診療所に並ぶ一冊の本が患者さんやスタッフの心を開き、繋ぐ。書籍を薬、紹介文を処方箋に見立てた「本の処…

診療所に並ぶ一冊の本が患者さんやスタッフの心を開き、繋ぐ。書籍を薬、紹介文を処方箋に見立てた「本の処方箋」プロジェクトは、待合室や診察室での月替わりの掲示をクリニックに関わる全員によるリレー方式で繋いできました(7月公開記事にて紹介)。今回は5年目を迎えた2025年、移転という大きな転換期を経たロコクリニック中目黒のスタッフが実際に選び、掲示された3冊をご紹介します。この処方箋は、取り組み事例の紹介であると同時に小さな書評としてもお読みいただけます。
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チーム・ロコクリニックが送り出す「本の処方箋」プロジェクト。2025年度から
2025年7月17日公開のインタビューで紹介した「本の処方箋」の成り立ち。
診療時間を越える試み。月1冊の“本の処方箋”がクリニックにもたらした変化とは?【事例/ロコクリニック中目黒】
今年で5年目になった「本の処方箋」プロジェクトは、医師・看護師・医療事務・療法士など、クリニックのチームメンバー全員を対象として、それぞれの視点から選ばれた本、その効能を書いた処方箋が待合室・診察室に掲示されます。実際に本が並ぶ、クリニックの本棚=薬箱から、今回は2025年からの3冊をどうぞ。
“人のあたたかみを求めている” 方へ

薬名『マリーミー!』(夕希実久)/LINEマンガ)
効能:泣ける/ドキドキする/人の暖かみを感じる
■2月は看護師 橋本さんの処方
20XX年 若者無業者等の保護に関する法律案 可決
「少子高齢化社会と働かない若者増加の対応策として、ある実験的な法律案が可決された。『通称・ニート保護法』 なお施行に先立って国家公務員による試験的実施が行われようとしていた。」
「ニート保護法」という架空の法律が舞台のラブコメディです。LINEオリジナル漫画として誕生し、好評を得てドラマ化もされました。恋愛漫画として楽しめるのはもちろんですが、ヒューマンドラマとしての深みもあり、読めば読むほど心がホッと温かくなるストーリーです。
昨今はバトル系、ミステリー系の漫画が人気ですが、こういったこころに栄養を与えてくれる作品もおすすめです。人の暖かさに飢えている人はぜひ!!
無料で数話読めます、いますぐチェック!
“子どもの気持ちをシリタイ”方へ

薬名『カラーモンスター きもちのきゅうきゅうばこ』
(アナ・レナス 作、おおとも たけし 訳/永岡書店)
効能:ためになる/もっと子どもが好きになる
■6月は 事務 堀口さん の処方
カラー モンスターは現在4作出ているシリーズ物で、喜び・悲しみ・怒り・不安・穏やかの5つの感情を色で表し、気持ちを理解し整理して感情をコントロールする力を覚えていく絵本です。
子どもの「泣き止まない」「テンションが高い」「何かに怒っている」などと大人には理解し難い複雑な感情が飛び出す時があると思います。
そんな時に気持ちに寄り添い、大人と子ども一緒に今の気持ちを整理していく方法をこの本は教えてくれます。
『きもちのきゅうきゅうばこ』では気持ちのコントロール方法を教えてくれるので子どもと今の気持ちは何色? たとえばもやもやレベルは? など一緒に気持ちを整理してみてください。
そしてそして、最後に何よりだいじな特効薬「ぎゅ〜」を忘れずに!!!
オススメは『きもちはなにいろ?』を読んでから『きもちのきゅうきゅうばこ』を読むと、より気持ちの理解、整理、コントロール方法がわかりますよ。
“異文化との出会いを楽しみたい”方へ

薬名 『深夜特急』(沢木耕太郎/新潮文庫)
効能:ワクワクする/旅に出たくなる
■8月は 小田看護師の処方
みなさまは夏休み、どうお過ごしの予定でしょうか。そんな時期におすすめしたいのが、沢木耕太郎の『深夜特急』です。
バックパッカーとしてユーラシア大陸を横断する壮大な旅の記録で、ただの旅行記ではなく、自分の価値観を揺さぶる一冊です。
私がこの本を読んだのは若い頃、海外に興味が沸き、シンガポールからインドシナを一周しました。巧みな話術で詐欺に遭ったり、地元の方の家に泊めてもらい優しさに触れたり、ボランティアで戦争後の貧困の現実を知ったり――旅の途中では次々と出来事が降りかかりました。それでも、そのすべてがかけがえのない時間でした。
本の中でも特に印象的なのは、バラナシのガンジス河で生と死が隣り合う風景を前に立ち尽くす場面です。自分がもしそこに立ったら、何を感じるだろう――そう考えるだけで胸が熱くなりました。
カトマンズのカフェで世界中の旅人と語り合う場面では、旅が人との出会いで広がっていくことを実感します。
今の日本も、私たちのクリニックも、ますます国際化が進んでいます。日々の中で出会う異なる文化や価値観を、少しずつ受け止めながら暮らしていく、そんな視点を、この本がそっと思い出させてくれるかもしれません。
今年の夏、本で“心の旅”をしてみませんか?

移転を経て深まる"処方"の自由度――2025年という年、処方の背景(ロコクリニック中目黒・瀬田宏哉医師)
2025年、『本の処方箋』が始まって5年が経ち、処方箋ファイルも分厚くなってきました。編集長的立場の瀬田医師に、この時期に処方された本について振り返りをいただきました。
「2023、2024年頃はコロナ禍極期から脱却の時期で医療現場でもクリニックの方針や診療スタイル、方向の修正にそれぞれ時間や頭を使っていました。
感染症など配慮が必要な患者さんの待合室を分けるなどの必要性が高まり、また旧店舗では手狭なほど患者さんもスタッフも増え、2024年、開業7年目にしてのクリニック移転という大きな転換期となりました。
移転は想像を絶する大変さでしたが、図面・内装からスタッフと相談しながらプロジェクトとして進めたことで、より団結力や組織へのロイヤリティを高める結果になったと思います。コミュニティスペースも併設したことで街との接続も増え、この1年はクリニックの飛躍の年になりました。本の処方箋は5年目になりスタッフの間にも浸透し、当たり前の文化の1つになりました。内容もコミックからビジネス書、小説、ついにはLINE漫画まで現れ、自由度の高さも良い風潮だと感じています。スタッフから原稿が早めに上がってきているのに、私の業務過多で処方箋をなかなか発行できないこともありますが、これからもゆるく長く続けていくクリニックの文化として醸成させていきたいと思います。」
感染症など配慮が必要な患者さんの待合室を分けるなどの必要性が高まり、また旧店舗では手狭なほど患者さんもスタッフも増え、2024年、開業7年目にしてのクリニック移転という大きな転換期となりました。
移転は想像を絶する大変さでしたが、図面・内装からスタッフと相談しながらプロジェクトとして進めたことで、より団結力や組織へのロイヤリティを高める結果になったと思います。コミュニティスペースも併設したことで街との接続も増え、この1年はクリニックの飛躍の年になりました。本の処方箋は5年目になりスタッフの間にも浸透し、当たり前の文化の1つになりました。内容もコミックからビジネス書、小説、ついにはLINE漫画まで現れ、自由度の高さも良い風潮だと感じています。スタッフから原稿が早めに上がってきているのに、私の業務過多で処方箋をなかなか発行できないこともありますが、これからもゆるく長く続けていくクリニックの文化として醸成させていきたいと思います。」
・橋本さんは「LINE漫画という新しいメディアで、人の温かさを伝える」
・堀口さんは「子育て世代ならではの、感情の整理という実践的な知恵」
・小田さんは「自分の旅体験と重ねた、価値観を広げる一冊」
と、スタッフそれぞれの世代や立場、経験が色濃く反映された”処方”になっています。
2021年のコロナ禍で始まった「本の処方箋」は、スタッフ間の気持ちを繋ぎ、院内に柔らかさを取り戻す役割を果たしました。そして2025年、移転という大きな転換期を経て、より自由で多様な”処方”が生まれる文化へと成長しています。
皆さんは誰に、どんな本を処方してあげたいですか。

医療法人社団LOCO ロコクリニック中目黒
24時間365日、全てのタイプの救急患者に対応する、エマージェンシー・ルーム(ER)で医師としての経験を積み重ねてきた、共同代表の嘉村 洋志医師と瀨田 宏哉医師が2018年に中目黒に立ち上げた平日夜間23時まで、土日も受診のできる『アージェントケア』を標榜するクリニック。
2024年に画像検査センター『LOCO SCAN』のある目黒川沿いへ移転し、街に開かれたギャラリーを併設、また待合室の個室の多い運用で地域に開かれつつも個々の患者、家族や属性に配慮の深いクリニックとして街で暮らし働く人々を支えている。
https://loco-clinic.com/

こんな風に待合室にさりげなく、また個別診察室にも処方箋が貼ってあります
- 提供:
- © Medical LIVES / シャープファイナンス
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