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税金の支払いで閉院の危機も…開業医が“50代“から始めたい「相続税対策」【税理士が解説】

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税金の支払いで閉院の危機も…開業医が“50代“から始めたい「相続税対策」【税理士が解説】

画像はイメージです。

開業医は高収入であることが多く、個人の資産について税金対策が必要なことはもちろん、医院の資産も相続対象となることから、相続対策をしなければ「個人資産+医院資産」に対して巨額の相続税が課せられることになります。
そこで、多賀谷会計事務所の宮路幸人税理士が、開業医が50代から始められる「相続対策」の具体的な方法を解説します。

医師の相続税が高い理由

相続税は、亡くなった方の財産が高額になればなるほど税金も高くなる累進課税の仕組みが採用されています。
医師は一般的なビジネスパーソンに比べて所得が多いため、所有する財産も多く、相続税が高額になる傾向にあります。

しかし、医師の相続税が高い理由はそれだけではありません。開業医であれば、下記の資産も相続税の対象となるのです。

■相続税の対象となる資産
・医院で使っている医療機器、医薬品
・医院の土地と建物
・医療法人の出資持分

医療機器は高額な製品が多く、開業医の相続税が高くなる一因です。また、医療法人の業績が好調である場合など、財産状況次第では、出資持分に対して想像を超える相続税を課せられることもあります。
相続税を考える際に「医療機器や出資持分のことを忘れていた!」という事態にならないよう注意しなければなりません。

相続税の金額が多額になってしまうと、医院の経営に支障をきたす場合や、相続人が相続税を払いきれない場合も考えられます。

「相続なんてまだ先のこと」という考えの方も多いと思いますが、税金対策を計画的に進めるためには、ある程度の時間がかかります。
大切な家族のためにも、医院のためにも、今からしっかり準備しておくことが大切です。

相続税対策…なにもしなかった場合

税金対策をせずに相続が発生した場合、どうなるか……たとえば、子のうち1人を医院の後継者と決めていたとします。

医院の土地・建物や医療機器、医療法人の出資持分などは、後継者となる子が相続するでしょう。そうすると、後継者には多額の相続税がかかります。

相続税は原則として金銭で納めなければなりませんが、医院の土地・建物や医療機器などは医院を続けていくために必要不可欠な財産であることから、換金するわけにはいきません。

したがって、後継者のために相続税の非課税枠などを考慮し、生前に保険などに加入しておく、もしくは、後継者はさらに預貯金など別の財産を相続して納税にあてるなど、自分の財産から納税資金を準備しなければなりません。

また、医院の後継者が多額の財産を相続した場合、他の相続人は不満を感じるかもしれません。医院の土地・建物を他の相続人に引き継がせ、医院の後継者が家賃を払うようにすれば財産額のバランスはとれますが、医院経営の収支が悪化する可能性があります。

さらに、他の相続人が医院の土地を一部売却したい意向をもった場合など、トラブルの火種になることもあるため、後継者以外の相続人にも一定の財産を相続させるといった配慮が必要です。

対策の前に…まずは「相続の全体像」をイメ-ジ

開業医にとって相続税対策は必須ですが、税金のことだけ考えていてはうまくいきません。
誰を後継者にし、誰にどの財産を継がせるかなど相続全体のイメージをしっかり作らないと思わぬトラブルになることがあります。

後継者を誰にするか

開業医であれば、自身の医院は子や親族に継いでほしいと考える人が多いでしょう。しかし、重要なポイントとして、後継者候補の意向も確認しておく必要があります。

自身と後継者候補で専門分野が異なる場合や後継者候補が勤務医を続けたいと考えている場合、後継者候補が別の地域で活躍しており、医院を継ぐことに難色を示す場合など、さまざまなケースが考えられます。

他の相続人も含めて、家族全員でしっかり話し合いの機会を持つことが大切です。

後継者以外の相続人への配慮

医院の世代交代を考えるとき、誰を後継者にするかということに重きを置きがちです。しかし、後継者以外の相続人に対する配慮もおろそかにしてはいけません。

相続人には、法律上自分のものとして主張できる財産の割合があり、これを遺留分といいます。子が相続人となる場合、遺留分は子の法定相続分の2分の1です。2019年7月1日以降に被相続人が亡くなった場合、遺留分が請求されれば原則として後継者が遺留分に相当する金銭を支払う必要があります。家族間でトラブルにならないよう、十分配慮しなくてはなりません。

生前にできる具体的な「相続税対策」

巨額の相続税がかかれば相続人の負担になるだけでなく、医院の経営に悪影響を与えるおそれもあります。それでは相続税の支払いを抑えるにはどうすればよいでしょうか。節税に活用できる税制をご紹介します。

生前贈与と相続時精算課税

まず、贈与税は、1月1日から12月31日までにもらった財産額が合計110万円以下なら課税されないため、110万円以下の贈与である場合、贈与税の負担なしに贈与することができます。

ただし、贈与者が贈与されたことを知らない、通帳の管理を親が行っている、などの場合は、税務署が贈与を否認することとなります。否認されることを避けるには実質的に贈与を受けたという証拠が残るよう親子間で贈与契約書を作り、金銭は銀行振り込みで渡す方法がよいでしょう。

また、たとえば「10年間で1,100万円を贈与する約束を結んだ」とみなされてしまうと毎年110万円ずつ贈与しても贈与税がかかります。贈与額や贈与時期を毎年変えるなど工夫しましょう。

次に、相続時精算課税は、合計2,500万円まで非課税で贈与できるようにする制度です。相続時精算課税を選択すると、贈与時の価格をもとに、相続の時点で相続税が課税されるため、課税時期を遅らせているだけともいえますが、権利を確定させるという意味においては有効となります。

なお、贈与の後、相続の時点までに土地などの時価が上昇した場合、相続税は減少し、節税効果があります。しかし、時価が下落した場合は逆となります。

相続時精算課税制度のデメリットはほかにもあり、一度相続時精算課税を選択すると110万円の非課税枠を使えなくなるほか、相続時精算課税制度を利用して贈与を受けた土地は相続税の節税となる「小規模宅地等の特例」を利用できません。税理士に相談のうえ、慎重に判断してください。

個人版事業承継税制

個人事業の世代交代をスムーズに進められるよう、2019年から2028年の措置として個人版事業承継税制が規定されました。個人版事業承継税制は一定の条件を満たせば世代交代に伴う贈与税・相続税の支払いが猶予または免除される制度です。

相続税の納税猶予の適用を受けるためには、下記の要件を満たすことが必要です。

■納税猶予の適用条件

・先代の事業者が青色申告を行っていること
・後継者の方が事業を引き継ぐ計画を書いた「個人事業承継計画」を作り、2024年3月31日までに都道府県知事の確認を受けること
・先代の事業者が亡くなった後に後継者の方が「円滑化法の認定」を受けること
・事業承継後、後継者の方が青色申告の承認を受けること
・相続税を申告し担保を提供すること

これらの要件を満たすことで、相続税の納付が猶予されます。さらに、事業を継続し3年ごとに継続届出書を提出すれば納付猶予が継続されるほか、後継者が亡くなるなど一定の事情があれば申請により相続税が全部または一部免除されます。

ただし、個人版事業承継税制にはデメリットもあります。デメリットとしては、事業を廃止した場合などに納税の必要が生じる点、小規模宅地等の特例の適用が制限される点などがあります。

最終的にメリットを最大化するために、どの制度を利用するかは医院によって異なります。制度の利用を検討している人は、一度税理士など専門家へのご相談をおすすめします。

医療法人の相続税対策

医院を経営するにあたって持分のある医療法人を設立している人は、医療法人についても検討しなければなりません。

持分のある医療法人は出資者が医療法人に対し出資の払い戻しを請求できるため、財産的価値があるものとみなされて相続税がかかります。業績が好調な医療法人ほど相続税が高くなって悩みの種になることもあります。

医療法人の相続税については、特例措置が設けられています。これは、医療法人について国の認定を受け、担保を提供するなどの要件を満たせば相続税の納付が猶予される措置です。さらに、医療法人の出資持分をすべて放棄するなどの条件を満たすと相続税の納付が全部または一部免除されます。

相続税に悩む人にとって、この特例措置は大きな魅力ですが、デメリットもあります。出資持分を放棄すると、医療法人を解散したり譲渡したりする際に持分に相当する金銭を回収できなくなり、残った財産は国や地方公共団体などのものになってしまいます。

相続税の猶予・免除というメリットと、持分を放棄するデメリットを慎重に検討する必要があります。

開業医は、相続税の対策を検討しておかないと、いざというときに大きな税負担がのしかかる可能性があります。その際、節税のことだけではなく医院の世代交代を全体としてどう進めていくか、家族や専門家と十分に相談することでトラブルを回避できるのです。

大切な医院を次の世代にスムーズに受け渡すため、今からしっかり取り組んでいきましょう。

著者:
株式会社幻冬舎ゴールドオンライン
提供:
© Medical LIVES / シャープファイナンス

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