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※画像はイメージです/PIXTA
医師が独立開業に踏み切る理由はさまざまですが、なかでも「もっと稼ぎたい」という理由から独立する人は少なくありません。ひと昔前は「開業医=お金持ち」という法則が成り立っていましたが、個人医院が乱立するいま、安易な開業はむしろ危険で“不幸”を招きます。とある開業医の事例をもとに、医療業界を取り巻く実情をみていきましょう。都内でクリニックを経営する現役の開業医T氏が解説します。
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開業医を目指す医師が増えている
近年、独立開業する医師が増加傾向にある。
独立する理由として「地域医療を展開したい」「自分がイメージする理想の医療を実現したい」といった崇高な動機を掲げる者も多いが、その裏には「勤務医の過酷なオンコール・当直や休日返上の労働環境から逃れたい」「経営を軌道に乗せて荒稼ぎしたい」などという“本音”が渦巻いているのも事実である。
新規クリニックが乱立した結果“自転車操業”の医師も
その昔、地域の診療所数は医師会によってある程度コントロールされていた。このため、新規にクリニックを開くと、開業初日の朝から多くの患者が並び、土日などの繁忙期には待合室に入りきらないほど患者が溢れている……という状況が起きていた。
ところが、近年開業医を目指す医師が増えたことで、都心部を中心にクリニックが乱立し、上記のような多数の患者を診療しているクリニックは少なくなった。厚生労働省「社会医療診療行為別統計の概況」によると、地域差はあれども、一般診療所に来院する患者数は1日40名程度とされている。
実際、横浜市都筑区医師会をはじめ、都心部の医師会ホームページ(※)には、クリニックの乱立と受診患者数の減少により経営が難しくなっている旨が記載されており、新規開業を考えている医師に向けて注意を促している。
(※)ヨコハマつづき健康生活ナビ「新規開業に対する都筑区医師会の基本姿勢)
さらに、新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに、不要不急の受診を控えるといった患者側の受診行動の変化もみられ、個人医院はさらなる苦難を強いられている状況だ。
こうした状況から、医師不足が叫ばれる一部地域を除いては、都心部であっても集患に苦労し、経営不振に陥るクリニックが増えているのである。
こうしたなか、家賃や人件費をはじめとした必要最低限の費用すらクリニックの収益で賄えなくなった結果、外で働いて得た個人の収入をクリニック維持に回し、なんとか経営破綻を免れている“自転車操業医”が存在する。
ここでは、そんな“ギリギリの状態”で診察を続ける開業医の実態を紹介していく。
こんなはずじゃなかった…理想と現実のギャップに辟易するX医師
2024年12月某日。朝7時半に起床し、110円のパンをかじる。医師会事務室から持ち出した紅茶のティーバッグに湯を注ぎながら、ボーッと朝のニュース番組を視聴。「ああ、俺はこんなはずじゃなかったのに……」今日もX医師の憂鬱な1日が始まった。
――2年半前、東京23区内の駅前ビル2階に、50坪の小児科クリニックを開業したX氏。
X氏は2浪のあと、地方にある医科大学を卒業。医師国家試験は1度不合格になるも、2度目の挑戦でようやく合格すると、関東の大学医局に入った。医師4年目までは多忙ながらも充実したキャリアを歩んでいたが、時間外労働は当たり前。休日出勤も多く、勤務先の労働環境はかなりハードだった。
5年目になって、過酷な労働環境の意義や自身の将来性に疑問を持ったX氏は、医師6年目から受験できる小児科専門医試験を受験せず、専門医資格を取らないまま大学医局から離れた。
その後は4ヵ所の医療機関を転々としたが、いずれも2年を超えて勤務することはなかった。その理由は、本人の意思もあるが、彼の人柄にも原因がある。
コミュニケーション能力が低いために職場での人間関係をうまく構築できず、優しい医師が多い小児科には珍しく“瞬間湯沸かし器”と揶揄されるほど短気な性格だったX氏。管理職からも、何度も「退職勧奨」を受けていたほどだ。
こうしたキャラクターが足かせとなり、4ヵ所目の医療機関を解雇されてから16ヵ所の医療機関に応募したが、面接に進んだのは3ヵ所のみ。その3ヵ所もすべて不採用となった。
厳しい現実にさすがに落胆したX氏だったが、同じ医局の先輩に開業医がいることを知り、話を聞きに行った。W医師のクリニックには、1日100名程度の患者が来るという。
W医師いわく「勤務医時代に比べて、仕事は楽になったのに年収は倍になったよ」とのこと。
こうした話を聞いたX氏は「どこからも採用されないのは、逆にチャンスかもしれない。俺も開業して自由に働きながら儲けよう」と、開業を決意した。
安易な開業の先に待っていた「地獄」
こうしてX氏は、優秀な医療コンサルタントの指導のもと、都内某駅前に50坪の小児科クリニック「X小児科」を開業した。その立地のよさから、開院当初、来院患者数は1日20~30人と、良好な滑り出しだったX小児科。しかし、だんだんとX氏の「悪評」が広がり、開業してわずか2~3ヵ月で患者数は1日5名程度にまで減少した。
先述のように、コミュニケーションが不得意なX氏は、患者ニーズをうまくくみ取れず、誤診もみられた。口コミサイトには「院長が怖い。スタッフも不機嫌」「絶対避けたほうがいい」「行けばガラガラ。どんな病院かよくわかる」「誤診された。最悪」などのネガティブな感想が相次ぎ、経営の要となる再診患者はなかなか増えない。初診患者ゼロ、さらに小児科の“核”ともいえる「予防接種・健診」ですら予約数がゼロという日も珍しくなかった。
X氏の生活が維持できる受診患者人数は、1日あたり20名程度。これを大幅に下回る日が続き、月200万円程度の大幅な赤字経営に陥った。
スタッフの人件費のほか、クリニックの家賃や医薬品代も払えず、自身の生活も危ぶまれるようになったX氏は、外部医療機関でのアルバイトを始めるほかなかった。
週7勤務で“アルバイト三昧”…勤務医時代よりもハードな生活に
土曜の午後や日曜といった休診日はもちろん、可能な範囲で夜間の当直勤務を行い、自身のクリニックとアルバイトで週7日勤務に。プライベートでも節約を余儀なくされ、夕食はカップ麺やスーパーの特売コーナーにある5割引のお惣菜。たまの贅沢は、1皿110円の回転寿司を5皿などと、生活レベルを大幅に落とした。
勤務医時代より過酷な勤務に果て、ついには自身の健康診断で「2型糖尿病・高脂血症・高血圧症・脂質異常症:要治療」の判定を受けた。
――働くのは週に3~4日が理想。休日は会員制リゾート施設で過ごし、温泉やゴルフを楽しみたい。
……かつて抱いていた夢はもろとも崩れ去り、生活を維持するために休日返上で働かざるをえない状況になってしまった。
X氏はクリニックの閉院を検討しているが、閉院にも1,000万円程度の資金がかかる。お金を貯めるか、自己破産をするか……X氏は究極の選択を迫られている。
2025年1月。年明け初日の外来はわずか10名だった。この先が思いやられる、不安な1年の始まりだ。
- 著者:
幻冬舎ゴールドオンライン(編集)
- 提供:
- © Medical LIVES / シャープファイナンス
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