全国の開業医のうち、70歳以上の先生は全体の22%超を占め、今後も開業医の高齢化はより一層進むと考え…
※画像はイメージです/PIXTA
子どもの具合が悪くなったとき、親としては一刻も早く病院へ行って診療を受け、安心したいと思うものです。しかし、子どもを心配するがあまり、昨今医師などに対して理不尽なクレームをぶつける「モンスターペイシェント」化してしまう人がいると、高座渋谷つばさクリニック院長の武井智昭氏はいいます。今回、筆者が以前勤務していた職場で実際に起こった事例を紹介します。
夜間に現れた「モンスターペイシェント」
関東地方のとある総合病院では、夜間帯に小児を受診した場合「初期対応は全科を対応する当直医師が行い、入院を要するなど専門的な治療が必要な場合には、当番の小児科担当医を呼び出す(オンコール)」という診療ルールで運用を行っています。
時刻は、19時50分…
救急隊から「3歳女児Aが38.0度の発熱を主訴に救急搬送される」と連絡がありました。
救急隊からの情報では意識は良好で顔色もよく、呼吸状態なども安定しているとのことで、この日の当直医であった呼吸器内科医Bは「ああ、それなら大丈夫そうだ。とりあえず診療を行ったあと、明日小児科一般外来に改めて来るようお願いすればいいか。」と考えました。
救急車が病院に到着するやいなや、女児AとAの母親がひどく心配した様子で救急車を降りてきました。B医師が「ああ、お熱ですね。いまは元気そうでよかった。なにかのウイルスによる風邪と思われるので、解熱剤を出しておきますね」と話したところ、母親は開口一番こう言います。
「あなたは小児科じゃないでしょう。」
「名札を見れば……呼吸器内科じゃない。」
「小児科専門医じゃないくせになにがわかるの!」
「万が一うちの子になにかあったら訴えますからね!!」
母親は興奮した様子で、
「いますぐ小児科医を出してちょうだい。」
「それか、絶対に治る最大限の薬をちょうだい!」
と訴えます。
B医師がお子さんの病状は軽症であること、薬局は院内薬局なので最低限の量しか処方できないことを伝えても…
「地域医療支援病院とか掲げて恥ずかしくないの?」
「こんな低レベルの医療しかできないのは。こんな医者しかいないなんて…」
「もっと医療設備がいい他県に引っ越したい」
と聞く耳を持ちません。
B医師は込み上げてくる怒りをこらえて、「夜間などの緊急時は、小児科医は重症例のみを担当することになっています。小児科医も人手が限られているため、どうしても小児科医による診療をというのでしたら、明日、日中の時間で来院するようお願いいたします」と丁寧に伝えました。
しかし……
「小児科医じゃないと意味がないのよ!早く呼びなさいよ!
の1点張りで、怒りはますますヒートアップ。他の患者も呆気にとられて、一時救急外来そのものがストップしてしまいました。
要求はエスカレート…必要のない「血液検査」までする羽目に
すると偶然にも、別の救急隊から、痙攣が15分持続する別の3歳女児Dの受け入れ要請がありました。B医師は、この症例は入院が必要で小児科専門医の対応が不可欠であると判断し、その日の当番である小児科医Cに診療要請を行いました。
この会話を聞いていたAの母は
「痙攣なんて、たいしたことないじゃない。」
「ほっとけばいい、どうせ助からないんだから」
と言い放ちます。
医療倫理で規定されている公平性・公正性を欠く発言であり、救急外来に居合わせた医療スタッフはもちろん、患者まで不快感を覚えました。
10分後、当番の小児科医Cと痙攣が持続している救急搬送された女児Dが、ほぼ同時に到着しました。
B医師からこれまでの経緯を伝達した小児科医Cは、緊急処置対応を行います。顔面蒼白で白目をむいて痙攣しているDの身体に素早く点滴をとり、酸素投与をしながら痙攣発作を止める薬を注射。
まるで神業のようで、Dの症状は劇的に改善し意識も戻りましたが、原因検索と経過観察のために入院対応となりました。
頭部CT検査や病状説明などで、小児科医Cが救急外来に戻ってくるまで約30分。そのあいだもAの母親はその場を動きません。結局、戻ってきたCが全身状態が良好な女児Aを診察しました。
しかし、話すことは当直医と同じです。
「風邪の一種だと思いますので、自宅で経過観察しましょう。お大事になさってください」。やんわりと帰宅を促しましたが、Aの母親は引きません。
「なんでそういう根拠があるのよ。採血とかウイルスの検査とかなぜやらないの。やらないならやらない根拠を言いなさいよ」
と要求はますますエスカレートします。
らちが明かないので、やむなくCが女児Aの血液検査・ウイルスの迅速検査を実施することになりました。
しかしAの母親は、「Aに危害が加わらないか、しっかりと監視したい」とのこと。なんとかなだめ、別室で待ってもらいました。
子どもの採血は難易度が高く、針を2回3回刺すことも珍しくありません。結局、女児Aには採血は2回実施し、迅速検査は鼻と口に4回綿棒を入れました(RSウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、溶連菌の迅速検査)。
小児科患者の採血をするときには、両親は別室待機が基本です。
肘にばんそうこうを2つ貼って戻ってきた子どもをみたAの母親は…
「この人殺し。子どもを実験台にしないでちょうだい。」
「専門医のくせに1回で取れないんだ」
とここでも暴言を吐きます。
最終的には、血液検査の結果も「よくある風邪のウイルス」と判明。4回鼻と口から採取した迅速抗原検査もすべて陰性で、女児Aと母親はしぶしぶ帰宅されました。
モンスターペイシェントに“頭ごなしの否定”はNG…冷静な対応が必須
今回の事例のように理不尽な要求をしたり暴言を吐いたりする患者さんやその家族(=モンスターペイシェント)は、小児科にかかわらず一定数いるのが現実です。
自分自身が満たされていないため、特別扱いを要求するのでしょうか。こういった患者さんは頭ごなしに否定せず、そのような状態になっている理由を見出した上で、最終的には毅然とした態度で冷静に説明し、他のスタッフと連携して対応することが大切です。
- 著者:
武井 智昭/高座渋谷つばさクリニック 院長
小児科医・内科医・アレルギー科医。2002年、慶応義塾大学医学部卒業。
多くの病院・クリニックで小児科医・内科としての経験を積み、現在は高座渋谷つばさクリニック院長を務める。(編集:株式会社幻冬舎ゴールドオンライン)
- 提供:
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