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【弁護士が解説】開業医が遭遇しやすい「相続トラブル」〈前編〉

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【弁護士が解説】開業医が遭遇しやすい「相続トラブル」〈前編〉

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年々増え続ける相続トラブル。特に「開業医」の場合、いくつかの理由で一般的な相続よりもトラブルに発展しやすいと、山村法律事務所の山村暢彦代表弁護士はいいます。その理由とは、詳しくみていきましょう。

開業医の相続トラブルと課題

日本では預貯金・不動産の相続を巡ってトラブルが頻発しています。開業医の場合、ここに加えて「医療設備」や「医療法人」そのものの相続が非常に問題になりやすいという特徴があります。

その理由としては、開業医の相続は一般的な相続問題だけでなく「事業承継」の要素を多く含むためです。

その上、「医療法人」は、株式会社と異なり特殊な法人であるほか、医療設備・機器等は高額な設備も多く、その相続は、一般的な「相続・事業承継」の枠を超えて難しい要素が含まれています。

そこで、以下では開業医が遭遇しやすい相続トラブルと課題について、具体的に解説していきます。

「クリニックの事業承継」は並大抵の覚悟では務まらない

今回は、開業医の相続問題ですが、一般的な事業承継トラブルと大きく変わりありません。すなわち、預貯金、不動産に加え、会社運営の権利および負債をどう承継していくかを考える必要があるという点です。

「会社の経営権、社長になる権利」なんていえば、非常によさそうなものに聞こえます。しかし、中小企業の運営には裏返しに「借金」もついて回ることが一般的です。また、後継者が事業を継続していくには並大抵の苦労ではうまくいきません。

そのため、この「クリニックを継ぐ権利」というのは、はたからみると魅力的なものに見えますが、経済的に評価した場合、一概に諸手を挙げて喜べる事象とは限らないのです。

「医療法人」の特殊性がもたらすリスク

たとえば弁護士法人は、弁護士でなければ社員という構成員になることができないのですが、医療法人は、医師免許を保有していない方でも構成員になることができる、という違いがあります。

クリニックの規模によっても変わってくるのですが、比較的小規模なクリニックであれば、やはり医師免許を有している人が後を継ぐべきだという考えに結び付きやすいです。

しかし、医師免許を保有していなくとも構成員になれることから、医師免許を保有していない人も構成員に入りたいなどの希望があり、親族間の不公平にならないように、親族で共同経営のような形をとった結果、意見が割れて事業がうまくいかなくなってしまったというようなケースもあります。

親族間での関係性を崩したくないあまり、クリニックの経営が破綻してしまう……これでは故人も浮かばれません。

避けては通れない「ライセンス問題」

医療法人の場合には、基本的に、「代表理事は原則として医師免許の所有者でないといけない」ものの、構成員には医師免許所有者以外でもなれるという決まりになっているのですが、この「ライセンス問題」が絡むことにより、相続・事業承継のハードルが一気に上がります。

たとえば歯科クリニックの開業医が「高齢なので、そろそろ跡継ぎを決めたい」というなか、歯科技工士の免許を持ちクリニックを手伝っていた長男と、歯科免許は有しているが、大学病院勤務の次男がいたとします。

長男は歯科医師免許を有していないものの、歯科技工師の免許は持っており、クリニックも手伝っていたので、実務・経営は詳しい。一方、次男は、歯科医師免許を有しているものの、大学病院で研究ばかりやっていて実務に疎い。

このような状況の場合、歯科免許を有している次男を代表理事にすえて、実務を歯科技工士の長男が仕切っていくという方法が現実的です。ライセンスの関係を考えると、一見おさまりのよい結論にみえます。しかし、親族間で仲良く経営していくことができるのでしょうか。また次男は「クリニックの運営よりも研究に集中したいのに」といった、本来やりたかったこととが満足にできなることによる不満など、さまざまな問題が噴出してきます。

開業医こそ「早めの準備」が必須

開業医の相続問題は、どうしても事業承継の要素に加えて、医師のライセンス問題が絡んできます。

そのため、解決法というわけではないのですが、子どもの時分から将来を意識して、医師免許の取得に進んでいくのか、興味がないのでまったく別の道にいくのかということを考えて進路選択していく他ないのかと思います。

また、このような問題が増加しているため、近年では、親族内でクリニックを承継させるというよりも、大規模医療法人がM&Aによって比較的小規模なクリニックを承継するという流れも加速しています。

開業医の親族内承継は、ライセンスが絡み、そのため子どもが学生のときから進路選択を考えておかねばならない難しさがあるため、運がよければ親族内承継、基本的にはM&Aで事業を終える、という方向に進んでいくのではないでしょうか。

著者:
山村 暢彦
弁護士法人 山村法律事務所
代表弁護士

実家の不動産・相続トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力する。日々業務に励む中で「法律トラブルは、悪くなっても気づかない」という想いが強くなり、昨今では、FMラジオ出演、セミナー講師等にも力を入れ、不動産・相続トラブルを減らすため、情報発信も積極的に行っている。

数年前より「不動産に強い」との評判から、「不動産相続」業務が急増している。税理士・司法書士等の他士業や不動産会社から、複雑な相続業務の依頼が多い。遺産分割調停・審判に加え、遺言書無効確認訴訟、遺産確認の訴え、財産使い込みの不当利得返還請求訴訟など、相続関連の特殊訴訟の対応件数も豊富。

相続開始直後や、事前の相続対策の相談も増えており、「できる限り揉めずに、早期に解決する」ことを信条とする。また、相続税に強い税理士、民事信託に強い司法書士、裁判所鑑定をこなす不動産鑑定士等の専門家とも連携し、弁護士の枠内だけにとどまらない解決策、予防策を提案できる。

クライアントからは「相談しやすい」「いい意味で、弁護士らしくない」とのコメントが多い。不動産・相続関連のトラブルについて、解決策を自分ごとのように提案できることが何よりの喜び。

現在は、弁護士法人化し、所属弁護士数が3名となり、事務所総数6名体制。不動産・建設・相続・事業承継と分野ごとに専門担当弁護士を育成し、より不動産・相続関連分野の特化型事務所へ。2020年4月の独立開業後、1年で法人化、2年で弁護士数3名へと、その成長速度から、関連士業へと向けた士業事務所経営セミナーなどの対応経験もあり。
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