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調査官の“鋭い質問”にタジタジの50歳開業医→追徴課税の悲劇…儲かっているクリニックほど気をつけたい「税務調査」の注意点【税理士が解説】

調査官の“鋭い質問”にタジタジの50歳開業医→追徴課税の悲劇…儲かっているクリニックほど気をつけたい「税務調査」の注意点【税理士が解説】

※画像はイメージです/PIXTA

クリニックや医療法人は課税所得が高く、税務調査が入りやすい業種といわれています。しかし、開業医のなかには税務調査に対して「他人ごと」「よく分からない」「いざというときに対応すればいい」といった人も少なくありません。そこで今回、税務調査の対象になりやすいクリニックの特徴や、クリニック運営の税務で気をつけるべきポイントについて、事例を交えて詳しくみていきましょう。多賀谷会計事務所の宮路幸人税理士が解説します。

そもそも税務調査とは

税務調査とは、納税者から提出された申告内容が正しいかどうかを確認するために税務署が行う調査のことです。

法人税や所得税などは、納税者が自ら税額を申告し、それにもとづき納税する申告納税制度が採用されています。納税者全員が正しく申告・納付をしていれば問題はありませんが、故意または過失により、正しくない申告も少なくありません。

そのため、申告された内容に誤りがないか確認することを目的として税務調査が行われるわけです。

税務調査の種類

税務調査には大きく分けて「強制捜査」と「任意調査」の2種類があります。まず強制捜査とは、国税庁査察部が行う調査のことで、裁判所の令状をもって強制的に行われます。このため巨額の脱税が疑われる場合などに限り行われることとなります。

一方任意調査とは、税務職員が実施するもので、税務調査の大半がこちらに該当します。一般的には事前に税務署から納税者もしくは顧問税理士あてに電話連絡があり、そこで日程の打ち合わせを行います。都合が悪い場合は日程の変更も可能です。

なお、「任意」とはいっても、拒否したり正当な理由なく帳簿を見せなかったりすると、法律で定められた罰則があるため気をつけましょう。

税務調査の対象になりやすい5つの特徴

税務調査の対象となりやすいケ-スとしては以下の通りです。

① 毎年多額の所得が発生している
② 前期と比較し、売上や経費が大きく増減している
③ 同業他社と比較して利益率が低い(外注費など特定の経費が多い)
④ 業績が急激に伸びている
⑤ 前回、税務調査があった時に多額の申告漏れがあった

一般的には、過去3年分が税務調査の対象となります。顧問税理士がいる場合は、あらかじめ打ち合わせをしておき、税務調査官が疑問に思い質問してきそうな部分について、資料の準備などをしておくとよいでしょう。

申告漏れで税務調査…“自由診療”の割合が高いクリニックは注意

Xクリニックは、眼科医のAさん(50歳)が5年前に開業した眼科クリニックです。駅近というアクセスの良さと丁寧な接客や対応で患者は順調に増えており、収入も伸びていたところ、税務署から税務調査に伺いたいとの連絡がありました。

調査当日、2人の調査官(調査官B、C)がAさんのもとに訪れました。Aさんは最初こそ緊張していたものの、和やかな雑談からはじまったことで、徐々に緊張もほぐれていったそうです。

Aさん「なんだ、意外と大丈夫そうだな」
Aさんが安堵していたところ、調査官から次のような質問がはじまりました。

調査官B「自由診療の割合が少ないのはなぜでしょうか? 他のクリニックと比べても売上と支出のバランスがおかしいように思えるのですが?」

調査官C「学会によく参加されていますが、この飲食費は誰とどんな目的で行かれたのでしょうか?」

調査官B「接待費でゴルフがよく出てきておりますがこれは誰と行かれたのでしょうか?」

調査官C「パート勤務の方がずいぶん多いですね。タイムカ-ドを見せていただけますか?」

調査官B「外注費が多く感じますが、この支払内容の業務はどのようなものなのでしょうか?」

Aさん「え、えーっと、それはですね……」

2人の調査官による息の合ったコンビネーションにタジタジのAさん。結果、自由診療の現金売上の計上漏れを指摘されました。さらに交際費として計上していた友人とのゴルフなどが否認された結果、多額の追徴税を課されることとなったのでした。

保険診療報酬が主な医療法人やクリニックは比較的お金の流れがわかりやすい業種であるため、申告漏れはあまり多くはないといわれています。しかし、自由診療(美容治療、健康診断、予防接種など)は現金で受け取っているケースも多く、お金の流れがわかりにくいため、その分を抜き取り申告しないケ-スが目立ちます。

自由診療の割合が多いクリニックの場合、会計についてダブルチェックの体制にするなど計上漏れがないようにする仕組みが重要です。そうすることで、従業員の会計の不正横領の対策にもなります。

税務調査官がチェックするポイント7選

医療法人やクリニックは、他の業種と比べて課税所得が高いことから、定期的に税務調査が行われる傾向にあります。ではクリニックの税務調査の場合、どのような点に注意したらよいのでしょうか。

① 売上の計上漏れ
自由診療収入を除外した場合は標準的な自由診療割合を参考に、窓口収入の一部抜き取りは給付金から逆算して調査されます。

② 売上の計上時期
クレジットカ-ドで決済する場合、入金時ではなく診療日により収入を計上しなければなりません。また臨時的な収入についても適正に申告をしておきましょう。

③ 在庫の計上漏れ
クリニックの費用項目では、薬品材料仕入の不正が問題となることも多いです。このため架空仕入れ・仕入れの水増しなどがないか、期末在庫は適正額であるかについて厳しくチェックされます。

④ 個人消費・家事消費の按分
個人事業の場合、事業費と家事費の按分が必要となります。水道光熱費・通信費・車両などの使用割合によって按分します。たとえばほとんど事業で使わない高級車を購入し、主に自分がゴルフに行くときのために使用している場合などは、税務調査で指摘されることとなります。

⑤ 交際費や消耗品の使途
交際費や消耗品を個人的な目的で購入していないかチェックされます。特に交際費は「誰と行ったのか? どういう目的で行ったのか?」について答えられるように領収書にメモなどしておくとよいでしょう。

⑥ 外注費の実態
外注費についても税務調査ではよくチェックされるポイントとなります。架空の外注費ではないか、給与として処理すべきではないか、外注費を水増ししていないか、などの観点で調査員は調べます。

⑦ 架空の人件費や青色事業専従者(妻や子などの親族)に対する人件費
人件費についても重点チェック項目です。アルバイトに対する架空人件費はないか、親族に対する青色事業専従者給与の額は、その仕事に対して適正額であるか、過大となっていないかについて調査されます。

税務調査が入っても誠実な対応を

税務調査とはいえ、不正さえしていなければ恐れることはありません。税務調査があった場合、調査員に対しては、誠実に素直に答えることを心がけたほうがよいでしょう。わからないことがあったときはあいまいに答えるより、「後日確認して連絡します」でも大丈夫です。

税務調査が入っても堂々と対応できるよう、こまめに税理士と相談しながら正しい経理処理を行うことを心がけましょう。

著者:
宮路 幸人(編集:株式会社幻冬舎ゴールドオンライン)
多賀谷会計事務所 税理士 CFP
提供:
© Medical LIVES / シャープファイナンス

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