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安易な選択は“命取り”かも…クリニック開業の成否を左右する「物件」の選び方【医療コンサルタントが解説】

安易な選択は“命取り”かも…クリニック開業の成否を左右する「物件」の選び方【医療コンサルタントが解説】

※画像はイメージです/PIXTA

クリニックの経営において、「物件選び」はその成否を左右する重要なファクターです。とはいえ、立地や広さ、テナントか戸建てかなど、ひと言に「物件」といってもさまざまな要素があり、一概に「なにが正解」と言えるものではありません。そこで、クリニック開業時の物件選びについて、“失敗しないためのポイント”をみていきましょう。船井総合研究所の医療コンサルタント、川本浩史氏が解説します。

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物件選びは”事業コンセプト”と一致させるのがコツ

クリニック経営における物件選びにおいて、まずなにより重要な考え方は、「物件は事業コンセプトに基づく必要がある」ということです。事業コンセプトというと難しく聞こえるかもしれませんが、「自院は、①誰に、②なにを、どのように提供するのか?」と言い換えるとイメージしやすいのではないでしょうか。

一般的にクリニックの開業は、駅前やビルであれば1Fなど“視認性の高い場所”への入居が大事といわれます。しかし、それはすべての診療科にとって正しいとは言い切れません。

たとえば、「①誰に提供するのか」を考えた際、精神科・心療内科や婦人科、泌尿器科のように「他人に受診しているところを見られたくない」と思う患者さんが多いような診療科目では、むしろあえて少し奥まった場所を選ぶほうが受診しやすいと思ってもらえるでしょう。

同様に、そのクリニックがどのようなコンセプトで診療を行うか(=②なにを提供するのか)によっても、適切な物件は異なります。あまり検査の必要がない診療科目の場合や、忙しいビジネスパーソンをターゲットに仕事の合間をぬって受診してもらうコンセプトなのであれば、そこまでの広さは必要ないといえます。

一方で、内視鏡検査を重視する消化器内科や、MRI検査を重視する脳神経外科である場合には、必要な検査に見合った広さや導線設計が必要です。

このように、開業時の物件選びの際には、自院のコンセプトを決めることで、理想の物件の条件が見えてきます。

クリニックは「テナント」と「戸建て」どちらが良い?

クリニックの物件選びでよく迷うポイントに、「テナント」にするか「戸建て」にするかという点があります。ここでは、それぞれのメリット・デメリットを整理します。

テナント開業…初期投資が抑えられる一方、自由度が低い

<テナント開業のメリット>
・開業準備が比較的短期間で進められる
・早期から顧客に認知されやすい
・初期投資が抑えられやすい

テナント内でクリニックを開業すると、戸建てよりも短期間で開業準備を進めることができます。また、特に駅ビルなど人通りが多いエリアや大規模商業施設内のテナントで開業する場合、通勤や買い物ついでの患者層を取り込みやすく、診療科目によっては大きな集患効果が期待できます。

また、戸建て開業よりも初期投資が抑えられやすいという点もメリットです。特に開業初期は資金繰りに余裕がないことから、運転資金が安定しやすいといえます。

<テナント開業のデメリット>
・自由度が低い
・賃料がかかり続ける

一方で、テナント開業の最大のデメリットは、自由度が低いことです。テナントでは広さがあらかじめ決まっていることが多く、クリニックのコンセプト実現に必要な検査機器を置くスペースが確保できなかったり、診察スペースに制限がかかったりすることもあります。

さらに、契約内容によっては原状回復義務があったり、契約年数が決まっていたりなど、経営の拡張性が制限されるケースも少なくありません。

また、テナント開業は先行投資が比較的少なく済む一方で、賃料がいつまでもかかり続けるという点も見逃せません。初期投資が抑えられたとしても長期的にはコスト負担が大きくなる可能性があるほか、賃料の値上げや契約更新時の条件変更といったリスクが常に存在するというデメリットもあります。

テナント開業を検討する際は、契約内容を十分に確認し、賃料や管理費、退去時の条件まで細かく把握しておくことが重要です。

戸建て開業…資産として長く残る一方、資金繰りが難しい

<戸建て開業のメリット>
・自由度が高い
・長期的な安定性が望める
・駐車場が設置できるなど、患者の利便性が高い
・物件が資産になる

戸建て物件の場合、テナントとは異なり自由度が高く、長期的な安定性がある点が大きなメリットです。

土地を購入して理想の空間を設計できることから、自院のコンセプトを体現しやすいといえます。また立地によっては駐車場を設置できるため、車での移動が一般的な郊外や住宅街の場合、駅前よりも患者にとって利便性が高くなることもあります。

さらに見逃せない戸建て開業の大きなメリットとして、物件を資産として残せる点が挙げられます。高齢になるなどして自身が引退したあとも、子への引継ぎや第三者承継を通じて、クリニックの長期的な存続性が担保されやすいでしょう。

<戸建て開業のデメリット>
・初期負担が大きい
・資金繰りが難しい

一方、戸建て開業の場合、土地の購入費用や建設費用、内装工事費が高額になるほか、開業までに年単位で時間がかかるため、早い段階からの緻密な計画立てが重要です。

また、テナントであれば経営していくなかで賃料負担が重たくなれば「移転」という選択肢がありますが、戸建ての場合短期間での移転は非常に困難です。

戸建て開業を検討する際には、初期投資に対するリターンをしっかりと見極め、テナント開業よりも長期的かつ現実的な経営戦略・資金計画を立てるようにしましょう。

物件選びは「事業コンセプト」と長期的な視点がカギ

物件選びは、クリニック経営を左右する重要な要素です。テナント開業は短期的な集患効果が高く初期の資金繰りが安定しやすい一方、自由度の低さや契約条件に注意が必要です。

他方、戸建て開業では初期投資が大きくリスクは高いものの、自由度が高く事業コンセプトを体現しやすいことが利点で、長期的に安定した経営を目指すことができます。さらに引退時のことまで考えると事業承継も行いやすいことが特徴です。

長期的なクリニック経営を成功させるためには、開業時のメリット・デメリットだけでなく、自院のコンセプトを明確にしたうえで長期的なコストと収益のバランスを見極めた物件を選びましょう。

 

著者:
川本浩史(編集:株式会社幻冬舎ゴールドオンライン)
【株式会社船井総合研究所】インダストリー統括本部メディカル支援本部
医療支援部医療グループ シニアコンサルタント
提供:
© Medical LIVES / シャープファイナンス

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