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いまさら聞けない「インボイス」…「開業医」は登録すべきか【税理士が回答】

いまさら聞けない「インボイス」…「開業医」は登録すべきか【税理士が回答】

いまさら聞けない「インボイス」シリーズ第2弾の今回は、「インボイス」と「開業医」の関係について。消費税が非課税となる診療等の収入がほとんどの開業医であっても、「適格請求書発行事業者」の登録は必要なのでしょうか。税理士法人メディア・エス社員税理士の田中康雄氏が解説します。

関連記事…いまさら聞けない「インボイス」…“制度の基本”と“注意点”を税理士が解説





開業医も「適格請求書発行事業者」の登録は必要か

クリニックを経営するドクターにとって、インボイス制度のスタートに合わせて「適格請求書発行事業者」の登録をする必要があるのかどうか、気になるところかもしれません。

これまで消費税が非課税となる診療等の収入がほとんどで、消費税の申告が必要ではなかった免税事業者が、適格請求書発行事業者として登録をする場合と、登録をしない場合とではどのような違いがあるのでしょうか。

現在すでに課税事業者であるケースと、免税事業者のケースとに分けて、それぞれ適格請求書発行事業者の登録すべきか否かについて検討してみることにします。

CASE1:すでに課税事業者の場合

自由診療や検診など消費税が課税される収入が年間で1,000万円を超える場合には、消費税の課税事業者となります。すでに課税事業者となっている場合には、適格請求書発行事業者への登録そのものが消費税の申告手続きに直接影響を与えるわけではないため、登録することへの抵抗はそれほどないといえるかもしれません。

ただ、課税事業者だからといって適格請求書発行事業者の登録をしなければならないということではなく、また、適格請求書発行事業者に登録しているからといって必ず適格請求書を交付しなければならないというわけでもありません。

しかし、たとえば、集団検診などの実施先が一般企業などの場合には、その相手先が消費税の申告をする際、受け取った適格請求書を使って仕入税額控除の適用が受けられるのであれば、納税額が減り、申告上有利になるといえるでしょう。

そのため、適格請求書発行事業者として登録をした場合には、相手先が仕入税額控除の適用を受けられるようにしておく必要があります。また、相手先から適格請求書の交付を求められたときにはこれに応じる必要もあるため、一定の記載要件を満たした適格請求書が発行できる準備をしておく必要があるといえるでしょう。

CASE2:免税事業者の場合

インボイス制度は、あくまでも「相手先がその支払いに対して仕入税額控除を適用できるかどうか」という消費税の申告に関する制度です。

つまり、インボイス制度は、消費税の課税事業者同士の制度であって、領収書やレシートを手渡す相手の多くが一般の個人消費者であるような場合には、インボイス制度が開始されてもその影響は、ほとんどないといえるでしょう。

つまり、売上の相手先が個人消費者であるにもかかわらず、免税事業者だった事業者が適格請求書発行事業者の登録をしてしまうと、必ず消費税の課税事業者となってしまい、消費税の申告をしなければならなくなります。そうなれば、納税という金銭的な負担が増えるだけではなく、消費税の申告という事務的な負担も増えることになってきます。

ただ、こうした負担以上に相手先からの要望に応じるため適格請求書発行事業者を選択せざるを得ないケースも少なくありません。ここからは、こうしたことが想定されるケースについて考えてみることにします。

考察:インボイス制度による免税事業者への影響

課税事業者か免税事業者かというのは、消費税の課税の対象となる収入が年間で1,000万円を超えるかどうかで判定します。これは、インボイス制度が開始しても変わることはありません。

そして、消費税の課税事業者にとっては、購入した物品や提供を受けたサービスに対して「仕入税額控除を適用できるかどうか」で納税額に影響が出てきます。

たとえば、建設現場などでは、下請業者が元請業者から仕事を受注するというのが一般的な仕事の流れとなりますが、こうした下請業者などにとっては、適格請求書発行事業者を選択するかどうかによって、元請業者から仕事をもらえるかどうかの重要な選択肢のひとつになるといえるでしょう。

ドクターという極めて専門性の高い職種では、適格請求書発行事業者かどうかによって、同じような局面になることはあまり考えにくいことかもしれません。

しかし、業種によっては免税事業者であることが仕事の受注減少に直接つながってしまう恐れがあるということも否定できません。

免税事業者が適格請求書発行事業者となった場合の特例

支払先が免税事業者であることを理由に、一方的に取引条件の見直しを強要し、不当に不利益を与えてしまうと、独占禁止法上の問題に発展する可能性があります。しかし、取引条件の見直しそのものが問題になるというわけではないため、消費税相当分の値下げや取引の減少を求められてしまうこともあるでしょう。

そこで、適格請求書発行事業者に登録せざるを得ない状況を、税制面から少しでもサポートするため、免税事業者が適格請求書発行事業者となった場合に限り、特例としていわゆる「2割特例」という制度が期限付きで新設されました(令和5年度税制改正)。

具体的には、納税する金額を単純に売上に係る消費税の20%相当にするというものになります。

▶参考:インボイス制度、支援措置があるって本当!? : 財務省 (mof.go.jp)

ほとんどのケースでは通常よりも納税が抑えられ、また、単に収入だけを集計すれば納税する金額が算定できるため、金銭的な負担とともに事務的な負担も軽減することが期待できます。

まとめ:適格請求書発行事業者への登録は慎重に

免税事業者が適格請求書発行事業者を選択することに必ずしもメリットがあるとはいいきれません。

免税事業者が適格請求書発行事業者の登録をしてしまうと、必ず課税事業者となってしまい、いずれは適格請求書を発行するためのシステム改修も必要になってくるでしょう。こうした金銭的・事務的な負担という点を考えれば、むしろデメリットのほうが大きくなるといえるかもしれません。

しかし、適格請求発行事業者を選択せざるを得ない状況になってしまった場合には、せめて税制面からの優遇を受けるため、税務上の特例を活用することも登録への検討材料のひとつになるといえるでしょう。

著者:
田中 康雄
税理士法人メディア・エス 社員税理士
編集:株式会社幻冬舎ゴールドオンライン
提供:
© Medical LIVES / シャープファイナンス

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