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クリニックの事業承継は「早めの行動」が吉…自院の「譲渡価値」が具体的にわかる「算定方法」【専門家が解説】

クリニックの事業承継は「早めの行動」が吉…自院の「譲渡価値」が具体的にわかる「算定方法」【専門家が解説】

※画像はイメージです/PIXTA

超高齢社会が進行する昨今、医療業界でもその影響は深刻化しています。特に、身内に後継者がいないため、やむを得ず「廃業」を選択する開業医も少なくありません。そのようななか、この課題を解決するための選択肢として注目されているのが、M&Aによる第三者への事業承継です。第三者承継においてカギとなる「自院の価値の算定方法」について、株式会社船井総研あがたFASの田畑伸朗氏が解説します。

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“生涯現役”が理想だが…深刻化する「医師の高齢化」

昨今、「医師の高齢化」と「後継者不足」を背景に、開業医による事業承継の相談が増加基調にあります。

厚生労働省の令和4年統計調査によると、開業医の平均年齢は60.4歳と過去最高となり、平成22年以降上昇が続いています。また、一般的にリタイアを意識し始める60歳以上の割合が52.7%と全体の半数を超えており、このうち約半数が後継者問題を抱えているものと考えられます。
日本全体の人口構造の変化と同様に、開業医の高齢化も今後さらに深刻になると見込まれることから、開業医の事業承継相談は引き続き高水準で推移していくでしょう。

開業医が選択しうるクリニックの承継方法4つ

勤務医と異なり、開業医には定年がありません。しかし、身体的な衰えや精神的な疲れにより、一般的に60~65歳前後でリタイアを意識し始めるといわれます。その際、開業医が選択しうるクリニックの承継方法は、主に以下の4つです。

①親族承継
②従業員承継
③第三者承継
④廃院

 

たいていの場合まずは、①親族承継②従業員承継を検討する人が多いです。ただ、そもそも継いでくれる親族がいない、従業員に候補者はいるが経営者負担(労務管理や院内対応、銀行借入に対する個人保証など)が重荷となって継いでくれないなど、結果としてうまくいかないケースがかなり散見されます。
その場合、③第三者承継(M&A)④廃院を選択することになりますが、実際は④の廃院には多額の廃院費用(テナント物件における原状回復費用、医療機器や薬剤の処分費用)が必要です。なにより、これまで築き上げてきた医療資産(カルテ、スタッフ、地域社会での信頼)を放棄することになるなど、安易に選択できるものでもありません。

一方、③第三者承継(M&A)は、手を組むパートナーしだいでは医院としての信用向上およびさらなる業績拡大が期待でき、開業医自身が譲渡益による金銭的メリットを享受できるケースもあります。
信頼できるパートナーの見極めや複雑な譲渡交渉などを乗り越えることができれば、よりよい未来をつかむことが可能なのです。

クリニックの「価値」はどのように計算される?

第三者承継(M&A)の検討にあたりやるべきこととして、まずは自院の譲渡価格(企業価値)を把握することが必要です。
通常、M&A事業会社に決算書類等を提出し、クリニックの譲渡価格を算定してもらいます。譲渡価格の計算方法は数種類存在しますが、クリニックの価値算定においては「年倍法」が使用されることが一般的です。

年倍法とは次の式で計算され、そのクリニックの譲渡対象資産はいくらなのか、それに加えて将来期待できる実態利益を何年分加算するのか、の2点が考慮されます。

〈年倍法※1の計算式〉
譲渡価格=「時価純資産額※2」+「実態利益※3×平均2~3年分」
※1 年倍法 :年買法ともいいます。
※2 時価純資産額 :貸借対照表(BS)の資産額から負債額を差引いた差額=純資産/これを時価ベース(現在価値)に置き換えて計算します。
※3 実態利益(正常収益) :クリニックそのものが生み出す収益を指します。決算上の利益から、事業と関係のない損益や非経常的に発生する損益を除いて算定されます。

 

「時価純資産額」や「実態利益」という言葉は聞き慣れないかもしれません。たとえば時価純資産額でいえば、貸借対照表(BS)に記載されている土地や保険積立金には含み益が存在することがあり、それは資産額の加算要因となります。

一方、回収不可能な売掛金や簿外負債等があれば、それは逆に資産額の減算要因となります。また実態利益についても、実際には役員報酬や節税保険などで損益を調整されているケースが少なくありません。それらの影響を取り除き、クリニックとしての正味の利益を計算します。

なお、上記計算式の実態利益について「平均2~3年分」と記載しましたが、これは平均値であり、実際には変動することもあります。

実態利益は、いわばクリニックの希少価値の評価ともいえる部分です。たとえば競合の少ない好立地で、業績も申し分なく、お相手の営業空白地帯であり将来のシナジー効果もおおいに期待できるなどの条件がそろえば、4~5年程度に上振れするケースもあるでしょう。

一方、開設数がコンビニエンスストアを超える歯科クリニック業界においてはこれらの条件を満たすことが少なく、1~2年程度で評価されるケースも散見されます。

クリニックの事業承継を成功に導く「2つのカギ」

譲渡価格(企業価値)の算定には一定の経験値を要するため、経験豊富なM&A事業会社への依頼が不可欠です。その際に意識しておきたいことが2点あります。

1.早期相談
冒頭で説明したように、今後も開業医の高齢化が進んでいきます。人口ピラミッドでもっとも多い団塊の世代が事業承継問題に直面するなか、団塊ジュニア世代も事業承継を考え始める時期に差しかかっているのです。

今後、クリニックの譲渡相談は急増していくでしょう。そうなった場合、第三者承継(M&A)は市場価格で取引されることから、譲渡価格の値崩れが発生する可能性も否定できません。適切な価格で譲渡するためにも、早めの検討が重要です。

2.クリニックの現状・業績・強みを把握する
M&A事業会社に譲渡価格(企業価値)算出を依頼する際、クリニックの現状や業績、強みなどを説明する必要があります。場合によっては顧問税理士等にも同席してもらい、資料を使いながらしっかりと説明しましょう。

経営者として当然のことと思いがちですが、現状把握ができていないケースは意外と多く、その後のM&A交渉においても後手に回るケースが散見されます。

事業承継はハードルが多い…早めの行動が吉

開業医にとって、事業承継は避けられない課題です。つい「面倒だから」「検討するにはまだ早い」と後回しにしてしまいがちでもあります。しかし、課題が表面化すると、簡単には解決できないのも事実です。

譲渡価格の計算ロジックを理解したうえでクリニックの強みを把握し、それをM&A事業会社と共有することで、適正な譲渡価格を把握する。それが事業承継課題解決の第一歩となります。交渉の場で後手に回らないためにも、早めの行動を心がけましょう。

〈参考〉
・厚生労働省令和4(2022)年医師・歯科医・薬剤師統計の概況(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/22/index.html)

著者:
田畑 伸朗
株式会社船井総研あがたFAS チーフコンサルタント(編集:幻冬舎ゴールドオンライン)
提供:
© Medical LIVES / シャープファイナンス

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