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クリニックの開業は、自らのスタイルでしっかり患者と向き合うことができるほか、勤務形態の自由度や高額な報酬など、多くのメリットがあります。一方で、サイバー攻撃や災害、賠償請求といったリスクがあるのもまた事実です。そこで今回、クリニックの経営における「リスク」との向き合い方と、具体的な予防策について、株式会社TRUST代表取締役の木下賀友氏が、事例を交えて解説します。
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経営者が考えておきたい「リスクマネジメント」
クリニック経営が順調であればあるほど、その経営リスクについて考えることは少ないのではないでしょうか。しかし、経営者に対する第三者影響(サイバーリスクや詐欺など)や、予期せぬ原因(災害・天災・賠償等)により、経営に多大な損害をもたらすことがあります。すべてのリスクに対策を講じることは不可能です。しかし、開業にあたり可能な限りのリスクマネジメントを行っていく必要があります。
開業準備とは「医者自身が経営者になるための準備期間である」と私は考えています。開業後の経営を視野に入れながら準備をすることで、リスクを減らすことが可能になるのです。多額の借入や従業員の雇い入れ、各業者との契約、地域医療に貢献するクリニック経営を行うことは、医師としてだけでなく、経営者としての役割や責任も大きいと自覚すべきであると私は考えます。また、経営者は自分だけでなく、従業員を支える責任も当然重要です。
クリニック経営のリスクはさまざまですが、ここでは、開業時におさえておくべき保険の重要性について、事例とともに紹介します。
【開業時に検討すべきリスクと必要な保険の種類】
①休業損害補償
火災・天災等により休業せざるを得ない場合に、売上の一部を補償する保険
②所得補償保険
院長が療養せざるを得ない場合、その間の所得を補償する保険
③ GLTD(団体長期障害所得補償保険)
院長が病気やけがによる就業不能状態になった場合の補償をする保険
④ 火災保険
火災・浸水等の被害より、建物、医療機器等の損害の補償をする保険
⑤ 医師賠償責任保険
医療行為以外に、従業員の賠償事故に対し、また非常勤医師の管理責任も補償する保険
⑥ 団体信用生命保険
金融機関より事業用融資を受ける場合、殆ど必須で加入する。院長の死亡等、経営継続不能となった際に、借入金等の返済について補償する保険
⑦ 生命保険
院長の病気やケガに対する補償及び、これに伴う事業の中断、中止等に対し補償する保険
事例①院長の保険加入が救ったクリニックと家族の将来
40代前半で独立開業した医師には、妻と3歳になる娘がいます。開業後も患者からの信頼は厚く、開業1年で順調な経営推移をみせていました。
そんな矢先、院長自身の体調が悪くなり精密検査をしたところ、胃がん(ステージ4)と診断されてしまったのです。突然の診断に、院長も家族も悩まれました。クリニックは体調をみながら診療を継続したものの、今まで通りに働くことができず、診療時間を短縮せざるを得ない状況に。
院長の病気、経営状態の悪化と不安は多くありましたが、生命保険と損害保険に加入していたことが救いでした。医療保険や所得補償、休業補償もカバーしていたため、自身の治療や家族の生活、クリニックの経営等に対応することができたのです。
院長は2年の闘病生活ののち、残念ながら逝去されましたが、治療の間にクリニックは第三者承継の準備を行い、その後の家族の生活も路頭に迷うことなく、安心して院長を見送ることができました。
事例②突然の経営者不在による経営破綻と家族の末路
40代半ばで独立開業した医師は、離婚歴があり、自営業の父親が連帯保証人でした。娘の養育費や、早期の事業拡大という目標もあり、通常より多額の設備投資を行ったため、一般的な金額よりも多く借り入れを行っていました。
開業後の経営は想定を上回る順調さでしたが、開業から1年が経過したタイミングで、院長が脳梗塞に……診断からまもなく、逝去されました。クリニックは休診せざるを得ない状況のなか、従業員や院長の家族は困惑し、対応方法に苦慮していました。
この間、顧問税理士と某コンサルタント、院長の実父の間で何度も相談が行われましたが、経営継続は困難という結果に。開業する際にクリニックや院長自身の保証対策が講じられていなかったため、連帯保証人である実父も借入金や売掛金の支払いが困難となり、弁護士を介在させ自己破産を強いられました。
クリニックは競売扱いとなり、数ヵ月後、第三者の手に渡ることとなりました。この間、従業員に対する補償もなかったため、全員が解雇されるという、最悪の結末を迎えてしまいました。
クリニック経営の安定は、地域住民のためにも重要
リスクというのは往々にして突然やってくるものであり、対策を講じていないときほどその影響は大きくなります。クリニック経営を行うにあたって、少なくとも経営者自身に降りかかるリスクについて考えておくべきだと思います。
クリニック経営において、医師は生産部門にあたります。医師自身に生産性がなくなったとき、クリニック経営の根幹が崩壊してしまうことは言うまでもありません。世の中には、医師の開業支援を行うコンサルタントがたくさん存在し、著書も多くあります。しかし、開業時の医師のリスク対策について述べているものは少ないのが事実です。
独立開業を成功に導くのはもちろん、その先にあるクリニック経営に目を向け、経営者の将来を見据えていくことに重要なポイントがあると思います。
成功の先にある経営者の安心と安全も視野に入れることで、地域医療への貢献にもつながっていきます。安定したクリニック経営は、地域住民の良質な健康と安心した生活を守る、重要な担い手になるのです。
- 著者:
木下 賀友(編集:株式会社幻冬舎ゴールドオンライン)
【株式会社TRUST】代表取締役社長
- 提供:
- © Medical LIVES / シャープファイナンス
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