「青春18きっぷ」と聞いて、忙しい医業の世界に入る前の長い休みや鉄路の旅を思い出す人もいるかもしれま…
準備不足の閉院で転落した元開業医…1年後に知った「避けられた悲劇」【弁護士が警告】

※画像はイメージです/PIXTA
近年、後継者不足や経営難を背景に、医療機関の倒産・休廃業が増加しています。開業医にとっては、人手不足や経営難からやむを得ず閉院に踏み切るわけですが、「閉院すればそれで終わり」というわけにはいきません。準備不足で慌てて閉院した場合、あとになって深刻な法的トラブルに発展する可能性があるのです。地方クリニックの事例をもとに、その具体的な法的トラブルと回避策についてみていきましょう。弁護士法人山村法律事務所の寺田健郎弁護士が解説します。
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閉院・廃院数は今年も過去最多ペース
近年、医療機関の倒産・休廃業は過去最多を更新し続けており、2025年も最多を更新する勢いで増加しています。特に、地方都市では後継者不足や経営悪化からやむを得ず閉院するケースが目立ち、地域医療に穴が開く危険も生じています。
もっとも、問題は「閉院」という事実だけではありません。準備不足のまま閉院することで、その後に思いもよらない法的トラブルに発展する可能性があるのです。
こんなはずでは…「準備不足」が招いた悲劇
とある地方にある内科クリニック。院長のAさんは、後継者不足と経営悪化を理由に、特段の準備をせず閉院を決断。従業員に対しては、閉院の事実を告げたのちに整理解雇しました。
半年後…Aさんのもとに届いた「内容証明」
すると約半年後、元従業員からAさんのもとに内容証明が届きました。
その内容は、「解雇手続が不当である。労基署にも申告済みであり、解雇は無効、未払賃金を支払ってほしい」というもの。
実はAさん、解雇予告手当も社会保険の資格喪失手続きも放置したまま、解雇を行っていたのです。
解雇による損害賠償の場合、解決金の相場は当該職員の1~2年分の給与といわれます。医師や看護師のような専門職の場合、高額の解決金を支払うリスクが生じます。
1年後…「カルテはどこへ?」と連絡が入る
さらに閉院から約1年後、Aさんのもとに別の医療機関から連絡がありました。患者が治療を受ける際、「当院での過去の検査結果が必要だ」とのこと。ところが、閉院にあたりAさんはカルテを廃棄しており、対応不能の状況でした。
これは、医師法が定める「カルテ保存義務違反」に該当し、行政指導や罰金を受ける恐れのある対応です。
さらに…リース会社から数百万円の請求書と返還要求が届く
さらに、閉院時に急いで片づけた結果、医療機器リース契約の「中途解約違約金」やOA機器の返却を見落としていたAさん。突然届いた数百万円の請求書と返還要求に愕然とします。
医療機器の場合、そのリース代金も高額になることが多く、請求総額が数百万円にのぼることも珍しくありません。
これらのトラブルは、どれもしっかりと余裕を持って対処すれば防げたものです。もしも閉院後にこうしたトラブルを抱えて弁護士に相談に来ても、「法的には先方の主張が正しい」「支払義務を負うことになるので、支払ってください」という回答しかできません。
「円満な閉院」を実現するためにできること
では、どうすればこのようなトラブルを避けられるのでしょうか。
1.閉院は事前計画が必須
閉院は「数年がかりのプロジェクト」と考える必要があります。そのため、遅くとも 1年前から計画を始めるのが理想です。患者への告知や職員の整理、行政への届出、財産の処分等、やるべきことは多岐にわたります。
2.行政・法的な義務を確実に果たす
カルテは5年(医師法24条)、レントゲンは3年(保険医療機関及び保健医療養担当規則9条)の保存義務があるほか、閉院にあたっては保健所への診療所廃止届、厚生局への保険医療機関廃止届、麻薬取扱者業務廃止届、税務署への廃業届等、さまざまな届出を行う必要があります。
これらを怠ると、行政指導や罰金などの行政罰のリスクがあるため注意が必要です。
3.職員・スタッフへの適切な対応
職員・スタッフには早期に説明を行い、解雇予告手当や退職金等、適切な手続きを履行する必要があります。また、転職先のあっせんを行うなど、従業員の「その後」をケアすることが、労働紛争を回避する最大の手段です。
4.契約関係を精査する
医療機関で締結している契約内容は、必ず確認するようにしましょう。違約金や原状回復義務を事前に把握し、費用を見積もっておかなければ、のちに大きな損失を生むリスクが生じます。
特に、事業用の契約は消費者保護の要請もなく、厳しい判断がされることが多いです。この点も把握しておくべきポイントでしょう。
5.「事業承継」の検討
人口の少ないエリアでは、1つの医療機関の閉院はそのまま「地域の医療空白」につながります。そこで注目すべきが、第三者への事業承継(M&A)です。
特に、後継者不足に悩む医療機関には効果的であり、仲介会社を通じてクリニックを譲渡することで、下記のようなメリットが期待できます。
・患者は病院を変えず治療を継続でき、地域の医療空白を防止できる
・スタッフはそのまま雇用を維持できる
・院長自身も閉院コスト(物件解約金・処分費用、職員退職金等)を大幅に軽減できることに加え、事業譲渡による経済的メリットも享受できる
・スタッフはそのまま雇用を維持できる
・院長自身も閉院コスト(物件解約金・処分費用、職員退職金等)を大幅に軽減できることに加え、事業譲渡による経済的メリットも享受できる
“閉めずにつなぐ”「事業承継」という選択肢
近年は、地方都市の医療機関の倒産が社会問題化したこともあり、事業承継はにわかに注目を集めている分野といえます。また、弁護士をはじめとした専門家がしっかりと関与した事業承継は、関係者のリスクを最小限度にすることも可能です。
他方、やむなく閉院を選択する場合、時間とコストをかけてしっかりと準備しなければならず、また地域医療に与える影響も無視できません。
「どうせ閉めるしかない」と決心する前に、一度事業承継の可能性を探ることは、合理的な選択といってよいでしょう。
〈まとめ〉
1.地方医療機関の閉院、休廃業は過去最多ペースを更新
2.準備不足状態の閉院は、院長にとっても患者・スタッフにとっても“悲劇”を招く
3.事業承継を含めた出口戦略を早期に検討することで、三方よしの解決方法が見つかる可能性が高い
1.地方医療機関の閉院、休廃業は過去最多ペースを更新
2.準備不足状態の閉院は、院長にとっても患者・スタッフにとっても“悲劇”を招く
3.事業承継を含めた出口戦略を早期に検討することで、三方よしの解決方法が見つかる可能性が高い
- 著者:
寺田 健郎 弁護士法人山村法律事務所 弁護士
編集/幻冬舎ゴールドオンライン
- 提供:
- © Medical LIVES / シャープファイナンス
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