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コロナ禍で医療スタッフの退職者が続出…開業医が痛感した「勤務環境の整備」の重要性【医師が解説】

コロナ禍で医療スタッフの退職者が続出…開業医が痛感した「勤務環境の整備」の重要性【医師が解説】

※画像はイメージです/PIXTA

2020年初頭から長きにわたって流行した新型コロナウイルスによって、我々は生活スタイルの抜本的な変化や制限を余儀なくされました。その最前線にあったのが医療現場です。しかし、この“変化”はネガティブなものだけではありません。コロナ禍に生じた変化とその効果について、詳しくみていきましょう。医療法人梅華会理事長の梅岡比俊医師が解説します。

「コロナ前」と「コロナ後」で大きく変わった医療現場

新型コロナウイルスの流行は、私たち医師が働くクリニックに多大な影響を与えました。特に勤務環境において、コロナ以前と以後では大きな変化があります。

コロナ禍で患者数が増えた美容皮膚科、減った小児科

コロナ禍でマスク着用が当たり前になったことで、人目を気にせず施術を受けられると、美容皮膚科や歯科、審美歯科など「美容医療」の分野では患者数が増加しました。

一方で、「受診控え」などの理由から大きく患者数が減少したのが、小児科と耳鼻科です。実際、筆者が経営するクリニックでも小児科・耳鼻科を運営していたため、患者数の減少を実感しました。

このように、診療科目によってはっきりと明暗が分かれました

筆者が経営するクリニックは、前述のように感染症を扱う内科や耳鼻科を運営していたために、診察時に感染リスクを感じることが多々ありました。また、「自分が感染するだけならまだしも、同居している高齢の家族に感染させてしまう」というリスクを懸念するスタッフも少なくありませんでした。

医療現場の最前線で患者を救いながら、自分のせいで家族に迷惑をかけてしまうかもしれない……こうした“ハイリスク”な環境で勤務を続けることに疑問を感じ、退職や異動を希望するスタッフも出てきました。

現在、新型コロナウイルス感染症は5類に分類され、状況はいくらか落ち着いてきたものの、その過酷な労働環境や責任の重さ、処遇の低さなどから医療従事者の離職率が上がり、現在も高止まりが続いています。

DXのきっかけに!コロナ禍がもたらした「ポジティブな変化」

こうしたなか、医療現場は「変化」を余儀なくされました。

たとえば、コロナ以前は、患者さんが診察券を受け取ったあと、待合室で長時間待つことが一般的でした。しかし、コロナの影響で「密」を避ける必要が生じ、患者自身の意識も変化。診察時間を短縮し、クリニック内での滞在時間をできるだけ減らすことが求められるようになりました。

これに対応するため、私たちは「オンライン問診票」や「順番予約システム」を導入しました。これにより診察がスムーズに行えるようになったほか、会計時も「キャッシュレス決済」を導入したことで非接触での対応が可能になり、会計時間の短縮にも成功しました。

患者の待ち時間が減少したことでスタッフの残業時間も減り、より効率的な勤務が可能となったのです。また、患者さんが時間に対して非常にシビアになり、予約時間を守って来院してくれることが増えました。

さらに、コロナ禍でマスクを着用することが当たり前になりました。以前は咳をしていてもマスクをしない人がいましたが、コロナ禍が落ち着いた現在でも、「咳が出る→マスクをする」が常識となっています。

マスクの着用以外にも、手指消毒や咳エチケットといった院内感染対策について、以前はこちらから患者さんに対して伝えていましたが、患者さん自身が積極的に取り入れてくれるようになったことで、クリニックのオペレーションがとても円滑に進むようになりました。

よりよいクリニック経営のために…「コロナ後」のいま見直すべきポイントは?

このように、コロナ禍を機に新たに導入したものについてはポジティブな変化をもたらすものが多い一方で、今後調整・再考が必要な点も見つかっています。

新たなクリニックを作る際には、「待合室のスペース」について再考が必要であると考えます。

耳鼻科では、子どもを連れて来る親御さんも来院されるため、待合室のスペースが全体の3分の1を占めることが一般的でした。たとえば、「45坪のクリニックならば15坪を待合スペースにする」というのが定説でしたが、現在ではその必要性が減少しているように感じます。

ネット受付が普及したいま、患者さんが何十人待ちとなっても、実際に受付で待っている人は数人であることが多く、待合室は小規模でもよくなっています。ただし、実際にスペースの縮小を行う場合には、ネット予約をスムーズに行えるようなシステム構築が重要です。

また、コロナ禍を機に導入したものの元に戻そうと考えているものもあります。代表的なものが、「アクリルガラス」です。

アクリルガラスは感染対策として有効ではあるものの、無機質な感じがして、物理的にも精神的にも患者さんとの交流を阻害されている感覚が否めません。

「病は気から」ともいうように、筆者は医師と患者さんとの心の交流も治療のひとつだと考えています。そのため、タイミングはもちろん考慮すべきですが、アクリル板は今後撤去し、より温かみのあるクリニックづくりに励んでいきたいと考えます。

時代にあわせた“患者ファースト”を目指す

コロナ禍を経て、勤務環境の整備の重要性を改めて強く感じています。オンラインシステムやキャッシュレス決済の導入は診療の効率化と感染リスクの低減に大きく貢献しましたが、すべての変化が完璧だったわけではなく、一部については再評価と調整が必要です。

これからも、患者さんにとって安心で快適な環境を提供するために、柔軟な対応と改善を続けていきたいと考えています。

著者:
梅岡 比俊(うめおか ひとし)
【医療法人梅華会 理事長】開業医コミュニティ「M.A.F」主宰
兵庫県芦屋市出身。奈良県立医科大学を卒業後、勤務医を経て2008年に兵庫県西宮市に梅岡耳鼻咽喉科クリニックを開設。2011年に医療法人社団梅華会を設立。現在、阪神地区に耳鼻姻喉科4院、小児科2院、東京都内に消化器内科のグループ医院を経営する。2016年に開業医がよりよいクリニック運営を行うための学びの場として、「M.A.F(医療活性化連盟)」を発足。

(編集:株式会社幻冬舎ゴールドオンライン)

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