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“売り手”も“買い手”も要注意…「クリニックのM&A」で起きた悲劇3選【医療コンサルタントが解説】
※画像はイメージです/PIXTA
医師の高齢化や後継者不足による“やむを得ない閉院”を防ぐ手段として「クリニックのM&A」が注目されています。しかし、M&Aはその専門性の高さと情報の秘匿性から、売り手と買い手、それぞれが大きなリスクを抱えることも事実です。そこで今回、売り手側と買い手側それぞれの過失により起きた「クリニックのM&Aの悲劇」について、株式会社船井総合研究所フィナンシャルアドバイザリー支援部の田畑伸朗氏が紹介します。
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医療業界で増加するM&A
医師の高齢化や後継者不足を背景として、開業医のM&A相談は増加基調にあります。
厚生労働省の令和2年統計調査によれば、開業医の平均年齢は60.2歳と過去最高となりました。このうち、約半数が後継者問題(後継者不在)を抱えていると言われ、日本全体の人口構造の変化と同様に、開業医の高齢化も今後さらに進むことが見込まれることから、開業医によるM&A相談は引続き高水準で推移するものと予測されます。
また、一般的にM&Aというと、以前は海外のハゲタカファンドに代表されるような敵対的買収のイメージが強く、毛嫌いされるケースも散見されました。しかしながら、最近では事例も増え事業承継問題を解決する手段のひとつとして一般化しつつあり、「大学の先輩からM&Aでクリニックを譲渡したという話を聞いたが、自分も検討してみたい。相談に乗ってくれないだろうか?」というような問合せも増加しています。
原則として、中小企業、そしてクリニックにおけるM&Aは友好的買収が基本であり、譲渡先と譲受先の互いがwin-winとなって初めて成功します。当然ながら譲渡先は高く売却したいし譲受先は安く買いたい。そこにはさまざまなドラマがあり、失敗事例も存在します。いくつか事例をご紹介しましょう。
クリニックのM&A失敗事例
【失敗事例①】
譲渡先:個人開業医(M&A実績なし)
譲受先:大手医療法人(M&A実績多数)
≪内容≫
60代の開業医が現役引退を決意、大学の先輩のツテでM&A経験のある大手医療法人に譲渡を打診。先輩の紹介先ということで「無茶なことにはならないだろう」と安易に考え、費用を節約するためM&Aの専門家を利用せずに自力対応した。その結果、交渉はM&Aに慣れている大手医療法人のペースで進み、最終的に買い叩かれてしまった。
≪解説≫
クリニックがM&Aを検討する際に、M&Aの専門家を利用しないケースは少なくありません。
たとえば、自院の勤務医が院内承継するケースなどは、人柄もよく分かっており、将来のトラブルも少ないだろうと自力交渉するケースがあります。
しかしながら、院内承継とて譲渡先(現院長)と譲受先(承継希望の勤務医)の間には利害対立があり、金銭面や労務面などで将来的にトラブルが発生する可能性が低いとは一概には言えません。
ましてや、院外の医療法人など第三者への事業譲渡となればなおさら。M&Aの専門家に交渉の間に入ってもらい、客観的な立場で利益の最大化を図ることが必須となります。
特に本件のように、両社の間でM&A経験に差があるケースは要注意。必ず専門家に相談することをお勧めいたします。
【失敗事例②】
譲渡先:個人開業医(M&A経験なし)
譲受先:独立を検討する勤務医(初めての開業)
≪内容≫
70代開業医が現役引退を決意。従業員の雇用環境維持を目的に、独立を検討する勤務医への譲渡を行った。しかしながら、譲渡後に離職が相次ぎ、医院は閉鎖に追い込まれてしまった。
≪解説≫
承継した勤務医は、院長として既存スタッフに迎え入れられる形となります。譲受側の勤務医としては新規採用の手間もかからず戦力的には申し分ない一方で、既存スタッフと良好な人間関係を築くことが大前提となってきます。
したがって、M&Aの交渉においては、新院長の人柄の見極めや運営方針の擦り合わせなど、金銭面以外の部分もきっちり押さえていくことが非常に重要なポイントとなります。
場合によっては、前院長による引継ぎ期間をきっちり設けて、運営ノウハウの承継や既存スタッフ、そして患者と顔つなぎをしていくことが必要になってきます。
【失敗事例③】
譲渡先:歯科医療法人(矯正歯科)
譲受先:分院展開を狙う医療法人(成長戦略の一環)
≪内容≫
分院展開を目的に「矯正に強い歯科診療所」を譲受したが、売上の源泉であった矯正医が数ヵ月後に退職し、業績が急降下。収益状況は黒字回復の目途がたたず、M&Aクロージング後1年を待たずして、再度譲渡を検討しなければならなくなった。
≪解説≫
譲受側としては、対象医院の強み、その強みの源泉は何であるか、それが譲受後も維持できるのかをしっかりと検討する必要があります。特に自費診療の割合が大きい美容皮膚科や矯正歯科などは、誰(キーマン)が業績を作り上げているのかを把握し、そしてそのキーマンを継続雇用することが大前提です。
対応策としては、しっかりとした事前交渉や、場合によってはロックアップ条項(別名キーマン条項……法人で重要なポジションを担う人が一定期間その法人に残って、経営や事業に参画することを定めた条項)を活用するなどの対応が必要となってきます。狙ったシナジー効果が期待できないM&Aは失敗と言わざるを得ません。
トラブル回避のため…専門家の有効活用を
ここまで紹介した失敗事例を回避するには、相応の経験を有するM&Aの専門家を活用することが有効です。彼らは客観的な立場から過去の経験を踏まえ、互いの利益の最大化、トラブルの回避に努めてくれます。利用しない手はないでしょう。
また、M&Aの成功率を高めるためには「焦らないこと」も大事です。相手候補先を見つけ、相互の理解を深め、時には対立する各条件を交渉する。
M&Aの成立には、短くても1年程度、長ければ数年の時間が必要となるケースも散見されます。
特に一般的な事業会社のM&Aとは異なり、クリニックのM&Aには医療業界独特の難しさがあります。最初に申し上げたように、譲渡先と譲受先の互いがwin-winとなるには、納得がいくまで時間をかけて話し合うことが必要となるのです。
早めの準備、検討を心がけ、よりよいM&Aを掴み取っていただければ幸いです。
- 著者:
田畑 伸朗(編集:株式会社幻冬舎ゴールドオンライン)
【株式会社船井総合研究所】フィナンシャルアドバイザリー支援部
- 提供:
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