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早く“ラク”したいのに…クリニックの閉院に追われた院長とその家族の困難【医院経営コンサルタントが解説】

早く“ラク”したいのに…クリニックの閉院に追われた院長とその家族の困難【医院経営コンサルタントが解説】

※画像はイメージです/PIXTA

開業医がクリニックの閉院を決断する場合、事前に対策をしていないと、時間もお金も体力も削られ、本人だけでなくその家族も大変な事態に陥ってしまうと、株式会社TRUSTの代表取締役社長木下賀友氏はいいます。今回は、医院経営コンサルタントの木下氏が実際にみてきた「閉院に苦しんだ院長とその家族」の事例をもとに、閉院時に注意すべきポイントについてみていきましょう。

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院長がクリニックを「閉院」させる理由

開業医が閉院(=廃業)を決断する理由としては様々な理由がありますが、今回は「自主廃業」と「解散」にフォーカスします。

自主廃業(個人事業)

「自主廃業」とは、クリニックの開設者が自ら廃業を決めること、または死亡などにより廃業することを指します。いずれの場合も、その旨を「10日以内に都道府県知事に届けなければならない」と医療法で定められています。

【医療法】
第9条 病院、診療所又は助産所の開設者が、その病院、診療所又は助産所を廃止したときは、10日以内に、都道府県知事に届けなければならない。

2 病院、診療所又は助産所の開設者が死亡し、又は失そうの宣告を受けたときは、戸籍法(昭和22年法律第224号)の規定による死亡又は失そうの届出義務者は、10日以内に、その旨をその所在地の都道府県知事に届けなければならない。

解散(医療法人等)

「解散」とは、法人がその目的である本来の活動をやめ、財産関係などの清算をする状態に入ることを指します。医療法で定められている7つの解散事由のいずれかに当てはまる場合、解散が認められます。反対に、これ以外の事由での解散は認められていません。

【医療法】
第55条 社団たる医療法人は、次の事由によって解散する。

一、 定款をもって定めた解散事由の発生
二、 目的たる業務の成功の不能
三、 社員総会の決議
四、 他の医療法人との合併
(合併により当該医療法人が消滅する場合に限る(略))
五、 社員の欠乏
六、 破産手続きの決定
七、 設立許可の取り消し

こんなにあるの!? 閉院の際に必要な諸手続き

閉院を決めた場合、クリニックは診療所としての閉院手続き以外にも、人やモノ、お金に関するさまざまな手続きを行わなければいけません。どのようなものがあるのか、以下にその一例を挙げます。

貸主や不動産会社等へ
→テナント(自己所有の建物等)の賃貸借契約の解約や売却

取引先金融機関やリース会社、医療機器販売店等へ
→医療機器などの廃棄処理や、リース物件の解約

取引先業者等へ
→取引先との契約解除や売掛金、買掛金の清算

日本年金機構や公共職業安定所、労働基準監督署等へ
→従業員の離職手続き(健康保険、厚生年金、雇用保険、労働保険等)

税務署へ
→事業の廃業届

院内での告知、ホームページ、広告等
→患者様や地域への告知

公共設備(水道、ガス、電気等)、電話(NTT等)やWEB関係(ホームページ等)の停止

管轄する保健所、厚生局、自治体、医師会等
→新たな診療所開設・運営に係る許可(届出)

上記以外にも、クリニックごとにさまざまな契約や取引、関係先などがあるため、それらすべてへの手続きが必要になります。また、手続きの際には費用が発生するものや回収が必要になるものもあります。

ここからは、閉院にいたったクリニックの事例を2つ紹介します。

「コンサルタント」の介入が解決に導いた
閉院に苦しんだクリニックA(事例①)

【個人事業主/開業後約40年】
状況:院長の体調不良により事業の廃止を決断する
建物自己所有、土地の賃借

院長の突然の病気により、いままでのような診療が行えず、診療時間や日数を減らさざるを得なくなったクリニックA。院長の思いもあり、医師会等を通じて継承先を探していましたが、いい相手が見つからず一時閉院を決断しました。

しかし、いざ閉院するにも、困ったことがありました。クリニックが建つ土地が「賃借契約」となっていることに加え、「事業の継続をしないのであれば建物を解体後、土地を返却する」という契約内容だったのです。そのため、解体に際しての具体的な方法や、医療機器を廃棄するための費用面でも、大きな問題となっていました。

この間約1年半、院長は体調を見ながら診療を継続し、「事業の継承か廃業か」の狭間で、家族の協力も得ながら生活を続けていました。しかし、診療時間を減らしたことから患者も従業員も離れていきます。収入的にも厳しくなり、院長は精神的にも疲弊していきました。

最終的には、コンサルタントの介入により無事継承先が見つかり、クリニックは解体せず売却することに。幸いにも家族が診療所の経営に携わっていたため、継承先決定後の手続きはご家族が窓口となって処理することができました。継承決定後は、院長も自身の療養に専念することができ、一安心でした。

閉院に苦しんだクリニックB(事例②)

【医療法人/開業後約20年】
状況:院長の逝去により事業廃止を決断する。
テナント開業
家族:妻(専業主婦)、息子(学生)

クリニックBは、院長の体調不良により引退を決断した医療法人です。継承先を探していたところ、院長が逝去されてしまいました。

院長の思いを受け、1年ほど家族が継承先を探し続けましたが、なかなか見つかりません。家族は医療関係者ではないため、経営状況も把握できずにいるところ、患者や取引先、管轄する自治体等からの問い合わせ等が相次ぎ、対応に苦慮。心身ともに疲弊していきました。

その後、顧問税理士の勧めでコンサルタントが介入し、継承先を探すことになりました。コンサルタントは、医療法人に理事長が不在であること、クリニックに管理者が不在であることを鑑み、この継承先探索期間を限定し、「期間内に見つからなければ解散、閉院とする」ことを提案。

期日を定めたことで、家族側も処理の範囲が限定され、顧問税理士とコンサルタントを中心に、経営状況を再確認することができました。一定の作業を外部に委託したため、その後は家族も安心して準備を進めることができ、最終的に解散・閉院となりました。

「クリニックの閉院」を決断した経営者がまずするべきこと

クリニックが閉院にいたる原因には、今回紹介した医師の体調不良や急逝以外にも、市場の多様化、後継者不在などさまざまな理由があります。

どんな理由であっても、閉院を決めた場合、クリニック経営者がまず行うべきことは「相談」です。クリニック経営には、患者や従業員、取引先をはじめ、関係者が多数いることはいうまでもありません。閉院にあたっては、こうした関係者に迷惑をかけず、そして経営者自身も廃業後の生活に不便がないようにしておくことが大切です。

したがって、その手始めには、信頼できる相談相手を決め、閉院について相談することをおすすめします。

いかがでしたでしょうか。

院長の病気や死亡などの理由により、突然の閉院を余儀なくされる場合には、なおさら整理をつけるのは難しいことです。そのため、あらかじめそのような「不測の事態」を想定し、自ら経営するクリニックのよりよい終焉に向けて、現状を把握し、適切な担当者に相談のうえ、問題点を1つずつ潰していく必要があります。

事前の準備があれば、もし自分に万一のことがあっても、家族が安心して事業の整理をしていけるでしょう。経営中はあまり考えたくないことかもしれませんが、「クリニックの閉院が周囲へ与える影響は想像以上に大きい」という認識をもって、将来を見据えて準備を進めておきましょう。

著者:
木下 賀友(編集:株式会社幻冬舎ゴールドオンライン)
【株式会社TRUST】代表取締役社長
提供:
© © Medical LIVES / シャープファイナンス

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