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〈インボイスシリーズ〉負担は増えたが、見返りはなし!?…制度がはじまって判明した「関係者全員が頭を抱える」3つの問題点【税理士が解説】

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〈インボイスシリーズ〉負担は増えたが、見返りはなし!?…制度がはじまって判明した「関係者全員が頭を抱える」3つの問題点【税理士が解説】

※画像はイメージです/PIXTA

昨年10月からはじまった「インボイス制度」。導入前から賛否両論あった本制度については、マニュアル作成など対応に追われている事業者も多いでしょう。シリーズ第3弾の今回は、制度がはじまって判明した「インボイス制度の実際」について、税理士法人メディア・エスの田中康雄税理士が解説します。

インボイス制度で新たに作られた「適格請求書」のルール

消費税を申告する際には、売上に係る「仮受消費税」から仕入や経費に係る「仮払消費税」を差し引いて計算します。この差し引くことを「仕入税額控除」といいますが、インボイス制度開始後は「適格請求書」と呼ばれる請求書や領収書、レシートなどを保存しておかなければ、仕入税額控除を適用することができません。もし保存がなかった場合、適格請求書を受け取る側(=買い手)は納税額が増えることになります。

他方、請求書や領収書等を渡す側(=売り手)も、「適格請求書発行事業者」となって、買い手のために一定の記載要件を満たした適格請求書を発行することが求められます。適格請求書は、「適格請求書発行事業者」として登録番号の通知を受けた事業者(登録事業者)だけが発行できるためです。

また、適格請求書には、消費税に関する正確な情報を相手に伝えるため、「適格請求書発行事業者」であることを示す「登録番号」とともに、適用税率やその税率ごとの税額を明記しなければなりません。

インボイス制度開始後に判明した「メリット」とは?

2023年10月からはじまったインボイス制度は、主に消費税を申告する事業者のための制度です。
このため、一般消費者にはあまり直接的な影響はなく、この制度がはじまっても世間では大きな混乱はありませんでした。一方、経理の分野では、仕入税額控除の適用を受けるためインボイス制度への適切な対応が求められることとなりました。

インボイス制度のメリットは“ほとんどない”

インボイス制度がもたらすメリットは、ほとんどないといえるでしょう。あえて挙げるとすれば、これまで領収書だけでは消費税の課税対象かどうか把握できなかった取引が、消費税に関する情報の記載が求められる適格請求書によって容易に判断ができるようになったこと、くらいかもしれません。

また、登録事業者ではない事業者との交渉により、上乗せされていた消費税分の値引きに応じてもらえたというケースもあります。主に不動産の賃貸の場面でこうした動きがみられるようですが、買い手にとってはメリットでも、売り手にとっては収入減となります。インボイス制度によって、買い手・売り手ともにメリットを享受できるということは考えにくいかもしれません。

負担増も、見返りなし!?…インボイス制度のデメリット

インボイス制度の導入によるデメリットといえば、会計処理の方法や書類の保存方法、請求書の様式などの見直しによる事務負担の増加に尽きます
ただ、いくら手間が増えるとしても、納税者にとっては無駄な税負担を避けるため、仕入税額控除を受けるためのルールに則った処理を進めざるを得ません。

そのほかにも、下記のような問題点が挙げられます。

①「登録番号」の記載箇所がバラバラ

登録事業者の登録番号が記載されていない請求書や領収書は、適格請求書には該当せず、仕入税額控除を受けることができません。
そのため、まずは請求書等に記載されているはずの登録番号を探していくことから会計処理を進めていくことになりますが、登録番号の記載箇所に決まりはありません

請求書や領収書の場合、発行側の社名のすぐ下に記載されているケースが多いですが、レシートの場合、紙面の上欄にあったり下欄にあったりなどバラバラです。そのため、登録番号を見つけるまでに無駄な時間を費やしてしまうというのが経理側での悩みのひとつとなっています。

②宛名が「従業員」の領収書は控除できない

また、インボイス制度で注意が必要なのは、領収書等の宛名が会社名ではなく従業員等の個人名で発行されていると、宛名以外の部分が適格請求書の要件を満たしていたとしても、仕入税額控除の対象にはできないということです。

たとえば、従業員がかかりつけの病院で健康診断を受けた場合、その領収書の宛名は個人名になります。しかし、会社がこれを「福利厚生費」として負担し、さらに仕入税額控除を受けようとするには、従業員が会社宛てに「立替金精算書」を作成し、これに領収書を添付して精算する必要があります。

従業員にとっては面倒なひと手間となるため、今後は登録事業者以外のドクターであっても、経過措置(以下③参照)があるうちは、健康診断や予防接種を受けた患者から会社名に変更した領収書等の再発行をお願いされることもあるかもしれません

③登録事業者以外の店が使われなくなる危険性がある

登録事業者以外との取引であっても、当分のあいだ、一定の割合で仕入税額控除ができる経過措置があります。しかし、接待で飲食店などを使うときなど、「登録事業者であることを確認したうえで店を選ぶように」と従業員に通達している会社も出始めています。

職種上ドクターがこうした影響を受けるということは考えにくいですが、会社側に店の選択権がある以上違法性はなく、こうした動きが広がると登録事業者以外の事業者にとっては、インボイス制度の導入によって少しずつ売上減少につながることになります。事務負担ばかりではなく、経済的な不安が現実化してきているのです。

まとめ

消費税の課税事業者が仕入税額控除を受けるには「適格請求書」を保存しなければならないこと、そして適格請求書でなければ仕入税額控除を受けることができないというルールは、今後も続くでしょう。

しかし筆者は、インボイス制度によって手間やコストばかりが事業者に押しつけられ、その見返りはなにもないように感じられてなりません。登録番号のほか、一定の要件を満たした適格請求書の交付が売り手側に求められることも変わることはありませんが、現時点ではすべての発行事業者が正確に対応できているわけではなく、足並みが揃うにはまだまだ時間がかかりそうです。

著者:
田中 康雄(編集:株式会社幻冬舎ゴールドオンライン)
【税理士法人メディア・エス】社員税理士
法人税、消費税を専門とし、上場企業から中小企業まで税務業務を担当。資産税関連も含め、税務専門誌に多数執筆。
提供:
© Medical LIVES / シャープファイナンス

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