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不妊治療のスペシャリストを描く、医療漫画「胚培養士ミズイロ」って?

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不妊治療のスペシャリストを描く、医療漫画「胚培養士ミズイロ」って?

『胚培養士ミズイロ』(Ⓒおかざき真里/小学館)

近年、晩婚化や少子化、高齢出産など、不妊に悩む方が増えています。2022年4月頃からは人工授精などの「一般不妊治療」や、体外受精・顕微授精などの「生殖補助医療」が保険適用になり、年々治療法などの手段や選択肢も増えてきています。
そうした中で、注目を集めているのが、不妊治療のスペシャリスト「胚培養士(はいばいようし)」。
胚培養士である主人公にスポットライトを当てた医療漫画『胚培養士ミズイロ』(Ⓒおかざき真里/小学館)は、不妊治療の経験者や専門施設などへの入念な取材をもとに現代における不妊治療の現状や課題など、日々患者さんと向き合う中での葛藤や苦悩を描いている作品です。青年誌への連載ということもあり、なんと全体の約25%が男性読者! 医療関係者の方々にも高い支持を得ている本作ですが、このたび待望の4巻が、1月30日(火)に発売。本作の魅力に迫っていきます。

「胚培養士ミズイロ」とは

主人公の水沢歩(みずさわ あゆむ)は、勤務先のアースクリニックで働く、熱い想いを秘めた胚培養士。技術力によってはときに結果を左右する不妊治療の心臓部を任され、顕微鏡を通して、一つ一つ丁寧に受精卵と向き合う日々を送ります。

歩のもとには、年齢や状況も違うあらゆる事情を抱えた患者たちが次々とやってきます。さまざまな状況や悩みを抱える夫婦たちの根底にある「我が子が欲しい」いう純粋な想いに、主人公は寄り添います。

胚培養士は人の命の源を扱う職業。しかし決して成功率は高くはなく、時には悲しみに直面する場面も・・。それでも乗り越えた先にある、奇跡のような生命の誕生に携わる喜びと達成感に、胚培養士だけでなく、医師、看護師、受付スタッフが一丸となり、思わずみんなでガッツポーズをすることも!


Ⓒおかざき真里/小学館

陽性反応がでたときは、携わったすべての人が喜んでいる。これこそが胚培養士の仕事のやりがいでもあり、大変でもやめられないところです。

また、これまでは産婦人科医や、妊娠・出産を経験する当事者(どちらかといえば女性サイド)にスポットが当たることが多く、なかなか胚培養士という視点から描かれた作品はありませんでした。ほぼ0gの細胞から3000gの赤ちゃんを導く、「小さな命が誕生する奇跡」を学べる医療漫画となっています。

訪れるさまざまな患者たち。意外に多い男性不妊

(Ⓒおかざき真里/小学館)

「不妊の原因のほぼ半数(※)は男性側にもある。(1巻より)」といいます。
(※出典:1998年WHOより)

ここで出てくるのは、妻にクリニックに連れられ、渋々採精したところ100人にひとりの確率とされる無精子症である可能性を告げられた夫。「まさか自分が?」と現実を素直に受けられない夫は、追加検査も断る始末で夫婦の話し合いもままなりません。


(Ⓒおかざき真里/小学館)

そうしたなかで、ふと目にした妻のある言葉、胚培養士である主人公・歩からの言葉に背中を押され、夫婦は前向きに不妊治療に取り組むように。

治療中の夫婦は揺れる想いをぶつけあいながらも、最終的には同じ方向を見ながら歩み寄ることが多く、治療を通して距離が遠ざかってしまうケースはごくわずか。むしろ実際には仲が深まるケースがほとんどです。それゆえに夫婦間の話し合いが大事だと再認識するシーンが多いことでしょう。

また実際に女性サイドがどのような治療をしているのか?漠然と知っていても「どれくらい痛い思いをしているのか」「どのような流れでどんな態勢で治療を受けているか」など、詳しくは知らない方も実は多いのでは。本作を通じて、これまで見えなかった部分を理解を深めるきっかけにもなりそうです。

その他にも、不妊とキャリアの狭間で揺れる女優の話、若くて健康的な男性が不妊検査で無精子症と診断されてしまう話、ガンを患う女子高生が科学療法治療前に卵子凍結を決意する話・・など様々な背景(年代)での、不妊治療のあるあるが詰まっており、作中の患者たちにどこかで自身を重ねてしまう部分もあるのではないでしょうか。

そもそも胚培養士はどうやったらなれる?

大学で農学部、理学部、医学部、生物工学系の学部で発生学や生殖学を専攻している学生が医療機関に就職し、訓練を経てからなるケースがほとんど。「日本卵子学会」と「日本臨床エンブリオロジスト協会」の2つの学会よる認定試験がありますが、知識や技術の水準を維持向上させるために導入されたものです。国家資格ではなく、 医者でもないため診断的なことは言えません。

向いている人。適性とは


(Ⓒおかざき真里/小学館)

肉眼では見えないような細胞を相手にするため、産婦人科領域の高度な知識が必要。「海の中たった1匹の魚を探す探偵船のような(1巻より)」作業は、レンズを注視する緊張感が続いて、疲弊してしまうことも。細かく繊細な作業を続けていても、徒労に終わることもあるため、それを厭わず努力出来る人に適性があります。


(Ⓒおかざき真里/小学館)

「不妊治療中、揺れないひとはいない。(1巻より)」と、作中のシーンでも出てきますが、周囲の人々と比べてしまい焦ってしまったり、たくさんのお金と時間を費やしたところで、結果的に希望が叶わないことも。

治療中の患者たちの心は揺れやすく、傷つきやすいもの。そんな患者さんの気持ちに寄り添える人、業務の性質上しっかりとした倫理観・責任感が求められます。「患者さんに少しの希望は渡してあげたいと思う。希望が見えない不妊治療はしんどいものだから。(1巻より)」 治療を続ける患者たちに寄り添う、彼女たちの言葉は、読者にとっても刺さるものがあります。

未来に繋げる仕事としての不妊治療


(Ⓒおかざき真里/小学館)

主人公・歩が生殖に関して高校で授業をする1コマ。少子化であることから、若いうちに人生設計として生殖について講義をするものの、それを覆すような力強い言葉を放ちます。実際に少子化対策という社会問題もありますが、決して社会からの圧力ではなく「切実に子どもが欲しいと思っている人のためにこれらの治療がある」ということをこのシーンを通じて、今一度思い知らされます。

また、卵子凍結をする友人を例に挙げて、今は不可能かもしれないが、数年後は実を結ぶかもしれない・・といった、未来へつなぐ手段として不妊治療への明るい希望を見出す象徴的なシーンでもあります。

いかがでしたでしょうか。

夫婦5、6組にひと組が不妊治療を受けている今、不妊治療はだれもが当事者になる可能性があります。 これから考えている新婚の方や、すでに出産を終えている方、いままさに治療中の方、その一方で不妊治療に悩む夫婦のご両親・・など、幅広い世代の方々に様々な視点から楽しめる作品となっています。

この連載中にも不妊治療の技術は革新していき、子どもを持つ・持たないという選択肢だけでなく、今後はさらなる選択肢が増えているのではないでしょうか。そんな患者たちの切実な願いをかなえるために仕事に生きていく、胚培養士たちが奮闘する姿に注目してみてはいかがでしょうか。

著者:
シャープファイナンス株式会社 医療マーケット企画部 Medical LIVES事業室
提供:
© Medical LIVES / シャープファイナンス

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