輝く組織 Shining Organization

医療の「働き方改革」の課題とは?患者満足度向上に向けて出来ること

医療の「働き方改革」の課題とは?患者満足度向上に向けて出来ること

※画像はイメージです

今回は、富士通Japan株式会社よりコラムを提供いただきました。富士通Japan株式会社は、「Fujitsu Healthcare Connective Place」というオウンドメディアを運営されています。

今回のコラムでは、「医療の働き方改革と患者満足度向上」と題してお届けします。わが国では、少子高齢化に伴う生産年齢人口(15歳~64歳)の減少を踏まえて、「働き方改革」が最重要課題として考えられており、それに伴い様々な変化が始まっています。2019年には「働き方改革関連法」が施行されています。同法は、雇用対策法や労働基準法など、労働規制にかかわる一連の法律の改正を指しており、具体的には、長時間労働の是正、柔軟な働き方の実現、公正な待遇の確保といった視点から、改正されたものです。

医療の働き方改革とは?

医療の世界では、この働き方改革について「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律」が2021年5月からスタートしています。改正の趣旨としては、良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進する観点から、「医師の働き方改革」「各医療関係職種の専門性の活用」「地域の実情に応じた医療提供体制の確保」を進めるために、長時間労働の医師に対し医療機関は労働時間の短縮を含め健康確保措置の整備などを支援するとしています。

医師の時間外労働の上限規制が2024年4月から開始!

医療の「働き方改革」の課題とは?患者満足度向上に向けて出来ること

図1)2024年4月に向けたスケジュール ※出典:医師の働き方改革の推進に関する検討会 (2021.7.1)厚生労働省

これらの対策の一つに、医師に対する時間外労働の上限規制の適用があります。2024年4月より適用開始になること受け、その準備作業として、「医師労働時間短縮計画の作成」「やむを得ず高い上限時間を適用する医療機関を都道府県知事が指定する制度の創設」「健康確保措置の実施」などが順次進められていく予定です。

2024年4月に向けた今後のスケジュールとしては、①時短計画案の作成 ②医療機関勤務環境評価センターによる第三者評価 ③都道府県による特例水準対象医療機関の指定―という流れで進められます。2024年度のスタート時には、都道府県による特例水準の指定を完了する必要があり、その準備が急ピッチで進められています。

「働き方改革」の診療報酬での評価

医療の「働き方改革」の課題とは?患者満足度向上に向けて出来ること

図2)診療報酬における働き方改革に向けたこれまでの取り組みについて ※出典:中央社会保険医療協議会総会資料 (2021.7.21)厚生労働省

医師・医療従事者の「働き方改革」については、これまでも診療報酬で手当てが行われてきました。医師の働き方改革の評価としては、「ハイリスク分娩管理加算」や「総合入院体制加算」に効果のある負担軽減策を含むことを要件化、「手術・処置の休日・時間外・深夜加算」の見直し、などが挙げられます。また、2020年度改定では、「地域医療体制確保加算」が新設されました。

タスクシフト・タスクシェアに対する評価としては、「医師事務作業補助体制加算」「看護補助者の配置の評価」「栄養サポートチーム加算」「病棟薬剤業務実施加算」などが挙げられます。看護師の業務範囲の拡大のための「特定行為研修」の評価も行われています。

さらに、地域全体での取り組みとしては、診療所の「夜間・早朝等における診療の評価」や二次救急医療機関の「救急外来の評価」「院内トリアージの評価」などが挙げられます。2016年からは紹介状なしで大病院を受診する場合の定額負担が導入されています。2022年度からは、200床以上の一般病床へ適用範囲が拡大される予定です。

医師の事務作業の負担軽減

医療の「働き方改革」の課題とは?患者満足度向上に向けて出来ること

図3)医師事務作業補助体制加算の届出医療機関数の推移 ※出典:中央社会保険医療協議会総会資料 (2021.7.21)厚生労働省

病院勤務医の事務作業の負担軽減を目的に、医師事務の配置を評価した「医師事務作業補助体制加算」は、負担軽減策として高く評価されており、2008年の新設以来、対象病院の拡大、点数の引き上げが順次行われています。2019年では2,848件の病院で同点数が算定されています。これは全病院の3分の1にあたります。一方で、同加算は新設以来、導入医療機関数は年々増えているものの、大規模病院での算定が先行しており、中小規模病院での算定が遅れているという課題も残っています。

看護師の負担軽減

医療の「働き方改革」の課題とは?患者満足度向上に向けて出来ること

出典:中央社会保険医療協議会総会資料 (2021.7.21)厚生労働省

看護師の負担軽減策としては、診療報酬において看護補助者の配置や、夜間の看護体制の充実に対する評価などが実施されています。届出医療機関数は「急性期看護補助体制加算」が増加する一方で、「看護補助加算」は減少傾向となっています。

厚労省が実施した「医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進に係る評価等に関する実施状況調査」によると、看護職員の業務負担の要因は、「看護記録などの書類作成」が最も大きな割合を占めています。看護記録の負担軽減の取り組みとしては、記録内容の簡素化や見直しが行われており、今後は「記録の標準化」や「病棟クラークの活用」、「タブレット導入」「音声入力」といったシステム活用による効率化が期待されています。

タスクシフティングと医療DX

医療の「働き方改革」の課題とは?患者満足度向上に向けて出来ること

図4)タスクシフティングと自動化

医師・医療従事者の「働き方改革」を実現するためには、「タスクシフティング」と「システム活用」が重要です。「タスクシフティング」については、医師の業務を適切に配分していくことが大切であり、具体的には書類作成などの事務作業は医師事務作業補助者(医療クラーク)に、専門業務を看護師や栄養士、薬剤師へタスクシフトしていくことで、医師の業務集中を緩和していけると考えられています。

また、「医療DX」を活用する動きも進んでいます。単純で定型な業務はロボットを活用して自動化し、効率化・省力化を図ろうとしているのです。現在は、病棟でのタブレットの活用や音声入力、受付での自動精算機、Web問診システム、診療予約システムの導入が進んでいます。

医療DXの進め方とは?

病院で「医療DX」をスムーズに進めるためには、現状業務の見える化やワークフローの見直しが必要となります。そもそも病院において、業務効率を下げている原因は、残業や長時間労働が習慣化していること、特定のスタッフに業務が集中してしまっていること、そして従来の慣習に沿って業務が遂行されていることなどです。

この解決には「同じ業務でも、より短時間で終わらせる方法はないか」を模索することが先決です。また、個々のスキルに依存し「この人でないとこの業務はこなせない」という状況にならないためにも業務の見える化、標準化を進める必要があります。さらに、従来の慣習に沿った複雑な業務フローも再検討が必要です。「これまで通りのやり方にこだわっていないかどうか」を問い直す必要があるのです。ルールとは、アクシデントが発生するたびに改修されるものです。あるルールが成立するまでの歴史をひもといてみると、もともとはシンプルだった業務フローに抑止弁を施した結果、複雑なルールになってしまった、というのはよくある話です。

このような状況をいったん整理してからでなくては、医療DXを適切に進めることは難しいでしょう。医療DXを進める手順としては、①現状業務の見える化 ②標準化 ③業務の再配分(タスクシフティング) ④新業務フローの構築、その後にデジタルツールを導入するという工程を踏むことが肝要です。

患者による病院選択時代が到来します!

医療の「働き方改革」の課題とは?患者満足度向上に向けて出来ること

表1 新型コロナウイルス感染症による変化

病院のDXを考える上で、業務効率化ともう一つ患者満足(CS)にも目を向ける必要があります。2020年に始まった新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって、患者の受療行動が大きく様変わりしています。感染症対策の影響による「季節性疾患の減少」、相次ぐ緊急事態宣言の発令などに伴う「患者の受診控え」など、「患者減少時代」が到来しています。また、3密を避ける行動から在宅勤務が推奨され、リモートワークが一般化しています。会議も展示会もセミナーもオンラインが当たり前になり、診察や服薬指導でさえオンラインという時代がやってきているのです。

急速に進むデジタル化の波は、病院と患者の関係を再構築し、コミュニケーションの在り方をも変えようとしています。いま患者の病院へのアクセス方法は多様化しており、場所や時間といった条件を超えて、患者が自由に受診方法を選べるようになっているのです。患者に選ばれなければ、病院は経営を継続することができません。そのためにも、患者満足の向上にこれまで以上に向き合わなければならないのです。

患者満足を高める医療DX

患者満足を高めるためには、病院はどんなことに取り組む必要があるのでしょうか。病院に対する患者の不満は、いまも昔も「長い待ち時間」です。コロナ禍で患者は混雑した待合室を避ける傾向が強まっており、その対応は急務となっています。

また、コロナ禍で初診から電話・オンライン診療が認められており、「受診方法の多様化」にも対応する必要があるでしょう。2022年度の診療報酬改定でもオンライン診療の規制緩和を進める議論が活発化しています。

これらの不満と新たなニーズに対応するデジタルツールとしては、診療予約システムやWeb問診システム、自動精算機、オンライン診療システムなどの導入が進んでいます。

さらには、患者と病院のコミュニケーションの在り方も、今後は変わっていくことでしょう。政府が進めるデータヘルス改革の中でも取り上げられているPHR(パーソナルヘルスレコード)と呼ばれる分野が進むことで、病院と患者が双方向で情報を共有するような世界が進むと考えられています。

いかがでしたでしょうか。

少子高齢化による生産年齢人口の減少を見据えた「働き方改革」、長引くコロナ禍がもたらした「医療DX」。病院はこの2つの課題に対して、積極的に取り組む必要がでてきています。病院がこの複雑で変化の激しい時代に生き残るためのキーワードは、「医師・医療従事者の働き方改革」「業務効率化と生産性向上」そして「患者満足度の向上」です。

「働き方改革」と「医療DX」を同時並行で進めるためには、まずは現状を見える化(業務分析)し、標準化を進め、業務を再配分(タスクシフティング)し、デジタルツールを組み入れた新しい業務フローを構築することです。これは「業務効率化」の原理原則に基づいて進めることに他なりません。変化の激しい時代だからこそ、原理原則に立ち戻り、着実に変化に対応して行く必要があると考えます。

【参考文献】
厚生労働省 医師の働き方改革の推進に関する検討会
厚生労働省 中央社会保険医療協議会(中央社会保険医療協議会総会)

著者・監修:MICTコンサルティング株式会社
発行元:富士通Japan株式会社
本稿の内容に関する一切の責任はMICTコンサルティング株式会社(https://mictconsulting.com/)に帰属します。また、本稿掲載のいかなる部分も一切の権利はMICTコンサルティング株式会社に所属しています。

 

提供:
© Medical LIVES / シャープファイナンス

記事紹介 more

開業するにあたって、自身で購入した不動産によりクリニックを開業するのか(戸建て開業)、不動産を賃借し…

人間が健全な生活を送るうえで欠かせない「睡眠」。仕事のパフォーマンスを高めるためにも、良質な睡眠を十…

開業医の高齢化や世代交代が進む中で、現在承継開業が注目されています。採用や機器購入のプロセスが省ける…

医師をはじめとした医療従事者の“働きすぎ”が問題となっています。こうしたなか、国は今年4月から「医師…

経済産業省は、テクノロジーを活用した医療の展開、特にオンライン診療の推進を強く望んでいます。ただ、コ…

忙しいときが続くときこそ、ほっとできるご飯が食べたいーーーそんな時はありませんか?そんな日に特にお勧…

クリニックの経営において、いかに効率よく集患できるかがクリニック経営を成功に導けるかどうかの分かれ道…

医師の高齢化や後継者不足などを背景に、第三者にクリニックを売却する「M&A」を選択する医療機関が増え…

「愛犬とグランピングしたい!」「周りを気にせずに愛犬と過ごせるグランピング施設を探しているけどなかな…