はじめに:成長の証としての移転プロジェクト患者様の増加は、医療機関の努力が実を結んだ証であり、喜ばし…

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はじめに:成長の証としての移転プロジェクト
患者様の増加は、医療機関の努力が実を結んだ証であり、喜ばしい成長の悩みです。しかし、その成長に伴い、現在の施設では対応しきれなくなり、より広い場所への移転を検討されるケースも少なくありません。
医院移転は、単なる場所の変更ではなく、今後の経営の持続性と地域医療への貢献度を左右する一大プロジェクトです。このプロジェクトは、通常1年半〜2年程度をかけて進める大掛かりなものであり、徹底した準備と計画が必要です。
本稿では、医院移転を検討する際に注意すべき重要ポイントと、プロジェクトを円滑に進めるための具体的なスケジュール(何から始め、いつ、どのような動きをするか)を、特に見落としがちなポイントに焦点を当てて解説します。
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第1章:医院移転検討の注意すべきポイント(漏れがちな点を含む)
移転プロジェクトを成功させるには、準備段階で経営、立地、そして人に関するリスクを徹底的に洗い出すことが重要です。
1.経営・財務面:資金繰りと二重コストの回避
●資金繰りの徹底計画
移転に伴う初期費用(契約金、内装、設備、M&A費用など)は膨大になりがちですが、最も注意すべきは、移転工事や行政手続きにより診療ができない期間に発生する閉院期間中の収入途絶の想定です。この期間を乗り切るための運転資金に十分な余裕を持たせる計画が不可欠です。
●漏れがちなポイント:旧医院の活用/処分と二重コスト
新医院の準備に集中するあまり、旧医院の解約手続きや処分が後回しになりがちです。所有物件であれば売却・賃貸・用途変更などを早めに検討し、新旧両方の家賃や維持費が発生する二重コスト発生期間を最短にするためのアクションを、早期に計画する必要があります。
●税金・登記の期限確認
不動産取得税や、新医院の開設後に必要となる各種申請手続きを確認し、特に移転登記申請は開設日から14日以内に行う必要があるなど、期限厳守が求められます。
2. 立地・物件面:医療機関としての適合性
●競合調査とエリアマーケティングの深化
移転先を選ぶ際、単に広い場所を選ぶだけでなく、移転先の周辺環境を綿密に調査することが重要です。人口動態、競合医院の診療科目、交通の便(患者様が来院しやすいか)を分析するエリアマーケティングが成功の鍵を握ります。
●漏れがちなポイント:物件の法規制とインフラ容量
移転先の物件が医療施設として必要な用途地域や建築制限を満たしているか、消防法やバリアフリー基準に適合するかを契約前に専門家に確認することが必須です。特に賃貸物件の場合、内装工事の自由度も確認しなければなりません。
また、物件決定前に、導入予定の医療機器や空調に必要なインフラ(電気・水道・ガス)容量が十分であるかを詳細に確認することも、見落とされがちなポイントです。容量不足は、後になって追加工事が必要となる大きなリスクとなります。
3. 患者・スタッフ面:早期のコミュニケーションとケア
●患者への告知・フォローアップの徹底
移転後の診療継続を促すため、移転の理由、新住所、診療開始日、アクセス方法を、早期かつ複数回(院内掲示、DM、Webサイトなど)で丁寧に伝えることが重要です。最終的な告知(開院1ヶ月前〜)も明確に行う必要があります。
●漏れがちなポイント:スタッフの離職リスク管理
移転は、スタッフにとって通勤経路変更による離職リスクを高めます。このリスクを考慮し、早めに主要スタッフに移転方針を伝え、勤務継続の意向を確認することが必須です。意向確認と同時に、移転後の労働条件や役割を具体的に提示するなど、スタッフの不安を解消するケアが必要です。
4. 行政手続き面:保険診療の空白を作らないための「遡及指定」
行政手続きは、プロジェクトの中でも最も期日厳守が求められる領域です 。
●保険医療機関の指定申請
通常、保険診療は申請の翌月1日からとなり遡及指定は行えませんが、一定要件を満たす移転の場合は、移転日まで遡って指定を認める「遡及指定(そきゅうしてい)」を受けられる場合があります。
●遡及指定の主な要件
・移転前と移転後の診療所が「至近な距離(原則として半径2km以内など)」にあること。
・開設者が同一であり、診療科目に変更がないこと。
・旧医院の廃止と新医院の開設が実質的に連続していること。
・開設者が同一であり、診療科目に変更がないこと。
・旧医院の廃止と新医院の開設が実質的に連続していること。
注意点
遡及指定の手続きや判断基準は全国一律の運用となっておらず、管轄の厚生局や保健所によって解釈が異なる場合があります。申請が遅れたり要件から外れたりすると、保険診療ができない期間が生じる致命的な事態を招くため 、必ず事前に主務官庁(厚生局・保健所)へ詳細を確認し、チェックリストを作成しておくことが不可欠です 。
第2章:移転プロジェクトの進め方とスケジュール(何から始めて、いつ動くか)
移転は、準備、計画・物件決定、実行の3つのフェーズに分けて、計画的に進めていきます。
1.準備期間 (着手〜約6ヶ月):プロジェクトの核を固める「何から始めるか」
移転プロジェクトは、まず「何から始めるか」、すなわち計画の核を固めることからスタートします。
まず始めるべきことは、移転の目的を明確にし、予算上限と希望移転時期を定めることです。この際、単なる希望だけでなく、移転後の経営シミュレーションを実施し、採算性を検証することが、漏れがちな重要なステップです。また、計画の初期段階(1ヶ月以内)に、医療施設の移転実績が豊富なコンサルタントや設計業者を選定し、プロのサポートを得ることが成功への鍵となります。
| 項目 | 動き | 時期 | 漏れがちなポイント |
|---|---|---|---|
| 目標設定 | 移転の目的、予算上限、希望移転時期を明確にする。 | 即時 | 移転後の経営シミュレーション(採算性)の実施。 |
| 専門家選定 | 移転をサポートするコンサルタント、税理士、設計業者を選定する。 | 早期 (1ヶ月以内) | 医療施設の実績が豊富な業者を選ぶ。 |
| スタッフ意向確認 | 主要スタッフに移転方針を伝え、勤務継続の意向を確認する。 | 早期 | 移転後の労働条件や役割を具体的に提示する。 |
2. 計画・物件決定期間 (約6ヶ月〜12ヶ月):具体的な実行計画へ
準備期間で定めた目標に基づき、具体的な物件選定と資金調達を同時並行で進める時期です。
物件決定後、設計業者との基本設計が始まりますが、この時期に金融機関に融資打診を行い、資金調達の目処を立てておく必要があります。設計ミーティングは、要望のすり合わせと認識のズレを防ぐため、1〜2週間に1回のペースで集中的に実施することが推奨されています。
また、物件契約時、特に賃貸借契約を結ぶ際は、契約書に医療施設としての使用許可に関する特約を必ず盛り込むことが、後々の法的トラブルを防ぐ上で重要です。
| 項目 | 動き | 時期 | 漏れがちなポイント |
|---|---|---|---|
| 候補地選定 | コンサルタントと連携し、エリア選定と具体的な物件の絞り込みを行う。 | 3ヶ月〜 | 立地だけでなく、インフラ(電気・水道・ガス)容量の確認。 |
| 基本設計・資金調達 | 物件決定後、設計業者と基本設計を検討。金融機関に融資打診を行う。 | 6ヶ月〜 | 設計ミーティングは1〜2週間に1回のペースで実施。 |
| 物件契約 | 土地購入の売買契約、または賃貸借契約を結ぶ。 | 8ヶ月〜 | 医療施設としての使用許可に関する特約を盛り込む。 |
3. 実行期間 (約12ヶ月〜開院まで):漏れなく最終準備を行う
プロジェクトの終盤は、工事、行政申請、そして患者様・スタッフへの最終告知が中心となり、期日厳守が求められます。
工事期間中、近隣住民への配慮(丁寧な挨拶や騒音対策)は、地域に根差した医療機関としての評判を維持するために、意識して実行すべき漏れがちなポイントです。
開院直前の告知では、患者様が混乱しないよう、旧医院の閉院日と新医院の開院日を明確に伝え、可能な限り閉院期間を最短にすることが、収益維持の観点からも重要です。また、開院後のスムーズな診療開始のため、ITシステムや医療設備に関するトラブルに迅速に対応できるよう、サポート体制を組んでおくことが賢明です。
| 項目 | 動き | 時期 | 漏れがちなポイント |
|---|---|---|---|
| 詳細設計・工事 | 医療機器の仕様に合わせた詳細設計と、内装・外装工事を開始する。 | 12ヶ月〜 | 工事中の近隣住民への配慮(挨拶、騒音対策)。 |
| 行政申請 | 定款変更認可申請、診療所開設許可申請などを行う。 | 15ヶ月〜 | 書類提出の期日を厳守するためのチェックリスト作成。 |
| 告知・準備 | 患者への最終的な告知、スタッフの研修・マニュアル作成。 | 開院1ヶ月前〜 | 旧医院の閉院日と新医院の開院日を明確に伝え、閉院期間を最短にする。 |
| 移転・開院 | 物品・カルテの移送、各種検査を経て開院する。 | 最終段階 | 開院後のトラブル対応(IT、設備)の体制を組んでおく。 |
まとめ
医院移転は、現在の成功を未来の持続的な成長に繋げるための、戦略的な経営の機会です。この大掛かりなプロジェクトを成功させるには、移転の目的と予算、希望時期を明確にし、実績のあるコンサルタントや設計業者への早期の相談から始めることを強くおすすめします。計画段階で、資金繰りや行政手続きの期日など、漏れがちな重要ポイントを徹底的に管理することが、プロジェクト成功の鍵となります。
- 著者:
日本クレアス税理士法人
執行役員/中川 義敬 税理士(近畿税理士会所属)
- 提供:
- © Medical LIVES / シャープファイナンス
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