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横行する“M&A詐欺”を未然に防ぐ…最低限知っておきたい「クリニックの事業承継」のいろは【医療コンサルタントが解説】

横行する“M&A詐欺”を未然に防ぐ…最低限知っておきたい「クリニックの事業承継」のいろは【医療コンサルタントが解説】

※画像はイメージです/PIXTA

開業医の高齢化や承継者不足を背景に、医療機関のM&Aが増加しています。しかし、これに伴い、悪質な交渉相手や悪質なM&Aコンサルティング業者による「M&A詐欺」が横行していると、医療機関のコンサルティングに詳しい株式会社船井総合研究所フィナンシャルアドバイザリー支援部の田畑伸朗氏はいいます。今回は、医療機関におけるM&Aの現状と、詐欺を避けるためのポイントについてみていきましょう。

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医療機関のM&A増加とともに、「M&A支援機関」も増えている

近年、経営者の高齢化や承継者不在などを背景に、その有効な解決手段として注目される「M&A」が増加傾向にあります。

これに関連して、M&Aのコンサルティング(助言)業務を手がける企業も増え、「果たしてどこに相談すればよいのやら」と迷っている経営者や医師たちも少なくないでしょう。

実際、中小企業庁が創設した「M&A支援機関登録制度(※1)」に登録する事業者(M&Aの支援提供できる機関)は約2,800と多く、法人や個人事業主、M&A専門事業者、金融機関、士業事務所など、その職種も多岐にわたります。

(※1)M&A支援機関登録制度……令和3年8月、中小企業が安心してM&Aに取り組める基盤を構築することを目的に中小企業庁が創設した。

また、これに伴ってM&Aに関するトラブルも増えています。最近では、投資会社「ルシアンホールディングス」が、茨城県の納豆業者など30社以上にM&Aを実施したものの、経営をほとんど行わず、資金を抜き取って姿を消すといった悪質な事例も報道されています。

医療業界においても、事業の承継や拡大を狙った詐欺が頻繁に報告されており、M&A詐欺に巻き込まれない知識を身につける重要性は日々増しているといえるでしょう。

信頼できる「M&A専門家」を見極める「3つ」のポイント

医療機関が事業承継の手段としてM&Aを検討する場合、「M&Aは初めて」というところが大半でしょう。したがって、まずは信頼できるパートナー(=M&A専門家)を選定することが必要になってきます。信頼できるM&A専門家を見極めるためには、下記のようなポイントを押さえることが重要です。

1.実績の確認
まずは、過去の成功事例や取り扱い企業の情報をチェックしましょう。特に医療業界は特有の専門知識が必要となるため、医科・歯科等のM&Aに特化した経験がある、また豊富な業界データを保有しており、医療業界に精通しているような企業を選ぶことが重要です。

2.顧客サポートの充実
また、困ったときに常時連絡が可能で、サポート体制が整っている企業を選ぶことも肝心です。担当コンサルタントの紹介ページなどを確認し、担当部署の規模やバックアップ体制なども確認しましょう。

3.透明性の確保、評判のリサーチ
手数料や業務内容、契約内容について、しっかり説明する企業は信頼に値します。反対に、あいまいな表現が多い場合は注意が必要です。

これらの点を考慮に入れつつ、慎重にパートナーを選んだあとは、M&A専門家が紹介した候補先と実際に「ディール(※2)」が進みます。ここでも注意すべきポイントがいくつか存在します。

(※2)ディール……M&Aの準備(戦略を練り、ターゲットとなる企業を選ぶ)から成約に至るまでの一連の流れ。

M&A実行前に知っておきたい、怪しい交渉相手の「3つ」の特徴

基本的に、譲渡側と譲受側の利益は相反します。たとえば、譲渡側はなるべく高い譲渡価格を望み、譲受側は可能な限り譲渡価格を抑えようとするでしょう。このように、互いの利益が相反する以上、M&Aの専門家ではない開業医であっても、ある程度しっかりとした知識を持ってディールに臨む必要があるといえます。

では、具体的にどのような交渉相手に用心すべきなのでしょうか?

1.業績資料の誇張、虚偽の決算数値
M&A詐欺では、提供された業績資料が誇張されていたり、決算数値等が虚偽であったりするケースが少なくありません。したがって、提供された資料を鵜呑みにせず、精査することが必要です。

具体的には、譲渡側の場合には、譲受候補先のM&A実績や評判、資金調達力、経営の継続性などを重点的に確認しましょう。譲受側の場合には、「買収監査(DD:デューデリジェンス)」を行うことで譲受後のリスクを洗い出しましょう。

2.異常な条件提示
M&Aの譲渡価格は、おおむね市場価格により取引されます。しかし、M&A詐欺の場合には、通常の市場価格よりも著しくかけ離れた価格設定をしているケースがあります。

3.交渉を急かされる
後継者不足を背景とすることから、経営者は早急なM&Aを模索しがちです。また、交渉相手から「時間がないので」と迅速な決断を促されることで焦ってしまい、じっくり考えることなく決断してしまうことがあります。

本来、仲介に入るM&A専門家が調整をしてくれるはずですが、経験値が浅いとうまく調整できないケースがあります。気持ちはわかりますが、焦らずに内容を精査し、一方的に不利な交渉とならないよう注意しましょう。

実際、ディールの入口で譲受側が非常に高い譲渡価格を提示し独占交渉権を得たあと、理由も不明確なまま大幅な減額交渉を行ってくるような事例などが散見されます。常に冷静で客観的な判断が求められるところです。

4.契約条件の確認
譲渡契約時においても、条件を確認し、特に不明点がないかチェックしましょう。特に利益が相反する事項については、口頭確認のみで終わらせず、契約書にしっかりと盛り込むことが必要となります。場合によっては、弁護士など外部の専門家に相談することも大切です。

いかがでしたでしょうか。

開業医をはじめとした中小企業のM&Aにおいては、大企業の敵対的買収のように、片方だけが一方的に利する取引は成功しがたいといえます。反面、M&Aの経験値が低く、パートナー選びを誤ってしまうと、失敗の確率が上がるだけでなく、M&A詐欺に巻き込まれる危険性が高まります。

M&A詐欺に巻き込まれないためには、信頼できる専門家や第三者の意見を仰ぎ、冷静で客観的な判断を行うことが必須です。

また詐欺で注意すべきは交渉相手のみならず、コンサルタント会社が関わるケースも存在します。

したがって、今回紹介したように自身のM&Aに関与する相手を慎重に選んだうえで、丁寧に進めていくことで、M&Aによって大きな成功を手にする可能性を高めていくことができるでしょう。

著者:
田畑 伸朗(編集:株式会社幻冬舎ゴールドオンライン)
【株式会社船井総合研究所】フィナンシャルアドバイザリー支援部
提供:
© Medical LIVES / シャープファイナンス

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