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クリニック経営の成功のため、意識しておきたいこと【クリニック関係者必見】

クリニック経営の成功のため、意識しておきたいこと【クリニック関係者必見】

今回は、富士通Japan株式会社よりコラムを提供いただきました。富士通Japan株式会社は、「Fujitsu Healthcare Connective Place」というオウンドメディアを運営されています。

今回のコラムでは、「クリニック経営を成功させるためには-患者から選ばれるクリニックのための開業前準備-」と題してお届けします。クリニック経営における「成功」と聞かれて、皆さんはどのようなものをイメージされるでしょうか。患者数が右肩上がりに増え続けること。豊富な資金・人材が常にあること。最新の環境・設備が整っていること。色々なイメージが湧いてくることでしょう。中には、「失敗以外は成功」だと定義づける方もおられるかもしれません。このコラムでは、クリニック経営における「成功」とは何か、そして意識しておくべきポイントは何かについて、日本経営ウィル税理士法人が関わった過去の開業事例を基に考えていきます。 

クリニック経営における「成功」とは?

これから開業される先生方は、クリニック経営を成功させるために、セミナーに参加されたり、既存クリニックの見学をされたり、お忙しい日々を過ごしていると思います。開業地探索、機器選定、資金計画、人員計画、広告選定、行政手続など、開業に向けて考えなければならないことが多々ある中で、我々は、開業前に、ご自身のクリニック経営における「成功」とは何か?をイメージしていただくことをお勧めしています。イメージを深めるために、まずは、一般的なクリニック開業医のライフステージについて考えてみましょう。

クリニック開業医の一般的なライフステージ

クリニック経営は、院長のご年齢や、ライフステージに沿って変遷します。我々は、そのライフステージを開業期、成長期、成熟期、承継期と呼んでいます。開業期は資金調達・集患・事業展開。成長期は収益改善・分院展開・医療法人化。成熟期は老後資金準備・承継計画。承継期は事業承継・M&A・相続対策。といった形で、各ライフステージにおいては様々な経営課題が発生します。一代で閉院するクリニックもありますが、別の医師へと承継した場合は、同様のサイクルで変遷を繰り返すことになります。その先にある「成功」の姿は、当然、人によって異なるものです。

「成功」の定義によって経営方針や計画は変わる

病院や介護事業所、特に法人形態の医療機関・介護施設の場合は、永続的に事業を継続させることが至上命題であり、それが事業としての「成功」の定義となることもあります。一方でクリニックの場合は院長個人の考え方によって様々な「成功」の定義があり、それをどのように捉えるかによって経営方針や計画が変わると言っても過言ではありません。ここでは、四つのケースにおいて、どのようなポイントで経営していくのがよいか考えてみましょう。

ケース(1)資金を多く残したい
 一つ目のケースは「資金を多く残したい」です。意識しておくべきポイントは「残る資金と納税額とのバランス」です。
残る資金≒利益と捉えてみましょう。利益を最大化するには、収入を増やすか、支出を抑えるかのどちらかになります。利益が多いと納税も多くなりますが、税制上、手元に多くの資金を残すためには、納税を減らすことだけに重きを置いて必要以上の支出をするのではなく、納税が伴うとしても利益を多く残すことが有効と言えます。例えば、簡略化してお伝えすると、利益1,000万円に対して40%課税される状況であったとして、利益1,000万円に対して1,000万円の支出をすれば利益は0円、利益に対する税金も0円となるため、手残り資金はなくなります。一方で、利益1,000万円がそのまま残った場合は、税金は400万円課税されますが、残る600万円は手元に残り、将来に備えることができます。必要な支出はクリニック経営を充実させるためには大事なことですが、納税額を減らそうと無理に支出を捻出するのは、かえって手元資金の枯渇を招く恐れがあります。必要な支出は何かを見定め、また、資金を何年後までにいくら貯めたいのか、あるいは、何歳までに老後資金を確保して勇退したいのかなどをイメージした上で、納税額とのバランスのとれた計画を立てることが大切です。開業時に作成する「事業計画」もそのツールの一つであり、事業計画は数年に一度見直し、目標と実績が乖離した場合は、当初目標を達成するためにどのようなアクションをとるのかを検討することになります。

ケース(2)事業拡大をしたい
 二つ目のケースは「事業拡大をしたい」です。意識しておくべきポイントは「事業拡大の理念(理由)を明確にする」と「出口戦略を考える」です。
クリニックの事業拡大としてイメージしやすいものは、クリニックの軒数を増やす分院展開や、同一クリニック内で介護事業等を行う事業展開があります。いずれも、院長一人ではなく、分院長、施設長や事務長といった第三者を伴う形式となります。「なぜ事業拡大をするのか」、例えば、広い地域に当院の治療を広げたい、患者にワンストップの医療・介護サービスを提供したい、など、事業拡大の理由を明確にし、理念まで落とし込むことによって、その理念に共感した方々に協力を仰ぎやすくなります。また、院長個人としては事業拡大を行いたいとしても、院長が勇退した際に誰に引き継ぐのか、あるいは引き継ぎがないのか、出口戦略を考えておくことは大切です。承継者がご子息である場合もありますが、第三者の分院長や施設長に引き継ぐ場合もあります。新たな事業を始めるということは、地域の患者や利用者に対しても新たな場を提供するということでもあるため、自分一代で事業を閉じたいのか、あるいは、次の世代に引き継ぎたいのかといった出口戦略も考えた上で、事業拡大を進めることをお勧めします。

ケース(3)プライベートを大事にしたい
 価格交渉が進み、三つ目のケースは「プライベートを大事にしたい」です。意識しておくべきポイントは「措置法適用の検討」です。
クリニック経営で一般的に言われる措置法とは、租税特別措置法第26条を指すことが多いです。措置法第26条は概算経費率とも言われる特例で、社会保険診療報酬が年間5,000万円以下の場合に、実際に支払った経費の額ではなく概算で経費計算ができる制度です。収入に対して経費の割合が大きいクリニックを除き、この制度を使うと税制上は有利となる場合が多いです。そのため、社会保険診療報酬を年間5,000万円以下になるように診療時間や診療日を敢えて抑えて、プライベートの時間を確保しつつ、税負担を最小限に止める方針のクリニックもあります。こういった特例も用いながら、「投下時間あたりの利益」を最大にしたいというのも、クリニック経営の一つの在り方と言えます。また、院長だけではなく、スタッフにおいても仕事とプライベートとの両立を図りたいという声が多くなってきており、中には、医療機関でありながらも「週休3日制の実現」を当面の目標に掲げ、最新の電子カルテの導入、ICT機器を用いた院内オペレーションの改善、キャッシュレス決済などを積極的に進め、徹底的に業務効率化を図っているクリニックもあります。この流れはコロナ禍により加速化されたと考えられており、今後も進んでいくと思われます。

ケース(4)次世代に続くクリニックを作りたい
 四つ目のケースは「次世代に続くクリニックを作りたい」です。意識しておくべきポイントは「承継者にとって魅力のあるクリニック経営の維持」です。
このケースは、ご両親などから承継開業された先生に多く見られます。先人から歴史あるクリニックを引き継ぎ、自らも次の世代へ引き継ぎたいと考えておられるケースです。次世代への承継を前提に経営するということは、引き継ぐ側にとって魅力のあるクリニック経営を維持するということです。具体的には、多くの患者を診ている。患者からの評判が良い。他院と異なる特徴があり差別化できているなどです。引き継ぐ側の先生から見ると、別の場所でゼロから開業するよりも、既存のクリニックを承継し開業したほうが立ち上がりは早いというメリットがあるからこそ、引き継ぎたいと考えるものです。そのためには「自院にとっての強みは何か」を定期的に分析しておく必要があり、その一方で、認知度を上げるようなプロモーションを継続することも大切です。かつては看板や電柱広告などが中心でしたが、今や、インターネットを通じての認知度向上や、医院と患者をつなげるためのSNSでの情報発信が活発に行われています。来院理由も、家族や知人からの口コミだけではなく、ホームページの閲覧がきっかけとなりクリニックに足を運ぶ患者も多くいます。そのような「攻め」の視点だけではなく、インターネット上の口コミ対策、職員の離職防止など、「守り」の視点もクリニック経営には必要です。

クリニック経営の成功のため、意識しておきたいこと【クリニック関係者必見】

開業時に自分なりの「成功」の定義やライフプランを描いておく

以上のケースのように、クリニック経営においては「成功」にも様々な捉え方があり、意識しておくべきポイントはそれぞれにあります。また、今後クリニック経営を行っていく上で「成功」の定義が、開業時に思い描いたものから変わることがあるかもしれません。それは、クリニック経営が院長のライフステージに沿って変遷するものであることを踏まえると、自然なことであるとも言えます。自分にとっての「成功」とは何なのかを日々考え、それを実現するための経営を探求し続けることもクリニック経営の醍醐味の一つだと仰る先生は多くいらっしゃいます。

ご自身がどのようなことを実現したくて開業するのか。将来的に、ご自身やご家族、従業員や患者のことを考えた時に何を果たすことができれば「成功」と思えるのか。そのためにはどのような環境、どのような行動が必要となるのか。それらのイメージを開業時にできる限り深めておくことが、クリニック経営での「成功」への近道ではないでしょうか。

著者・監修:日本経営ウィル税理士法人
発行元:富士通Japan株式会社
本稿の内容に関する一切の責任は日本経営ウィル税理士法人(https://nktax.or.jp/)に帰属します。また、本稿掲載のいかなる部分も一切の権利は日本経営ウィル税理士法人に所属しています。
なお、内容につきましては、一般的な法律・税務上の取扱いを記載しており、具体的な対策の立案・実行は税理士・弁護士等の方々と十分ご相談の上、ご自身の責任においてご判断ください。

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