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「早めの相続対策」のはずが…売却のタイミングで発覚した「負動産」の本当の価値【FPが解説】

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「早めの相続対策」のはずが…売却のタイミングで発覚した「負動産」の本当の価値【FPが解説】

画像はイメージです。

2015年に相続税の基礎控除が改正されたことをきっかけに、「相続セミナー」が盛んに開催されるようになりました。ところが、こういったセミナーをきっかけによくわからないまま不動産投資をはじめた結果、相続対策に失敗してしまう人も少なくないと、株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役の山中伸枝CFPはいいます。今回は、58歳眼科医のAさんの事例から、本当に大切な相続対策の考え方についてみていきましょう。

相続対策への焦りから知り合いに誘われセミナーへ

Aさんは58歳の開業医です。商業施設が立ち並ぶ駅からそれほど遠くないところに眼科医院を構えています。奥様は56歳、専業主婦です。30歳の息子さんと25歳の娘さんはそれぞれ会社員で、娘さんだけが同居しています。

傍目から見るとなんの問題もなく過ごされているようなAさんですが、実は相続対策で大失敗をしてしまったと嘆いています。ことの発端は7年前、知り合いに誘われて出向いたセミナーをきっかけに不動産投資に手を出してしまったことでした。

ちょうどその頃、Aさんは実父の相続で苦労されており、「相続対策」という言葉にとても敏感になっていました。母親はずいぶん前に亡くなっていましたが、同じ県内に住む父親が認知症になってからは近くに住む姉がいろいろと世話を焼いていたそうです。

実父が遺した財産は、持ち家とわずかな預金だけでした。相続人は姉と2人だし、遺産分けも簡単に終わるだろうと思っていましたが、父親の介護を姉任せにしたと責められ、築50年の実家を「姉から押しつけられた」うえに、代償分割として1,500万円を支払うことになってしまいました。Aさんに聞くと、実家は今でも空き家のままで、頭痛のタネだそうです。

そこでAさんは、ご自身の相続は家族が困らないよう早めに対策しようと決心していました。長男にはいずれ同居をしてもらおう、長女には不動産を持たせよう、不動産なら資産価値を圧縮することができるし、家賃収入があれば嫁いだ後も不自由なくお金が使えるだろう……との目論見でした。

1億円フルローンで夢の「不労所得」のはずが…コロナ禍で一転

そう考えてから、話は急ピッチで進みます。セミナーを主催していた不動産会社に依頼し、勧められた土地を買い、アパートを建て、めでたく不動産オーナーとなりました。仕事が忙しいからと、管理運営はサブリースを選択。そして、不動産投資に係る資金およそ1億円はフルローンとしました。

念願叶ったAさんは、しばらく夢の「不労所得」が生まれ、普段よりも贅沢をすることが増えました。管理会社からの定期報告は、すべて理解できていたワケではありませんでしたが、おおむね良好なのだろうと感じていました。一定の家賃収入があるため、変動金利で調達したローンの返済も滞りなく行われ、特に収支を精査することもなく過ごしました。

しかし、コロナで医院の経営が一転しました。院内の感染対策はもちろんオンライン診療の整備にもお金がかかりました。

また家族関係にも変化が生じています。長男が結婚した際に、同居をして欲しいと強く伝えたところ、「1人で勝手に決めるな」と反発され一気に関係がギクシャクし出しました。昨年初孫が産まれましたが、未だに顔を見ることがかなわず、息子さん夫婦との関係は悪化する一方だそうです。

売却のタイミングで発覚した「負動産」の本当の価値

これらの要因が重なったことから、Aさんは不動産投資をやめて医院に投資をしようと考えました。長男が跡を継ぐ夢が消滅した今、いずれは売却も視野に行動したほうが、総合的にメリットがあると判断されたのです。

そこで、不動産会社に売却の気持ちを伝えたところ、思わぬ事実が判明しました。まず、売却見込み額が購入価格のおよそ半分と、大きく下落していたのです。新築は人が入った瞬間に価値が下がります。Aさんがこのことを知らなかったとはいえ、勉強不足は否めません。

サブリース会社に丸投げだったためでしょうか、おしゃれな外観や部屋の仕様にこだわったアパートはそのエリアのニーズにあわず、空室も多かったそうです。もちろん、こだわり物件は退去時のメンテナンスも高い費用がかかります。そもそも収益を生んでいない「負動産」に無駄な金利を払っていたことが顕在化したのです。

「相続」税の対策だけでなく「争族」対策も重要

「早めの相続対策」のはずが…売却のタイミングで発覚した「負動産」の本当の価値【FPが解説】

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2015年に相続税の基礎控除が改正されたことをきっかけに「相続セミナー」はとても盛んになりました。改正前は基礎控除が、5,000万円+1,000万円×法定相続人の数で計算されていましたが、改正後は3,000万円+600万円×法定相続人の数となりました。Aさんのケースでは、3,200万円も控除が減るため、不安になるのも分かります。最近は生前贈与加算が3年から7年に引き上げられることに警鐘をならすセミナーが増えているようです。

相続対策には、「相続税」の支払における対策と「争族」対策の二種類があります。

相続税は相続が発生してから10ヵ月以内に現金で納付しなければならないため、納税資金を確保するために財産の流動性を高める「相続税対策」は重要です。また不動産投資は、資産の圧縮に有効ですので支払うべき税金を下げることになります。一方、不動産は流動性が低いためその後の資金ニーズに対応しにくいというデメリットがあります。Aさんの場合、相続対策に取り組むあまり、今後のご自身の資金用途を考えずに不動産投資に飛びついてしまったことが大きな誤算でした。

また今回の場合、独りよがりな相続対策がかえって「争族」の火種を作ってしまったとも言えそうです。実際、先走った相続対策で家族の不和を引き起こしてしまう例はAさんだけではありません。家族みんなが円満で過ごすことのほうが、よっぽど「争族」の対策として有効であることを知るべきでしょう。

Aさんは、不動産を精算するため想定外の支出に甘んじることになりました。また息子さんとの関係は反省し、お孫さんへの教育資金援助等も含めて「家族との幸せな暮らし」にお金を使っていくことにしたそうです。

税理士にシミュレーションを依頼し、備えるべき納税資金については保険も活用しながら確保しつつ、これからの暮らしを楽しむため、また健康を維持するためにお金を使っていくのだとおっしゃっています。

著者:
山中 伸枝
株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役
(編集:株式会社 幻冬舎ゴールドオンライン)
提供:
© Medical LIVES / シャープファイナンス

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