医療機器の数、収益や利益の数値、そして買い手の方に求める適性などの情報が記載されます。
ノンネームシートをみて興味を示す買い手候補が現れた場合、秘密保持契約を締結したうえで、より詳細な情報を提供します。
そして、買い手候補が見つかれば、具体的な売却金額や売却方法等の事項について買い手と売り手の間で合意を取り、正式に契約をします。
おわりに
医業承継をする際には、ご自身の金額面での希望を明確にしておくことと、ご自身のクリニックについてしっかりと把握していることが大事です。顧問税理士に相談して、売却価格の試算を行うことも検討してみてください。
なかなか骨の折れる作業であり、時間がかかることが予想されますので、余裕のあるうちに準備をすることをおすすめいたします。
- 著者:
日本クレアス税理士法人
執行役員/中川 義敬 税理士(近畿税理士会所属)
【経歴】2007年税理士登録、2009年に日本クレアス税理士法人入社。
現在に至るまで、東証一部上場企業から中小企業・医院の税務相談、税務申告対応、医院開業コンサルティング、組織再編コンサルティング、相続・事業承継コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等に従事。
医院の新規開業支援、会計税務、医業承継・相続対策など、個人医院から大病院までをサポートしてきた医療分野での高い経験を生かすため、2019年7月大阪本部 本部長に就任。現在に至る。
- 提供:
- © Medical LIVES / シャープファイナンス
記事紹介 more
クリニック開業といえば、開業を志す1人の医師がすべてを担うイメージを抱く人は多いでしょう。しかし医療…
ビリヤニを知っていますか。旅先のごちそう、香り高くどこか特別な「もてなしの味」。 昨年はコンビニに…
料理家・ワタナベマキさんは、酸味と塩気、コクを一度に加える梅干しを、料理の基本調味料「さしすせそ」に…
少子高齢化などを背景に医療ニーズが年々高まる一方、医療業界においては深刻な人材不足が喫緊の課題となっ…
勤務医のなかには、自身の属性を活用して不動産投資を行っている人が少なくありません。しかし、これは開業…
開業を検討される先生方には「新規開業」または「承継開業(M&A)」という二つの選択肢があります。かつ…
「ジャパニーズウイスキー」として国際的な評価が高まり続ける国産ウイスキー。しかし生産国・日本に住む私…
日々の診療やスタッフとのやりとりの中で、ちょっとした雑談がきっかけで、患者さんとの信頼関係が深まった…