NextStageへ To Next Stage

資産1億円超・患者からの信頼も厚い70代開業医が急死…院長の妻が夫の死後“2度泣いた”ワケ【FPの助言】

資産1億円超・患者からの信頼も厚い70代開業医が急死…院長の妻が夫の死後“2度泣いた”ワケ【FPの助言】

※画像はイメージです/PIXTA

「生涯現役」を掲げる開業医は多く、そのため事業承継や相続への備えが十分でないケースも少なくありません。これによって被害をこうむるのが残された家族です。資産1億円超の院長が急逝した事例をもとに、開業医が見落としがちな相続・事業承継の落とし穴と、家族を守るための具体的な対策をみていきましょう。FPの山中伸枝氏が解説します。

▶「MedicalLIVES」メルマガ会員登録はこちらから
日々の診療に役立つコラム記事や、新着のクリニック開業物件情報・事業承継情報など、定期配信する医療機関向けメールマガジンです。メルマガ会員登録の特典として、シャープファイナンスのサポート内容を掲載した事例集「MedicalLIVES Support Program」を無料進呈!

人気院長の突然死が招いた“二度の悲劇”

「主人が亡くなったときは、本当に胸が張り裂けるような思いでした。でももっとつらかったのは、その後に始まった相続争いです

そう語るのは、関東郊外で「エリアNo.1クリニック」を築き上げた70代開業医・佐々木先生(仮名)の妻です。夫の死から1年、彼女は「夫の死で“二度泣いた”」と振り返ります。一度目は最愛の夫の突然死。二度目は、その後に起きた泥沼の相続トラブルによる“家族崩壊”でした。

エリアNo.1クリニック院長の急逝が招いた混乱

佐々木先生は70代前半で亡くなりました。紺屋の白袴といいますが、日々の診療に追われ、自らの定期健診は後回し。そして突如心筋梗塞で倒れると、そのまま帰らぬ人となったのです。

クリニックは30年以上にわたり地域医療を支え、地元住民から絶大な信頼を得ていました。常勤スタッフは看護師4名、受付2名、そして非常勤の医師が2名。患者数は月に1,500名以上。年間の医業収益は1億円を超えていたそうです。
患者からの信頼を集め、診療も順調であったクリニックでしたが、突然の院長の死によって現場は大混乱。診療は一時ストップせざるを得ず、勤務医やスタッフには不安が広がり、患者は他院へと流れ出してしまったのです

院長が遺した資産は、クリニックの不動産(評価額7,000万円)預金1,000万円投資信託や株式など3,000万円。全体で1億円を超える「立派な財産」でした。

“争続”へと発展した佐々木家の事情

しかし、クリニックは法人化もされておらず、全資産は個人名義でした。さらに、遺言書がなかったことから事態はますます悪化。開業医本人が亡くなったため、その瞬間に事業は“個人の財産”として相続対象になってしまったのです。

佐々木夫妻の実子は3人。長男は地方で勤務医次男は自営業長女は専業主婦です。いずれもクリニックの経営には関わっておらず、後継者不在の状態でした。
「今まで、父親のクリニックは継がないといっていた長男が突然『俺が継ぐ』といい出したんです。でも、次男は『親父の財産を勝手に使うな』と激怒して……。お葬式の翌日には大ゲンカになりました」
妻が涙ながらに語るように、争いは激化。弁護士を介した話し合いが始まるなど、一家は事実上“分裂状態”に陥りました

加えて、彼女はこうも漏らします。
「主人は医師としては誠実で立派でした。でも家庭のことはすべて私に任せきりで……。子どもたちとも“家族としての時間”が少なかったのは事実です」
家庭を顧みる余裕もなく、診療にすべてを注いできた日々。その結果、死後に残された“家族の絆”は、思いのほか脆いものでした。

開業医が見落としがちな「3つの重大リスク」

実際、佐々木先生のように個人開業のまま高齢を迎え、準備を怠ったがゆえに、死後にクリニックが混乱に陥るというケースは決して少なくありません。
今回の事例の問題点は次の通りです。

①遺言書の不在
医業継続や資産分割の意志を残す「遺言書」がなければ、法定相続人同士での争いが起こりやすくなります。
②生命保険の未活用
納税資金や当面の運転資金が不足すると、資産を守るどころか処分に追われる事態になりかねません。保険は“家族を救う即効性のある資金”です。特に、相続の際に控除の対象になること、受取人固有の財産であること、資金の支払いが速いことなどがその特徴としてあげられます。
③事業承継の未整備
法人化していない場合、クリニックの設備・帳簿・職員契約などすべてが“個人財産”扱いとなり、突然の死亡で運営がストップします。

ここで、参考までに個人開業医が医療法人化することにより、どんな効果があるのかをご紹介します。
医療法人化のメリットは以下の通りです。

・クリニックの運営資産(不動産・設備・運転資金など)を法人名義にできるため、死亡しても法人は存続することができる
給与・退職金制度を整えることで、老後資金や相続財産のコントロールがしやすくなる。
法人に生命保険を契約させ、死亡退職金の原資や納税資金に活用できる。

もちろん、医療法人化だけが対策ということではありませんし、その届け出の手間や運営の制限もあるため、状況に合わせて専門家と連携して準備する必要があります。

家族を守るための「3つの備え」

これまでを振り返ると、もし佐々木先生が次の3点を準備していれば、妻が“二度泣く”ことはなかったかもしれません。

1.医療法人化による事業承継の整備
2.公正証書遺言で意思を明文化
3.必要額の生命保険加入と受取人の最適設計

今回紹介した佐々木先生のように、医師としての責任感の強さゆえ「家庭は後回しにしてきた」という先生もいるでしょう。しかし、最後に守りたいのはやはり「家族」なのではないでしょうか。それならば、未来への備えに目を向けることが重要です。

「主人の死をきっかけに、私たち家族の関係が壊れてしまった。こんなことになるなら、もっと早くに準備していてくれたら……

妻のこの言葉が、いま開業医として働くあなたに届くことを願っています。医師としてだけでなく、 “家族の未来を設計する責任者” として、相続と事業承継に向き合うこと――それが、本当の意味での「成功した医師」の姿ではないでしょうか。

著者:
山中伸枝
株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役 CFP
(編集:株式会社幻冬舎ゴールドオンライン)
提供:
© Medical LIVES / シャープファイナンス

記事紹介 more

「生涯現役」を掲げる開業医は多く、そのため事業承継や相続への備えが十分でないケースも少なくありません…

クリニック経営の成否を左右する重要な要素のひとつに「立地」があります。その立地を選ぶうえで欠かせない…

医師は日々の診療業務や研究、不規則な暮らしなどで多くのストレスに晒されています。患者の命を守り心身を…

予約困難な人気店『ビリヤニ大澤』の初レシピ本からお届けする第二弾は、前回よりも贅沢に! フライパンで…

医院を運営していくなかで、新規開業に始まり事業拡大や医療機器等の買替えの際に避けて通れないのが資金調…

梅干しは万能調味料。この伝統食を「漬物」の固定観念から解き放てば、それはジューシーで香り高く、コクも…

診療時間の中だけでは伝えきれない、患者さんやご家族へのアプローチの試み。ロコクリニック中目黒では “…

ペットフレンドリーな施設は増えてきたとはいえ「旅行」は、愛犬派にとってハードルが高め。それも都市部で…

2年間の初期研修(臨床研修)を終えたばかりの若手医師が、そのまま美容医療に流れる「直美」が問題視され…