現在日本では、中小企業を中心とした後継者不足が顕在化しています。もちろん医療業界も例外ではなく診療所…

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クリニックを経営していると、知らず知らずのうちにたくさんの法的問題への対応が必要となります。今回は、スタッフの退職時に生じる法的トラブルについて、事例ごとにどのように対応するべきか見ていきましょう。
事例1「明日辞めます」
「就業規則には「退職する場合は1カ月前に告知する」と書いています。にもかかわらず、突然『明日から来ません』と言われても…損害賠償を請求できませんか?」というご相談が増えてきています。
また、退職代行会社から突然書面が届いたというような事例もあります。
引き継ぎもせずに、シフトにも穴を空けられ、損害賠償を請求したい気持ちはとてもよく理解できます。法律的にも損害賠償を請求することはできます。
しかしながら、日本の裁判実務上、認められる損害額はとても少なく、費用倒れになる事案がほとんどです。
残念ながら、このような場合は、「常識のない人間が辞めてくれてクリニックにとっても良かった」と発想を転換していただいて、当該スタッフへの責任追及には拘らない方が良いと考えます。
ただし、他のスタッフへの悪影響を排除するため、場合によっては費用対効果を無視してでも責任追及を考えるべき場合もあります。
事例2「ホームページから写真を削除してください」
スタッフの写真やコメントをホームページに載せておられるクリニックも多いと思います。
「退職するスタッフから『退職するのでホームページの私の写真は消してください』と要求されました。ホームページは作ったばかりなのですが費用をかけて修正しなければならないですか?」というご相談がありました。
このようなトラブルを防ぐため、入社時や在職時に「ホームページやSNSに写真を載せることがあること、退職後も一定期間は写真が残る可能性があること」への同意を書面で取っておくことが必要です。
また、このような同意がある場合でも、具体的な削除の要求があった場合には、合理的期間経過後には削除した方が良いでしょう。
肖像権や個人情報に関する意識は、年々高まっておりますので、時代の変化に即した対応が必要となります。
事例3「研修費用は返しません」
「クリニックから費用を出してあげてスキルアップさせたのに、研修後すぐに退職するのであれば研修費用は返して欲しい。研修費用を返還する旨の書面ももらっています。」このようなご相談も多く受けます。
退職のペナルティを約束することは、労働基準法に違反する可能性があります。研修費の返還については多くの判例があり、研修費の返還ルールが有効になるための条件がある程度、決まっています。
今からできる対策としては、判例を基に、後日争いになった場合にも有効と認められる返還合意書を作成することとなります。なお、研修費の返還債務と最後の給料を相殺することは出来ませんので、ご留意ください。
身近に潜む法的トラブル
今までであれば、信頼関係・人間関係で解決できていたことが、近年、思わぬ法的紛争に発展してしまうことがあります。万一の事態に備えた事前の準備がより重要になっています。
トラブルが起きてから慌てて弁護士に相談するのではなく、いつでも電話で気軽に相談できる顧問弁護士の活用をお勧めします。
- 著者:
北浜中央法律事務所/弁護士 田淵慎哉
クリニック専門の顧問弁護士として、クリニックの経営上生じる法律問題に多くのノウハウと実績を持っています。
- 提供:
- © Medical LIVES / シャープファイナンス
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