人の意思決定を左右する口コミ。手軽に情報を得られることから、多くの人が参考にしているのではないでしょ…

※画像はイメージです/PIXTA
人の意思決定を左右する口コミ。手軽に情報を得られることから、多くの人が参考にしているのではないでしょうか。ただ、インターネット上には事実無根の悪質な口コミも少なくありません。こうした「悪意のある口コミ」はサービスを供給する側にとって、深刻な影響をもたらします。それは医療業界も例外ではないでしょう。では、クリニック経営において、そのような「悪意のある口コミ」にどう対処すればよいのでしょうか。
現役の開業医である武井智昭院長が、事例を交えて解説します。
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デジタル時代の医療現場が直面する「新たな試練」
現代、インターネットは情報収集の主要な手段です。日常生活のあらゆる意思決定において、多くの人がオンライン上の口コミサイトなどを参考にしています。
医療分野も例外ではなく、病院にかかる際にも「口コミ」を参考に選んだ経験のある人が多いのではないでしょうか。
しかし、この手軽さが、ときに医療現場に深刻な影を落とします。
口コミサイトのなかには匿名での投稿が可能な場合も多く、事実無根の悪意ある情報や、個人的な感情にもとづく誹謗中傷が拡散され、地域医療を支えるクリニックの信頼や経営を揺るがす深刻なトラブルに発展するケースが後を絶ちません。
呼吸器内科が抱える「口コミトラブル」の実態と影響
筆者の専門である呼吸器内科は、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザ感染をはじめとした早期対応を要する感染症に加え、喘息・COPD(慢性閉塞性肺疾患)・気管支拡張症など、症状が慢性化しやすく治療に時間を要する患者も多く来院されます。
そのため、「早く治してほしい」という患者の期待値と現実とのギャップが生じやすく、それが口コミトラブルに繋がりやすい側面があると感じています。
実際に私が経験し、あるいは同業の仲間から見聞きした口コミトラブルには、さまざまなパターンがあります。
ある日、当院の口コミサイトに「医師の説明が高圧的であり、不十分で不安になった」「薬や今後の説明が早口で怒っていそうで怖かった」という書き込みが連投されました。
普段から丁寧な説明を心がけていることから、実際に患者と向き合っている私やそれを見ているスタッフには心当たりのない内容でしたが、匿名であるため、当該事象を特定して、その後の診療で改善を図ることもできません。
また別の日には、投稿者の個人的な感情や思い込みに基づいた内容が、あたかも事実のように書かれていたこともあります。
「咳が治らないのは診断が間違っているからだ」「医師はいつも疲れた顔をしている」「ムダな検査ばかりする。金儲け・拝金主義」「スタッフの採血や処置がへたくそで、1週間腕がしびれた」……どれも皆、医学的根拠はなく、医師・スタッフ個人の印象に対する主観的な意見です。
さらに深刻なのは、診療内容とはまったく関係のない誹謗中傷や、個人情報の流出をほのめかすような悪質な書き込みです。
「この病院は特定の患者を差別している」「暇なスタッフ同士で患者の悪口を言っているのを聞いた」……こうした書き込みは、たとえ事実でなくても、一度広まってしまうと消し去ることが困難です。
口コミがクリニックに与える「深刻な影響」
このような悪意のある、あるいは誤解に基づく口コミは、クリニックの経営にも大きな影響があります。
患者数の減少と経営圧迫
口コミは、特に新規患者にとって、来院を決める大きな判断材料となります。悪い口コミが連続して目立つと、こうした新規患者になるはずの層が他院へ流れてしまうため、開業したばかりのクリニックや、地域でまだ知名度が低いクリニックにとっては死活問題です。
スタッフの士気低下と離職リスク
献身的に患者のために働いているスタッフが、根拠のない批判や誹謗中傷に晒されることは、計り知れない精神的負担となります。
医療事務・看護師は、患者と接する時間が医師よりも長く複数回に及ぶため、理不尽な内容でも自分たちへの批判だと受け止める傾向があります。その結果、士気が低下し、やりがいを感じられなくなることで、優秀なスタッフが離職を選ぶケースも少なくありません。
医師の精神的負担と診療への影響
医師も人間です。患者の健康のために尽力し、日々研鑽を積んでいるにもかかわらず、不当な批判を受けることは、医師自身の精神的なストレスとなります。
特に、長期的に患者と向き合うなかで信頼関係が損なわれるような口コミは、心に傷をのこす事にもつながります。
口コミトラブルへの対処法…開業医が実践する日常の工夫
では、このような悪意のある口コミに対し、私たち開業医はどのように立ち向かえばいいのでしょうか。私自身が日常的に実践している工夫は下記の2つです。
1.「見て見ぬふり」と「真摯な対応」の使い分け
まず肝要なのは、すべての口コミに一喜一憂しないことです。
個人的な感情に基づく誹謗中傷や、明らかに事実と異なる内容、あるいは単なるストレス発散のような書き込みに一つひとつ反応していたら、時間も労力もいくらあっても足りません。このような悪意のある口コミに対しては、あえて「見て見ぬふり」を心がけましょう。
これは、無駄な労力を費やさず、本来の仕事である医療に集中するための重要なポイントです。
一方、建設的な批判や改善点を示唆する口コミは真摯に受け止め、クリニックの成長の糧としましょう。
実際、当院でも「待ち時間が長い」という意見が複数寄せられた際には、予約システムの見直しや、診察フローの改善(簡易的な問診票の導入で事前情報を得る、スタッフによる予備的な聞き取りの強化など)を実施しました。
こうした改善は、患者の満足度向上だけでなく、スタッフの業務効率化にも繋がり、最終的には良好なオペレーションとなります。
2.「法的措置」も視野に入れ、証拠を残す
とはいえ、あまりにも悪質な口コミや、クリニックの業務を妨害するような内容、あるいは医師やスタッフの個人情報に関わるような誹謗中傷であれば、法的措置も視野に入れるべきでしょう。これは、クリニックを守り、働くスタッフを守るための最終手段です。
そのためには、問題のある口コミをスクリーンショットなどで日時とともに詳細に記録し、証拠として保存しておくことが極めて重要になります。
また、必要に応じて医師会・弁護士・警察、インターネット上の風評被害対策を専門とする業者など、第三者に相談できる体制を整えておくことも大切です。
「いざというときの選択肢がある」という認識を持つだけでも、精神的な負担は軽減されます。専門家のアドバイスを受けることで、より冷静かつ適切な対応策を講じることができるでしょう。
3.悪質な口コミには「戦略的対処」を
インターネット上の悪評は、避けては通れない深刻な課題です。しかし、それに怯え、感情的になるのではなく、冷静かつ戦略的に対処することが求められます。
悪意のある口コミには毅然とした態度で臨みつつ、建設的な意見は真摯に受け止め、クリニックの成長の糧とする。そしてなによりも、患者一人ひとりとの対話を深め、信頼関係を大切にする……この医療の根幹ともいえる姿勢こそが、地域に根差した信頼されるクリニックとして発展していくための揺るぎない道だと筆者は信じています。
今後、オンライン上の情報との向き合い方は複雑になっていきます。私たち開業医は診療技術の向上だけでなく、デジタル時代の評判管理という新たな課題にも積極的に取り組み、患者に質の高い医療を提供し続けなければいけません。
- 著者:
武井 智昭
高座渋谷つばさクリニック 院長
- 提供:
- © Medical LIVES / シャープファイナンス
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