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医療機関で働く人にとってときにやっかいなのが、患者さまからの「クレーム」です。的を射ていて、こちらが反省し改善すべき事案も多いものの、なかには高圧的に謝罪を強制されたり、無理なお願いをされたりと理不尽なものも少なくありません。
特に医療機関は「クレームが入りやすい業種」であると、医療機関のコンサルティングに詳しい船井総合研究所の川本浩史氏はいいます。では、クレームが入った際、どのように対処すべきなのか見ていきましょう。
医療機関におけるクレームは増加傾向!?
近年、医療機関における患者さまからのクレームは増加傾向にあるといわれています。コロナ禍を経てさまざまな「便利なサービス」が登場したことや、SNSの利用時間が増え自分の気持ちを発信することに慣れた影響もあってか、いままで「医療機関だから仕方ない」と我慢していたことでも、積極的に声を上げるようになってきました。
つまり患者さまにとって、医療機関はだんだんと「医療を享受する特別な場所」から、「その他にも代替可能な“サービス業”」へ意識が転換してきている、といえます。
クレームが発生しやすい医療機関
医療機関では、医師による医療行為や院内の環境・仕組み、受付での対応などさまざまな要因からクレームが発生します。しかし、クレームが発生する“心理”として共通しているのは、ユーザーの「期待値からのギャップ」です。
医療機関は、他のサービス業と比較しても期待値が高い業種です。「つらい」、「痛い」、といった負の感情を抱え、心身に不具合のある状態で来院された方にとって、医療機関というのはそれがよくなる(治る)のが当たり前の場所です。つまり、それが「期待値の基準」となっているため、ちょっとでも悪い体験をすると“期待外れ”となり、クレームへとつながってしまいます。
また前述のとおり、コロナ禍を経て「便利なサービス」に慣れた患者さまは、医療機関にも他のサービス業と同等のサービス水準を求める時代になってきています。
クレーム対応に悩んだ際には、まずはこのような業種の特徴や患者さまがクレームを訴える心理、そして時代背景の変化を、院長とスタッフ全員で共通理解として持っておくことが大切です。
「謝罪の仕方」が明暗を分ける【理想のクレーム対応5ステップ】
それではここから、クレームが発生してしまった際の具体的な対処のしかたについてみていきましょう。
【Step1】まずは真摯に受け止め、謝罪をする
クレームに対処する際には、「初期対応」がその後の明暗を分けるといっても過言ではありません。クレーム対応において“炎上”しやすいのも、この初期対応になんらかのミスがあった場合が多いです。
ここでのポイントは、「事実関係はいったん差し置く」ということです。たとえば医療ミスを訴えられた場合、明らかに医療機関側のミスであることが明確にならない限り、焦って指摘内容をすべて認めてしまうのは逆効果です。
二次的なトラブルを避けるためにも、あくまで「相手を不快にさせてしまった」ことに対して真摯に受け止め、謝罪をするのが重要です。
【Step2】事実確認を行う
続いて、冷静に事実確認を行います。クレームを訴える際に感情的になっている方もいらっしゃいますが、ここでは患者さまの訴えを傾聴し、「感情」と「事実」を分けて整理することがポイントです。感情に対しては傾聴の姿勢で受け止めながらも、発生した事実を冷静に見定めましょう。
「5W1H(when:いつ、where:どこで、who:誰が、what:なにを、why:なぜ、how:どのように)」に沿って話を聞くと、簡潔に整理できます。さらに、「真摯に聞いている」ことを理解していただくためにも、メモをしっかり取りながら聞くようにしましょう。
【Step3】今後の対応について説明する
事実関係の整理ができたら、自院がとるべき対応について説明を行います。ここでは権限を持った責任者、なるべく院長が対応することが望ましいです。
今後の対応を説明する際のポイントは、【Step2】と同様に「5W1H」を明確にすることです。またなるべく具体的な数字を出し(例:「今週中」や「なるべく早く」ではなく、「今週金曜日の15時まで」など)、解釈の違いが生じないようにすることも重要です。
【Step4】再度謝罪を行い、感謝を伝える
【Step3】で患者さまの理解を得られたら、再度「不快にさせてしまったこと」に対して謝罪を行うとともに、そのうえで気づき・改善の機会をいただいたことに、感謝の意を伝えましょう。
クレームを訴えた人はまさか感謝をされるとは思っていませんので、ここで感謝を伝えられることで「改善意欲のあるいい医療機関だな」「言いづらかったけど、言ってよかった」とプラスの感情に変わり、また当院へ足を運んでくれる可能性が高まります。
【Step5】クレームを個人の問題にせず、組織内での学びとして共有する
クレームを訴えたご本人への対応が終わったら、組織内での学びとして共有するといいでしょう。これは直接的なクレーム対応ではありませんが、同じ失敗を繰り返さないためにも非常に大切なポイントです。
なぜクレームが発生してしまったのか、起こしてしまった「個人」ではなく「事象」に着目し、誰もが失敗を起こし得るという前提のもとに改善策を立て、共有することで、よりよい医療機関へと成長する貴重な機会となるのです。
クレーム対応は組織的な方針策定をしよう
本来であれば、医療機関内で起こるすべての事象は責任者である院長が対応すべきことですが、当然ながらすべてのクレームを院長1人が対応することは不可能です。また、矢面に立つことの多い受付スタッフなどは、マニュアルがないとクレームが入るたびに大きな負担がかかってしまいます。
そこで、院内で「クレーム対応」に関わるルールや方針をあらかじめ定めておき、スタッフからの理解と協力を得られるようにしておくことをおすすめします。
前述のとおり、一連のクレーム対応は医療機関全体の成長にもつながる非常に重要な機会です。上手なクレーム対応で評判を上げ、医療機関がますます発展することを願います。
- 著者:
川本 浩史(かわもと・ひろし)
大手製薬・医療機器メーカーのMRを経て、船井総合研究所に入社。
入社後は、循環器・呼吸器・糖尿病内科診療所を中心にコンサルティング業務にあたっている。
前職では大学病院での消化器手術から療養病棟の輸液・栄養管理に至るまでそれぞれの臨床現場に入り込み、医療従事者とともに『よりよい医療の提供』を実現するために邁進してきた。臨床に近い現場で医師と対話を重ねてきた前職の経験を活かし、机上の空論とならず臨床現場に即したエビデンスのある実行策を提案している。
(編集:株式会社幻冬舎ゴールドオンライン)
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