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過去30年経験のない「大インフレ時代」到来…資産防衛に「外貨」が必須なワケ

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過去30年経験のない「大インフレ時代」到来…資産防衛に「外貨」が必須なワケ

昨年、ウクライナ侵攻をきっかけに幕を開けた「大インフレ時代」。物価上昇が続くものの給料は上がらず、我々の生活を圧迫しています。そんななか、資産防衛術として視野に入れたいのが「外国債券」だと、FP office株式会社の髙屋亮FP(ファイナンシャルプランナー)はいいます。日本が置かれている現状と外国債券投資のメリット・注意点についてみていきましょう。

インフレなのに国内景気が回復しないワケ

「こんなに物価が上がるものなのか」……現在40代以下の人は、そう感じているはずです。

高度経済成長期には、所得上昇とともに年7%程度のインフレ(物価上昇)の好循環がありましたが、1990年頃、バブル景気のインフレ3%強を境に日本は景気後退へ向かい、1999年には物価の前年比がマイナスに。

その後、20年以上にわたって大幅な物価上昇はなく、「物価が変わらない」あるいは「物価が下がる」というのが私たちの平時の認識となっていました。

そんななか、突如始まったのが現在のインフレです。2022年初頭のウクライナ侵攻を皮切りに、エネルギー資源や穀物をはじめとした世界の貿易体制に混乱が生じ、各資源を輸入で賄っている国の輸入コストが急騰する事態に陥っています。

OECD諸国では、2022年春以降から消費者物価指数が前年同月比8~9%上昇し、国内でも昨年は平均で2.5%ほど、直近2023年3月時点では3.2%と、家計を圧迫しています。

日銀は2013年に「物価安定の目標」として前年比上昇率を2%と定めていましたが、ここでひとつ疑問に思われるのは「では、日銀は目標を達成したのか」という点です。“事実上の達成”という論調で政策変更を迫るような記事もありますが、結論からいうと「まだ目標達成はしていない」が正しいでしょう。

経済用語では、「インフレ=継続的な物価上昇」、「デフレ=継続的な物価下落」とされていますが、実はこれが前述の誤解を生む要因となっています。

本来の語源から考えると、「インフレーション」という単語は「膨張」という意味です。つまり、モノ・サービスの供給以上に欲する側の需要が膨らむと供給が不足し、そのギャップを埋める過程で価格が上がり、均衡を保とうとするサイクルが一般的なインフレです。

しかし、「物価上昇=需要膨張」かというと、そうとは限りません。昨年から日本国内においては、“経済は停滞しているが物価は上昇する”という「スタグフレーション」の様相を呈しています。

今般の物価上昇は原材料高騰による「コストプッシュ型インフレ」と呼ばれるものですが、これが海外からの輸入資源が要因の場合、国内景気を回復させる要素はまったくないのです。国内景気を表すGDPに、この輸入費用は含まれていません※。輸入された商品を購入する消費者も、同じ財を高く買った分、支出を控えるマインドに向かうため、むしろ国内景気の需要収縮(デフレーション)に拍車をかけます。

※たとえば、1,000円の原材料に100円の価値を加えて1,100円の商品を販売していた国内業者が、原材料の輸入資材100円アップを受けて1,200円で販売しても、コストが上がっただけで利益は100円のまま。輸入費のアップは、輸入元の所得が増えるだけです。

この状況下で「インフレ2%達成だから金融引き締めを」とは、日銀もならないでしょう。

「生産(付加価値)=分配(所得)=支出(需要)」という三面等価の原則※からわかるように、あくまで需要が膨らみ、企業の生産が増え、国民の所得が上がるという好循環のなかで2%物価が上昇するのが望ましいのであり、単に物価さえ上がればいいというわけではないのです。

※三面等価の原則……経済はモノ・サービスの生産⇒生産されたモノ・サービスの分配⇒分配された価値の支出の循環により成り立っていることから、GDP(国内総生産)を生産・分配・支出という3つの観点からみたとき、これらは常に同じ金額になるという法則。

“大インフレ時代”に選択肢に入れたい「外国債券投資」

物価上昇が与える影響

そもそも、物価上昇が与える影響はどの程度なのでしょうか。「72の法則※」によると、物価上昇1%であれば、72÷1(%)=72年後に、物価上昇2%であれば、72÷2(%)=36年後に物価が2倍になることが掴めます。

※72の法則……72を年利の値で割ると、元値から2倍になる年数がわかるという法則。

現在の輸入コストのインフレが続くことはないと願いたいものの、直近の3%程度で物価が上昇すれば72÷3(%)=24年後には物価が2倍になります。

そうすると、仮に生前贈与などで若くから2,000万円保有していたとしても、それが0.001%の預金であれば金利はゼロ同然、24年後の貨幣価値は額面半分の1,000万円になってしまうということです。

では、我々日本人はどうすればよいのでしょうか。家計見直し、NISA、iDeCoなど、世帯によってすべき対策は異なりますが、筆者は「保有資産が物価上昇に負けないための対策」として「外国債券」を提案します※。

※外国債券にも種類がありますが、ここでは10年国債をベースに考えます。

外国債券が有効な選択肢といえるワケ

2023年5月某日時点の10年国債利回りをみると、欧米は以下のようになっています。

ドイツ……2.3%

フランス……2.9%

イギリス……3.8%

アメリカ……3.5%

なお、より高い例ではトルコが9.9%、ロシア10.7%、アフリカでは15%前後、最も高いザンビアでは30.3%となっています。

一方、日本はというと、昨年末日銀が上限金利を引き上げたものの、現在も上記の世界各国と比べて極めて低い0.3%程度です。こうなると、使わないお金を円で保有するよりも、利息と元本が保証されている外国債券のほうが有効な選択肢となってきます。

米国を例に…外国債券投資のメリットと注意点

では、世界の基軸通貨であり、GDP世界トップである米国の債券を例にみてみましょう。

2022年、米国は急激なインフレを抑えるために金融引き締め(利上げ)を行い、10年米国債は年始の1.8%から10月には2008年以来の4%超まで一気に上昇しました。今年3月に米シリコンバレーバンク破綻という副作用も起きる等、利上げが収束する見方も出てきたものの、5月現在も3.6%程度を推移し、年内引き下げの見解はまだ出ていません。先述した72の法則に当てはめると72÷3.6(%)=20と、20年で自分の資産が2倍となり、インフレに対抗しやすくなります。

懸念点は為替リスクですが、外貨の伸び率で換金時の円レートを割ると、損益分岐点がわかります。

1ドル=100円時に1ドル買い、20年後に2ドルになった際、購入時レート100円を逆に2で割ると50円。つまり換金時レートが1ドル=50円まで円高になると、2ドル×50円=100円となり、元本に戻ります。

利率保障の10年間3.6%なら1.42倍なので、購入時レートが1ドル=135円だとしたら、135円÷1.42=95円で、1ドル=95円が元本割れラインとなります。

過去に2度ほど80~90円台だったこともあるため注意が必要ですが、為替は円安・円高を行ったり来たりすることが通例ですから、今般の円安で輸入物価に苦しんだ世帯も、ドル資産を一部保有していればドル高の影響で資産が増え、円に換えることも可能です。

とどのつまり、投資をする場合は多少の波があっても待っていられる余裕範囲で行うことが重要です。

また、為替のみでいえば、円高で買い円安で売りたいところですが、得たい利率まで考慮すると、これは相反するものと考えておくといいでしょう。

今般も日米金利差が開くと投資家が高金利を求めて円をドルに換えることで為替が円安へ加速し、2022年10月には1ドル=150円まで付けました。基本的に【米金利高→円安】、【米金利低→円高】の相関関係があります。

もうひとつ、カントリーリスクとしては「金利が高い=リスクが高い(傾向)」という側面があります。より高い利率の国は「それだけ高い理由はなにか」を十分に注視すべきです。

個々の国の未来は明言できませんが、過去の事例でいえば、トルコは2021年初頭の1トルコリラ=14.3円程度から同年12月に8.5円と、貨幣価値が実に6割程度まで急落。この場合、年10%で1年後にトルコリラで元本110%になったとしても、為替で円換算6割にすると元本の約65%に下がります。

こういったリスクを無視して、高リターンだけを謳う勧誘は鵜呑みにしないことが大前提です。

国の政策で健全なディマンドプル・インフレ(需要増による物価上昇)に向かい、国内全体が底上げされることを願いつつ、個人でできる対策を検討する一助になれば幸いです。

著者:
髙屋 亮(編集:株式会社幻冬舎ゴールドオンライン)
【FP Office株式会社】1級ファイナンシャル・プランニング技能士/CFP®

大手ハウスメーカー・個別指導塾・外資系生保と異業種での実務経験を積み、世帯のサポートを点から面へと拡げる必要性を感じ、独立系ファイナンシャルプランナーに転身。
人生における「三大支出」といわれる住宅・教育・保険の実務経験×上級資格を併せ持つ異色のFPとして、金融セミナーや学校現場の出張授業などで幅広い顧客層から支持されている。
提供:
© Medical LIVES / シャープファイナンス

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