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開業医が自身のクリニック採用活動に活かせる、人材タイプ別の診断方法

開業医が自身のクリニック採用活動に活かせる、人材タイプ別の診断方法

画像はイメージです。

クリニックは少数精鋭部隊

クリニックは、病院と違って少数精鋭部隊とならざるを得ません。
そのため、「採用ミス」が組織の輪を乱す命取りになる可能性が高いと、東京医療保健大学の医療保健学部医療情報学科教授、瀬戸僚馬氏はいいます。そこで今回、どのような規模のクリニックであっても欠かせない、看護師や事務職の人材マネジメントについて、クリニックスタッフの育成や医療法人顧問を務めてきた瀬戸氏が、自身の経験をもとに解説します。

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1.クリニック経営=ミニ動物園の設計

病院勤務経験者であれば誰でも知っているように、病院という組織は、個性が強いそれぞれの生き物(職種や部門)が群れを作って生息し、生き物ごとに独自の生活様式を持っている、「動物園」に近い組織です。

同じ檻に入れてもいい生き物の組み合わせもあれば、「混ぜるなキケン」な場合も多いのはご存じの通りです。そしてパンダやライオン、キリンのような派手な動物もいれば、その対極である地味な存在もいる点も病院と動物園はよく似ています。

一方で、クリニックでは小さな組織に個性が強い多様な職種(生き物)が同居する、「ミニ動物園」のような組織です。組み合わせ次第で最高の組織となる場合もあれば、スタッフ間の軋轢が患者さんにも伝わってしまうような惨状となることもあります。

組み合わせが悪いからと安易に退職させることは、法的な問題に加えて、地元の住民がほとんどであるクリニックスタッフへの処遇は、地域コミュニティを通じた地元からの評判悪化という意味でもリスクが高くなります。そのため、「ミニ動物園」の設計ポリシーが極めて重要であると考えます。

2.いくつかの人材像~マズローの欲求段階をもとに~

開業医が自身のクリニック採用活動に活かせる、人材タイプ別の診断方法

人材像を説明するには、「ライオン型:吠えるけど害がなければおとなしい」「キリン型:高みの見物が好きだが介入しない」等がわかりやすいかもしれませんが、それでは単なる印象になってしまいます。古典的ではありますが、マズローの欲求段階をもとに整理しておきましょう。

タイプA:仕事はお金のためと割り切る人(生理的欲求)

生活できれば異論はないタイプです。給与に対して要求する業務は何であるかを定義し、その条件に満足していれば普通に業務をしてくれます。

生理的欲求を一言で表現するならば、「生きていたい」という欲求です。マズローの欲求5段階説では、この生理的欲求が最も低い段階に位置づけられており、この欲求が満たされなければ、より高次の欲求に進めません。

また、この欲求を満たすことだけで満足する人はほとんどいません。医療業界はどこも人手不足ですから、さらなる条件がいい職場を目指す人が多いのは当然のことです。あくまで仕事はお金のためとして割り切っているので、医療業界で多い自己研鑽のための研修などには誘導しにくい面があります。

他の人との関係性を築くことにも興味は無いものの、それが仕事と定義されていれば最低限度の関係は築く事ができるので人間関係で大きな問題を引き起こす可能性は低いタイプであると言えます。

なお、タイプAの場合は「かなりの激務、それなりの給与」という組み合わせも成立します。医療業界で単価が高いのは高度急性期が中心になりますから、クリニックの場合は当てはまりにくいといえますが、自由診療が多いクリニックなどはこれに該当する面もあります。クレーム対応など誰もが嫌がる仕事があるのであれば、タイプAを受け入れることにも意味があります。

タイプB:職場の人間関係を尊重する人(安全欲求~社会的欲求)

クリニックスタッフ(看護師や事務職)には、このタイプが多いでしょう。大学病院などを除けば、病院でもこのタイプの人が圧倒的多数です。そしてタイプBの中心的要件は「安全欲求」にあります。

安全欲求とは、言い換えれば職場の人間関係が円満である、少なくとも「多くの人とはコミュニケーションを取れる」範囲であることを指します。業務水準もこれに準じますので、診療所の院長がある程度のスキルアップを求めるのであれば、難なくそれに付き合ってくれます。

クリニック看護師で、難しすぎない程度の資格取得(地域糖尿病療養指導士や禁煙指導認定看護師など)にも挑戦してもらえます。

タイプBは、仕事に多くを求めすぎない、言い換えればワークライフバランスが取れている傾向があります。家族との生活や、あるいは趣味などにある程度の力を注ぎたいことがあり、それが実現できていれば、ギスギスした言動も少なくなり職場の円満化にもつながります。

もちろん、たとえば家族の体調不良や趣味のイベントなどでは躊躇なくライフを優先しますが、これは円満化とのトレードオフとして受け入れるしかありません。裏返すと、生活での充実を求める人はタイプBが多いので、あえてライフを充実させたいか面接時に聞いてみるのもよいでしょう。

また、医療機関そのものが社会貢献の仕事ですから、基本的には社会的欲求は自然に満たせます。問題があるような業務を強いれば社会的欲求が満たされなくなりますので、業務内容や業務領域が本人が望む水準となっているのか、定期的な擦り合わせが必須です。

タイプC:自分の専門性や価値観を最重視する方(承認欲求~自己実現欲求)

このタイプを集めたら「最強のチーム」になりそうですが、むしろ「全員が3番キャッチャーをやりたがるチーム」になりますから避けるべきです。

当然ながら診療所の4番ピッチャーは院長ですが、そこに打線を繋ぐ仕事やボールを受ける仕事はものすごく承認欲求を満たします。医療は誰かをケアする仕事なので、その価値観を重視し仕事にしていることから自分自身もケアされたいという看護師や事務職は少なくありません。そこで院長が出身病院から複数人の「3番キャッチャー候補」を連れてくると、タイプC同士の関係がきわめて難しくなります。

タイプC-1とも呼ぶべき「承認欲求がすべて」型の人は、タイプBが院長と緊密な信頼関係を築くことに激しく嫉妬し、関係にヒビを入れるため無意識のうちに情報操作を行います。残念ながらこのような破壊工作に乗ってしまい、本来辞めさせるべきでないスタッフを失ったという事例は枚挙に暇がありません。

このような事態を避けるためには、そもそも「3番キャッチャー」を固定しないことが一番ですが、そうはいってもタイプCの人は全般的に優秀です。難易度の高い資格を取得したり、大学院に通ったりする人も多いです。

そのため、タイプC-1を避けることはきわめて重要で、これには第三者の眼が必要です。信頼のおける外部の存在(できれば応募者と同職種か同性の人物:性別も職種も異なる相手の腹の内を評価するのは無理です)に面接を手伝ってもらうのがひとつの方法です。筆者も何度となく経験していますが、この手の危険なタイプは、外部の助言者に対してよくアレルギー反応を示します。

それを超越して「自己実現の場」を見出したタイプC-2は、タイプAとは正反対です。給与よりも自分のやりたい仕事を求めます。専門資格などを持っていても給与で評価されるよりは、それを実現できる環境を求めます。

目的合理性の観点から、タイプAやBとも関係性を築けます。まさに理想的ですが、C-2タイプの人材はさすがに少数です。ただ、病院から連れてくる際に「特別扱いしない」「給料も多くない」ことを説明して、それでも乗ってくるならば脈があります。

看護師であれば在宅看護や看護外来などの専門性を追求したい、事務職であれば自らが経営の屋台骨を支えたいなど、やりたいことが明確な人たちです。ただ、繰り返しになりますがタイプC-1との鑑別診断が難しいので、そこはお気をつけください。

3.まとめ…「ミニ動物園」のタイプ別比重は

結論から言うと、多くの診療所においては、ほとんどタイプBで構成するのが定石です。

少し面白い取り組みをしたいから“濃い”スタッフの力も借りたいということであれば、タイプBを2/3程度、タイプAとタイプCを合わせて1/3までとなるでしょう。

少数精鋭部隊だけに個人に情が移りパターン化しにくいとは思いますが、一度この視点でスタッフを棚卸し、さらなる発展に向けて人材戦略を練ってみてはいかがでしょうか。

著者:
瀬戸僚馬(編集:幻冬舎ゴールドオンライン)
東京医療保健大学 医療保健学部医療情報学科 教授
提供:
© Medical LIVES / シャープファイナンス

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